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2007年11月18日 (日)

世界の約58%は「美味しんぼ」で説明可能である。

 ドラマ「美味しんぼ2」のキャスティングに不満があるみなさま、こんばんわ。mb101boldです。うーん、なぜ、今ごろ「美味しんぼ」なんだろう。他になかったんだろうか。私の知らなかったところで「美味しんぼ」がブームになっていたのでしょうか。

 2ちゃんねるでは、パチスロ「美味しんぼ」を想像するスレが盛り上がってたのは知っているけど、それが要因か。栗田ゆうこ子さんのシャッキリポン演出出現で究極モード突入とか。山岡プロポーズ演出で成功すると、究極モードの上の継続率97%の至高モード突入とか。どれも5号機の規則では無理ですが打ってみたいです。まあ、原作者の雁屋哲さんはパチンコが嫌いだから実現の可能性はゼロですけどね。それにしても、あのドラマ、岡星さん年をとりすぎてるでしょ。二木まり子さん役の上原さくらさんはまあ許せるけどね。

 そんなことはどうでもいいんですが、世界の58%は「美味しんぼ」で説明可能です。すみません、嘘です。今回もタイトルを書いて見切り発車してしまいました。休日ですし、暇な方はこの先もどうぞ。最後まで読んでくれるやさしいあなた、大好きですよ。当方も、リア充できずに暇なので、たっぷり書きたいと思います。たっぷり読んでってくださいな。あまりためにならないけどね。

 それにしても「美味しんぼ」という漫画も長いですね。かれこれ20年くらい連載しているのではないでしょうか。山岡士郎さんも栗田さんと無事ご結婚され、今や子供が3人でしたっけ。最近読んでないのでわかりませんが。

 山岡士郎さんの生き方は、ある種、男の理想ですよね。どこが理想かというと、ぐうたらなのに東西新聞という大企業に入り、女性に積極的でもないのに、栗田さんという聡明な女性から慕われ、平社員なのになぜか社主とも親しく、親ゆずりの才能に恵まれ、しかも親と対立している。いわゆる七光り的な批判をかわすことができるし、漫画とはいえうまく設定されてますよねえ。「釣りバカ日誌」のハマちゃんと同じ類型ですが、山岡さんの方が一枚上手なような気がします。いかにも団塊の世代が描く主役っぽいです。我々の世代から言えば、そんなうまいこといくかいな、とちょっと思ったりします。

 この漫画のもう一人の主役と言えば、栗田ゆう子さんですね。この人は、すごいもんですよね。リアルで言えば、元NHKアナウンサーの久保純子さんでしょうか。おっとり才女と言いますか。独身時代はおっちょこちょいで、すこしかわいく描かれていましたし、恋敵の二木さんに嫉妬したり、すねたり、怒ったり、人間的な感じでした。でも、お子さんが生まれてから、海原雄山が認めるようになってきて、ちょっと聖母っぽく描かれるようになりました。落ち着いた見守る目の表情になってきてますね。それにともない山岡さんがどんどん丸くなってきました。

 栗田さんという女性は、ある意味で社会で働く女性の理想像でもあるんでしょうね。私はあまりフェミニズムに詳しくはありませんが、段階的には、こういう女性の社会での活躍の仕方は、ひとつの理想ではあると思います。栗田さんのように活躍したいと思う女性は多いことでしょう。でも、ある部分ではフェミニズムにとっては、栗田さんはあまり好ましくない女性なのかもしれません。男性の圧倒的な才能を支える才能として描かれていて、その意味ではメタレベル的=聖母的ではありますが、それは、フェミニズムが考える女性の最終到達点ではないのだろうな、と思います。

 で、少し脱線しますが、ある種のフェミニズムから見た女性の最終到達点のイメージとしては、やはり松田聖子さんだと思うのですね。松本隆さんの引力から突き抜けた後の松田聖子さんですね。「続・赤いスイトピー」以降。男の想像力からすれば「抱いて」という曲は、以前の松本隆引力下の松田聖子さんの楽曲と比較して、あまりピンとこない部分はあるにはあるのですが、あの「抱いて」という曲は女性にとっては重要な曲のような感じが、いろいろな女性のあの曲に対する言説を見ていて感じることがあります。松田聖子さん以降の、例えば、中森明菜さんや小泉今日子さん、今で言えばヒッキーさんなんかの生き方も、明らかに松田聖子さんがつくってきた女性の道なんだと思います。いま、しょこたんこと中川翔子さんなんかが松田聖子さんファンを自認している光景を見て、なんだかギザ好ましすなあ、と思うのは、そういう文脈があるからなのかな、と思いました。

