« 『永遠の三角形 Bill Evans Trioの音楽』ノート(9) | トップページ | 「モーニング娘。」が私に教えてくれたこと。 »

2007年10月28日 (日)

『永遠の三角形 Bill Evans Trioの音楽』ノート(10)

 ビル・エバンス・トリオの音楽を「三項関係の音楽」ととらえようとするのが本稿の狙いなのですが、ピアノトリオに限定して話をすすめると、大きく二つに分けられるのは、これまで話した通りです。つまり、リーダーであるピアニストとリズムセクションであるベース、ドラムの「二項関係」と、ピアノ、ベース、ドラムがそれぞれ対等な「三項関係」です。

 で、この「三項関係」は、力関係が対等な場合、正三角形を描くと思いますが、必ずしもビル・エバンス・トリオはそうではありません。これは、ビル・エバンスという音楽家の全生涯を俯瞰できるリスナーという特権的な立場だからこそ言えることですが、それぞれの時期で三点は様々な力関係を示していように思えます。初期と晩期ではまったく違うように私には思えます。では、やはりビル・エバンス・トリオは「二項関係」を超えるものではなかったのか。私は、そうではないと考えます。

2007y10m28d_211255421  要するに、「三項関係」を指向するということとは、三点を円周上に規定し、その三転が絶えず動き続ける「運動」なのではないかな、と思うんですね。なんとなく上手く言えていない気がしますが。図にするとこういうイメージでしょうか。理想として想定される正三角形は、「運動」におけるほんの一瞬でしかなく、もしかするとそれは、仮想される理想にすぎないのではないか、と考えます。また、「三項関係」であり続けるには、三点が絶えず互いの位置を注視しつつ動き続ける必要があり、動きを止めるとき、それは「二項関係」に収斂してしまう、そんな緊張感のある関係です。

 根本的に考えれば、三項というのは平面を構成する最小単位であり、これを私は、社会的関係を構成する最小単位でもあるのではないかと思うのですね。そして、この社会的関係(ほんとは関係と言い切ってしまいたいのですが)は、絶えず二項関係になりたがる。動きを止めたとき、すぐに平面=社会的関係ではない別の何か、それを、第三項排除理論では「暴力」なのでしょうが、そういうものに転化してしまうのではないかと思うのです。平面=社会的関係が、我々の日常であるとすれば、その平面性の破壊こそが、暴力のメカニズムであり、その暴力性というものは、ある意味権威でもあるので、見方を変えれば非常に安定感のあるものでもあるのでしょう。それは、もしかすると、いちばん居心地のいい世界であるのかもしれません。

 ジャズという芸術の過程において、ビル・エバンス・は、明らかに伝統とか権威の破壊者ではあったと思います。しかしながら、それは、所謂フリージャズムーブメントのように、モードジャズムーブメントのように、あるいはエレクトリックジャズムーブメントのように、あからさまな破壊のあり方ではありません。西洋音楽理論及びジャズ理論の延長線上にあり、しかも、その音楽は、スタンダード曲の解釈というジャズの伝統に則っています。しかし、そのビル・エバンス・トリオの目指す音楽の態度は、これまでの伝統とか権威を内部から徹底的に破壊するものであったと私は思います。

 その革命の精神は、キース・ジャレットというピアニストによって見事に継承されているような気がします。そして、正三角形への希求の強度は、私から見ると、キース・ジャレットの方が数段強く、もしかするとそれ以上は、人間の精神では限界ではないかと思うほどです。ジャック・ディジョネット、ゲーリー・ピーコックというエバンス共演者とともにするトリオが、キース・ジャレット・トリオではなく「Standards」であることからも、それは読み取ることができるような気がします。

Bill Evans Trio  Autumn Leaves
STANDARDS Autumn leaves

■『永遠の三角形 Bill Evans Trioの音楽』ノート
)()()()(5)()()()()(10

|

« 『永遠の三角形 Bill Evans Trioの音楽』ノート(9) | トップページ | 「モーニング娘。」が私に教えてくれたこと。 »

ビル・エバンス」カテゴリの記事

コメント

mb101boldさん、こんばんわ(^^)
最近よくジャズを聴くようになって、だんだんこのエントリシリーズの言いたいことがわかってきたような。
偶然なんですけど、私の夫が職場のひとたちとエバンスのトリオのような感じで仕事ができるようになんとかしてなりたい。というようなことを、この間申しておりました。ちょうどこのエントリにある、三角形が「くるっ」と回転するような感じのイメージなんだそうです。(今若い人が多くて育てるのが大変らしいです。)
そういう感覚って、どこでも一緒なのですね。生産的なコミュニケーションの秘密でしょうか。
ちかごろ私事でちょっとショックなことが多くて、(このご時世ですから)どんより気味でしたけど、そんなことがあってすこし元気になったので、元気ついでにコメントしてみました。
ではでは~

投稿: ggg123 | 2009年3月10日 (火) 21:30

ggg123さん、こんばんわ。
元気でなによりです。あんまり煮詰まるとよくないし、誰にでも闇はあるし、健やかさは元気の元だから。健やかさというのは、きっと自分で無理してつくるものだと思いますし。
私にとっては、この「永遠の三角形」というモチーフで書きたくてブログをはじめたようなもんですから。最近は、このあたりは持て余し気味で書いていないですけど。
エバンストリオのように仕事をしたいというのはわかります。なかなか難しいですけど。私も、それに近いなというのは数回しかないですね。実力の拮抗する人が集まらないと難しいし、しかも目的が共有されないとバラバラになるし。
ほとんどは私のリーダーバンドという感じ。それも、気は弱いけど我が強いリーダーのバンド。かなしいけどそれが現実ですね。

投稿: mb101bold | 2009年3月10日 (火) 23:41

>気は弱いけど我が強いリーダーのバンド

リーダーシップとは人をして困難なことに立ち向かわせる能力のことらしいです。ぼーるどさんの「我」が上手く伝わればきっとそうなりますよ。

投稿: ggg123 | 2009年3月11日 (水) 12:34

そうですね「我」をうまく(気持ちよく)伝えることは重要かもしれません。

投稿: mb101bold | 2009年3月11日 (水) 16:46

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/214429/16902384

この記事へのトラックバック一覧です: 『永遠の三角形 Bill Evans Trioの音楽』ノート(10):

« 『永遠の三角形 Bill Evans Trioの音楽』ノート(9) | トップページ | 「モーニング娘。」が私に教えてくれたこと。 »