「広告がおもしろい」ことと「おもしろい広告」は、きっと違うんだろうね。
おもしろい広告のすべてが、広告として効くとは限らないところが、広告のおもしろいところです。ちょっとレトリックっぽい書き方になってしましたが、このところ言われている「テレビCMの終焉」まわりで思うことを、つらつらと。
クリエイティブと営業の不毛な論議とか、クライアントと広告会社のすれ違いは、きっとこういうところにあるのかな、なんて思います。広告という表現のうつわの中で、おもしろい表現がしたい、っていうのは広告クリエーターの表現欲の動機にはなっていると、自分も含めて思うんですが、これを営業とかクライアントから見ると、まあ、言葉が悪いけど、迷惑なんだろうなと。言葉が悪いけど、俺のカネでお前の表現欲を満たしてんじゃねえ、ということになりますね。
まあ、ちょっと待ってよ、という気持ちにはなりますし、その動機を否定してしまったら、あとは枯れ野原しか残らないよねえ、とは思いますが、一面の真理でもあると思います。
だけど、そういうクリエーターがつくりたがる「おもしろい表現」がなぜ広告に必要なのかと言えば、人は理屈じゃ動かないからなんだと思うんですね。消費者には必殺技があって、それは無視とか嫌悪なんですよね。外資系によくありがちな、理屈で追いつめていくようなCMが余り効かないのは、無視とか嫌悪とかが働くからですね。いわゆる「知的嫌悪」というやつです。人は理論で追いつめても駄目なんです。詰め将棋をやっても、消費者には将棋盤をひっくり返す権利があるんですよね。恋愛だって、人間関係だって同じでしょ。
じゃあ、広告は好かれりゃいいのかというと、そうでもなくて。いま「テレビCMの終焉」まわりでも言われていますが、「楽しい広告をありがとう。でも、僕は買いません」みたいなことになってしまうんです。で、考え方を変えてみよう、みたいなことが私の考え方。「おもしろい広告」をつくるんじゃなくて、「広告がおもしろい」ようなことを考えましょうよ、ということなんですね。
社会の必要として企業活動があって、その企業活動の必要として広告があるのだとしたら、企業や広告が、「おもしろい広告」をつくらなきゃいけない責任はさらさらないと思うけど、「広告がおもしろい」ようにするくらいの責任はあるんと思うんですね。これは、私に向かって問いかけているんですが、その広告行為は人にとっておもしろいのかどうか、素敵なのかどうか、みたいなことは考えて行かなくちゃいけないと思うんです。でないと世の中世知辛い。
いままでは、「広告がおもしろい」ために「おもしろい広告」を作ってきたんだけど、単におもしろいを追求するだけでは「広告がおもしろい」というふうになるという牧歌的な時代は、ちょっと前に終わってしまったんだと思います。今の時代で「広告がおもしろい」というふうにするためには、今までのやり方ではしんどいのかな、なんて思います。そして、「広告がおもしろい」という条件は、今も昔も、広告を機能させる絶対条件だと私は思っています。
企業が広告でコミュニケーションをしているという行為そのものが、社会からおもしろく、好ましく、共感を持って迎えられる。そんな広告をつくりたくて、私は、毎日苦戦しています。
| 固定リンク
「広告の話」カテゴリの記事
- 2年前に流れていたテレビCMから「かんぽ生命不正販売」を考える(2019.09.11)
- 映画と広告と文在寅政権(2019.09.06)
- 本を書きました。『超広告批評 広告がこれからも生き延びるために』池本孝慈(財界展望新社刊・9月1日発売)(2019.08.21)
- 『世界一のクリスマスツリーPROJECT』について僕が考えていたこと(2018.01.04)
- 東京糸井重里事務所を退職しました(2012.01.26)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
>mb101boldさん、こんにちは。
いつも愛読しています。
すごく良く分かりますし共感します。今は教育係みたいな仕事ですが、ドメドメのもと営業として。
ただ、これは暴論かもしてませんが「CMは機能していない」「面白い広告だけで商品は売れない」なんて逝ってる奴らの言うことを間に受けてはイケマセン。便所時間の例えを出すまでもなく、もともとCMなんかまともに見られていないのだし、商品の売れ行きとCMの面白さが比例しているなんてことはありませんから。20年以上も前からそんなことは分かりきったことです。だって「エリマキトカゲ」CMの某ミラージュ、全然売れなかったしね。
そーゆーことをしゃあしゃあと言うのは、自分のクリエイティビティのなさにコンプレックスを持つ出来損ないの広告人です(笑)
逆に「消費者は賢くなった」という言い方自体が、傲慢で人の大衆(普遍)性をバカにしていると思いますね。
投稿: tom-kuri | 2007年10月13日 (土) 21:23
tom-kuriさん、はじめまして。前にエントリを紹介いただいた方ですよね。その節は、ありがとうごまいました。
そうですね。広告はおじゃま虫ですからねえ。それに、人間なんてシェークスピアの時代からそんなに変わるものじゃないですよね。基本は、人間への敬意とか信頼をベースに広告をこさえていきたいなと思っています。
いろいろ元気のない広告業界ですが、お互い、なんとか元気にしていきたいですね。今後ともよろしくお願いします
投稿: mb101bold | 2007年10月14日 (日) 05:27