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2007年8月 2日 (木)

NHK『松田聖子 女性の時代の物語』を見て思う。

Canary 松田聖子さんは、大学のとき結構聴き込みました。リアルタイムで彼女はアイドルではあったんですが、私はそれほどこの人のファンではなく、単なるアイドルの一人でした。聴き始めたきっかけは『瞳はダイアモンド』ですね。「私はもっと強いはずよ でもあふれて 止まらぬ涙は ダイアモンド」という部分の「私は」というところ、歌声がすごいなって。なんかね、女性の、というか人間の強さと弱さのぎりぎりのところで、倒れそうになりながらも、すくっと立っている感じというのでしょうか、そんな感じの声なんですね。

 この曲について言えば「あなたの傘から 飛び出した シグナル 背中に感じた 追いかけてくれる やさしさもない」という歌詞が、ちょっと嫉妬するくらいの言語感覚です。この歌詞は、言葉通りにとれば、男女がひとつの傘を差して歩いている。交差点にさしかかって、信号が黄色になる。女性は急いで渡ろうとする。でも、男性は青になるまで待とうと思っている。女性は、赤に変わる信号を背中に感じながら、走っている。男性は、そんな彼女を見ながら、彼女を追いかけることなく、ただ見ている。とまあ、そんなことですね。

 でも、この情景は彼女の心的風景でもありますよね。あっ、私、彼の傘からちょっと飛び出しちゃったな。なんとなく、そんなシグナルを背中に感じた。なのに、あなたはもう追いかけてくれるやさしさもないのね。というような。松本隆さんの作詞です。私は、松本隆さんの作詞は、聖子さんのものがいちばん好きです。きっと、松本さんにとっては、松田聖子作品は、彼のメインワークであったのだろうと思います。

 松本隆さんは『続・赤いスイトピー』という詞を書いて、松田聖子作品から離れます。あの曲を聴いて、ああ、ここまで結論づけていいのかな、と思いました。『赤いスイトピー』という曲は、初恋の歌、つまり、失恋を運命づけられた恋の歌です。翼のついたブーツでなければ、彼についていけない女の子の歌です。歌詞の中には明示されていないけれど、その恋が失われることを無意識で感じながらも、その恋を信じたいという不安定さがそこにあります。

 それは、大人の目線で描かれた、思春期の女の子なんですね。大人の目で見ると、この恋は終わるということが分かる。でも、それを描かないという手法だと思います。松本隆さんは、松田聖子作品とのかかわりを止めるときに、逆の言い方をすると、松田聖子というアーチストが松本隆という作詞家の世界から飛び出すときに、その先の世界に踏み込んだのだと思います。リアルタイムで聴いた感想で言うと、そこまでぶっちゃけてええのかな、という感じでしたが、『続・赤いスイトピー』は松本隆さんと松田聖子さんの別れの歌でもあるのでしょうね。

 番組でも触れていましたが、松田聖子作品の中で最も売れたのは、彼女が作詞した(※コメントでご指摘を受けました。松本隆さん作詞です。なので、以降の論は事実誤認の上での論考ですので、ご了承ください。失礼しました。2011.02.08)『抱いて』なんですね。松本隆という大人が描いた良質の女性の心性(たぶん、戦後思想が描いた理想の女性像でもあったのだとと思います。このことは、また改めて書きます)を懸命に演じたあとで、彼女が自分の言葉で女性を表現した曲ですね。その曲が、彼女の過去のヒット曲以上に、女性たちの心を捉えるのは、何か象徴的なものを感じます。

 番組を見ていて、松田聖子さんがなんとなく矢沢永吉さんと重なりました。なぜだろう。まだその理由がうまく言えないですが。それにしても、松田聖子さん、いつまでもきれいですね。

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コメント

『抱いて』は、松本隆の作詞ではないでしょうか?

投稿: | 2011年2月 6日 (日) 20:35

勘違いしておりました。ご指摘ありがとうございます。『続・赤いスイトピー』が入っている『Citron』に収録、88年発表ですね。松本隆さんが松田聖子プロジェクトから離れるのは、この後か。失礼しました。
http://wagamamakorin.client.jp/citron.html
ということは、もっと話は複雑になりそうですね。(本文にも注を入れました。)

投稿: mb101bold | 2011年2月 8日 (火) 01:02

永ちゃんと聖子ちゃんが重なる…激しく同意します!ジャンルは違えど、日本の音楽界、歌謡界を引っ張ってきた事実は覆すことは出来ない事実ですし、我が道を往く姿勢にも共通点を感じます。発言にも似たような発言が多々ありますよね。

投稿: 永作 | 2017年5月 2日 (火) 13:34

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