 じつは、栗田さんの描かれ方は、非常に男性に都合がよく描かれています。その構造は、進歩的ではあるけれど、そこから先は描かれないこの作品の限界みたいなものがあるような気がします。そういう構造を隠蔽するかのように、ときどき栗田さんの発想がすべてをひっくり返す話が盛り込まれ、やっぱり栗田さんはすごいんだ、みたいな印象を読者に与えていますが、本当は、栗田さんが主役の「美味しんぼ」が書かれる状態というのがフェミニズムの到達点なんだろうなと思います。吉本隆明さんが、男女平等が達成される状態は、日本の大学の文学部以外の文系学部において、男女比率が半々になったときだ、みたいなことを言われていましたが、その意味ではまだまだ栗田さんは過渡期的ですね。

 その視点で山岡士郎の恋路を見た場合、すごいことに、山岡さんは栗田さんと結婚するまで恋人時代を経験していないのですね。山岡さんは、栗田さんを恋人として意識した時期をまったく持たずにプロポーズしてしまいます。読者には、山岡さんをめぐる三角関係が栗田さん、二木さんの感情を通して見えるようになっていますが、山岡さんは最後まで、栗田さんを自分の「彼女」として一度として意識しませんでした。性を捨象した精神性の問題としての恋愛模様が描かれ続けました。ある意味、子供の恋愛であるわけですね。それは、ある部分で、性の乱れみたいなことを言われる恋愛模様の反作用としての、恋愛の現代性をすごく表しているような気がします。

 まあ、グルメ漫画ですからそういうものは描く必要がないと思うのですが、私は、栗田さんと山岡さんの結婚が決まって、私たちはこれから一緒に暮らせるんだねと確認して、栗田さんと山岡さんがギュッと抱きしめあうシーンが突然出てきたとき、少しドキッとしたんですね。捨象されてたはずの性の問題が、突然姿を現したというか。原作者があえてそのシーンを出した意味は何なんだろうと思いました。

 山岡士郎さんの性に関するへたれぶりは、プロポーズのシーンでも存分に描かれています。山岡さんは結婚してくれと言うんですが、あの場におよんで、栗田さんの「花村さん、田畑さんが上手な断り方を教えてくれたわ」という思わせぶりな冗談を聞いて、それで「やっぱり俺みたいなやつ、だめだよなあ。元気で暮らしてくれよ」だなんてこと言うわけです。あの場におよんでですよ。精神以外の確証を得ていないんですね、山岡さんは。いい年して純愛なんだよなあ、と思いました。そこに「美味しんぼ」のもうひとつの魅力があるにはあるのですが。

 海原雄山さんは、妻に先立たれてからずっと独身を貫いています。そこに、この作品の父と息子の対立という大きなモチーフの鍵があるのですが、この軸では、今日に至るまで、フロイド的な父性の物語として「美味しんぼ」は展開されています。これを逆に見ると母性の物語でもあるんですね。海原雄山さんの妻は栗田さんと重ねられます。そういう意味では、この「美味しんぼ」はすごく古典的な物語でもあります。

 山岡さんが卵に当たって危篤状態に陥ったときに、雄山さんは病院に行くんですね。そこには栗田さんがいます。雄山さんは、会ってあげてくださいと懇願する栗田さんに対し、拒絶をしたあと、栗田さんに「私が山岡さんを治してみせます」と言われるのですが、雄山さんは「おまえは医者か」という言葉を言い放った後、立ち去っていきます。そのとき、雄山さんは栗田さんを山岡さんにとっての母性としての強さを見極める目をするのですね。おまえにまかせた、というような。そのあと、山岡さんは屁をこいて、「屁をこいてもひとりってか」というくだらない言葉をはきながら生還するんですよね。

 なるほどなあ、うまくつくられているよなあ、と思います。それとともに、男としては、山岡さんよ、おまえなんか栗田さんに振られてしまえって思うわけですよ。もうね、こいつ、ほんと駄目な男ですよね。こんな駄目男が幸せになっていく物語。どこかで読んだなあと思って考えてみると、「チッチとサリー」とか坂田靖子さんの「チューくんとハイちゃん」ですよね。男なら「貧乏生活マニュアル」ですね。

 漫画は時間が止まって動くからいまだに山岡さんは平社員のままですが、20年経っていると、当時25歳だとすると山岡さんも45歳ですよね。栗田さんは42歳。いい年だなあ、ふたりとも。ふたりともブログを立ち上げたりしているんでしょうかね。でも新聞記者だからなあ。新聞社の内規で、ブログはまずい、ということになってるんでしょうか。もしやってたとすると、ココセレブなのかな。それとも案外「はてな」でやってたりして。id:oishiroとかで、「はてブ」のネガコメ問題を論じてたりして。今の状況で言えば、メディアでは山岡さんと栗田さんの立場は逆転しているのかも。「栗田ゆう子の素敵に美味しんぼライフ」とかいって公式サイトを持っているのかも。山岡さんを脇において「情熱大陸」とかに、いま最も輝いている女性として出演したりして。

