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2007年10月 5日 (金)

笑福亭鶴瓶は、フリージャズである。

 TBSが鶴瓶さんのトーク番組を延々と放送していますね。ドラマの番宣がらみで、さんまさんやら、長澤まさみさんやら、泉ピン子さんやら、武田鉄也さんやらが登場して、フリートークをするといった内容。トークの技能的には、鶴瓶さんは芸能人の中では下手な部類に入る人でしょうね。まあ、たどたどしく、いつまでたっても上手くならない人だなあ、と思いながら観ています。

 私は高校までずっと大阪で育ちましたので、思春期を鶴瓶さんを観たり聴いたりしながら成長した感じなんですね。私は昭和42年生まれですが、私の世代の関西人は、多かれ少なかれ鶴瓶さんに影響を受けてきた「鶴瓶世代」なんですね。ラジオで言えば、「ぬかるみの世界」や「ヤンタン」「わいのわいの90」。テレビで言えば「突然ガバチョ!」。

 それまでの大阪のスターと言えば、鶴光さんとか、三枝さんとか、ちょっと前なら仁鶴さんとか、独自の話芸を持ったオーソドックスなタイプの話家さん。でも、鶴瓶さんは、いままでとまったく違いました。なにせ、はっきり言えば、話芸なんてものがないんです。いわゆる、今で言うフリートーク。しかも、話芸としてのフリートークではなく、本物のフリートーク。めちゃくちゃです。話も「ガーっとなって、キーッとなって、キューっとなんねん。なあ、わかるやろ。」みたいな。ラジオでそんなこと言われても、わからんちゅうねん。

 でも、それが関西の若者の心をつかんでいくんですね。私もその一人で、夢中でラジオを聴いていました。話の内容も、いわゆる深夜ラジオにありがちな面白エッチ話ではなく、大阪弁でいうところの「うだ話」ですね。タクシーの運転手さんがこんなこと話してておもろかったとか、ときには真面目な政治の話とか、気の向くままにしゃべるんですね。

 それは、ジャズのフリームーブメントと同じなんですね。ジャズの理論が行くところまで行ったとき、フリージャズが誕生したんですね。これまでの理論とか伝統とかをぶっ壊すわけです。日本ではピアニストの山下洋輔さんとかサックスの坂田明さんですね。気の向くまま、思いのままにピアノを弾くわけです。サックスを吹くわけです。だけど、それは自分勝手に、というわけではなく、相手の音をものすごい集中力で感じながら。そこも、鶴瓶さんと一緒です。

 鶴瓶さんは、多くの番組で、年上の相手と組んでいます。放送作家の新野新さん、上岡龍太郎さん。それは、これまでの伝統的話芸の否定です。ジャズで言うところの、インタープレイですね。そういうある種のセッションとして会話に挑む鶴瓶さんですから、相手は相当なものを持っていなければならないんです。それが、インテリの新野先生だったり、上岡さんだったりするんでしょうね。上岡さんは、鶴瓶さんと話すときがいちばん面白いんです。他の人の時は、いつも相手が上岡さんに負けている。

 さんまさんも、ダウンタウンも、みんな、ある意味で鶴瓶の子供なんです。鶴瓶さんが切り開いたフリートークという道を走っているんです。前にも書きましたが、テレビ東京の「やりすぎコージー」で今田さんが東京の芸人を前にして「台本なかったら何もできない東京のヤツらに負けてたまるか。俺らはなあ、鶴瓶に教えてもうたんや。フリートークというやつをな。」と叫んでいましたが、まさにそれなんです。鶴瓶さんは、トークという分野で「フリー革命」をやった人だと、私は思います。

 今、鶴瓶さんは一生懸命落語に取り組んでますよね。「らくだ」を演ったり。それは、「フリージャズ」という軸で見るとよくわかるんですね。今、山下洋輔さんや坂田明さんは、ジャズの伝統に忠実な美しい演奏に回帰しています。つまり一周まわって、もう一度、基本に戻っているんですね。それは、きっと私は、ジャズ、そして、話のリアルを取り戻すためなのだろうと思うんです。それは、きっとフリージャズや、フリートークがジャンルになってしまったからだろうと私は思います。そして、自分の分野を省みると、広告というものは、すでに広告というジャンルになってしまっているんだろうなと、そんなふうに思うのですね。

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コメント

TBSの新番組紹介は、いつのまにか鶴瓶トークが恒例になってますね。4ヶ月ほど前に見たときは、織田裕二と話しているのが印象的でした。織田雄二は作品の「トーン&マナー」を大事にしていると言っていたし、鶴瓶は「テレビは辞めない。こんな柔らかいキャラで通しているからこそ、伝統的な落語を堅く堅くキッチリやってやろうと思う」と語ってました。なかなか濃いトークでした。

私も関西出身ですが、好きだった番組は「パペポ」と「らくごのご」です。ご覧になっていませんか?

音楽も芸事も、先輩にただついていけばいいのではなくて、自分のやりかたを見つけて先輩を超えていくような意識が大事なんでしょうね。伝統って、いったん距離を置くと、様式だったり形式の成り立ちがよくわかるのだと思います。うまく言えませんけど、写生大会で自分で絵を描いてみてから、ほかのウマイ人の絵を見ると、描き方のポイントがよく理解できるような感じでしょうか。描いたこともないのに、筆の使い方だけ教えてもらっても、描くことの面白さはわかないのかもしれません。

学校で教わることよりも、職場で教わることのほうが面白いと思うことが多いのですが、これってそういうことなのかもしれませんね。

投稿: そうちゃん | 2007年10月 6日 (土) 10:49

鶴瓶さんも思うところがあっての落語なんでしょうね。パペポ、らくごのごはもちろん見てますよ。ざこばさんが「つるべに負けたー」って泣いたこともありましたねえ。名古屋でやってたスジナシも面白かったらしいですね。今はきらきらアフロですね。

伝統とか形式って、極限までいくと壊すしかなくなるのかも。このへんの話題のとき、いつも枝雀さんのことを思い出します。

投稿: mb101bold | 2007年10月 6日 (土) 16:16

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