 「じゃりン子チエ」のチエちゃんとかはどうしてるんでしょうね。日本一不幸な少女は、幸せになっているんでしょうか。ヒラメちゃんは画家になれているんでしょうか。京都芸大とか出て、パリにいるのかもしれませんえ。案外、東京のどこかの広告会社でアートディレクターをやっているのかもしれませんね。だとすると、私より先輩のはず。ああ、一緒に仕事してー。

 「美味しんぼ」のメニューの中では、目玉焼き丼がピカイチでした。作ってみたら案外うまくて、びっくりでした。目玉焼きをごはんの上にのせて醤油をかけるだけですけどね。あれはうまいです。今夜ドラマでもやっていた、乾麺をつかった山岡スペシャルは、まああんなもんですね。つゆがぬるくなるのがいまいちでした。あと、おにぎりで鮭とマヨネーズは意外とあうと言っていましたが、あれ、コンビニだと定番ですがな。原作者、コンビニ行ってないなあと思いました。編集の人、言ってあげなきゃ。でもまあ。ああいう時代のズレも、この作品の楽しみどころですね。

 あと、面白いと思うのは、山岡さんが狂信的なマカーであるところとか。ウィンドウズのことあそこまで言わなんでも、と思いました。ネットでも話題になっていましたよね。あの漫画、マックだけきちんと細部まで描かれて入るんですよねえ。失業した人が、ニューギンザデパートでショッピングサイトを提案して職を得る話がありましたが、あの程度のことじゃ、あの当時でも駄目ですってば。まあねえ、そんなこんなを言いながら、コンビニで「美味しんぼ」の新刊が出ていたら買っちゃうんだものなあ。ホント、すごいもんだなあと思いますです。はい。では、よい日曜日を。

●追記(12:30)

 「山岡スペシャル」での検索でこのエントリにいらっしゃる方が多いみたいです。なので詳しく書いておきます。これは「美味しんぼ」第88集「こだわり夜食自慢大会!」に登場するメニューで、ドラマでは夜食大会で登場しましたが、原作では民心党の職員(ドラマでは議員になってましたね)に東西新聞の厨房で山岡さんが職員の「韓国巻き」のお返しとしてごちそうするというものでした。原作では「山岡スペシャル」という呼び名はついていませんでした。
 つくり方。どんぶりにネギのみじん切り、叩いた梅干し、刻んだ焼き海苔、針ショウガ、カツオ節、昆布の佃煮のみじん切り、たっぷりのすりゴマを入れ、醤油を加える。氷見うどんのような腰のある乾麺をゆでて、ざっと水で洗って、どんぶりに入れて湯を加える。かきまぜて食す。
 だし系と薬味系の味の要素は網羅されているので、間違いなく旨いです。味の足し算ですね。大阪的には昆布の佃煮のかわりに、とろろ昆布かおぼろ昆布でしょうね。でも、うどんが冷たく、だしがぬるくなるのが惜しいなあと思いました。というか、即席ものであるのに針ショウガとか叩いた梅干しとか手がこんでるのが雁屋さんらしいなと思います。でも、こういうのを入れることで味が複雑になるのでいいんでしょうけどね。チャーハンと同じです。この理屈では、お湯を入れて即席お吸い物ができます。私はこっちのほうが好き。
 あと「韓国まき」というのは、牛肉の細切りとニラを炒めたものを小麦粉と卵をまぜたものをクレープ状に焼いたやつに巻いてかぶりつくというもの。休日ですし、お試しくださいませ。うまいぞ。ってこれは違う漫画ですね。ではでは。

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コメント

mb101boldさん、おはにちわ(^^)

こんなやつ振られてしまえ。に笑いました。
なんか誰のことかちょっとわかったようなわからんような。

ちょっとあこがれますか。そうですか。
私的にはmb101boldさん、イケてますよぉ?

島耕作なんかも(今常務)男性に都合よく作られている設定でしょうか。私はあの漫画に出てくる女が(やくざの一人娘のあの子を除いて)全員嫌いです。(笑)

投稿: ggg123 | 2007年11月19日 (月) 08:43

ggg123さん、どもども(^^)

そっすね。島耕作なんかは男の都合だけで作られていますね。そうか、今部長ではなく初芝電気の常務なんですよね。

あの漫画は私はノーマークだったので、あまり読んでないですが、あの中に出てくる女性が嫌いな感じなんかわかります(笑)みんな島に惹かれていくしね。特に裸の描き方がなんかねえ。

それと、嫁さんの柴門さんの漫画も苦手。人の表情が3種類くらいしかない。笑ってる顔。泣いてる顔。嫉妬してる顔。でも、夫婦どちらも人気あるんですよね。

投稿: mb101bold | 2007年11月19日 (月) 16:58

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