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2007年11月26日 (月)

いてもいいし、いてほしいと、おもう。

 私が勝手に広告のお師匠さんと思っている人は、糸井重里さんです。糸井さんには、まだ一度もお会いしたことはないですが(ほぼ日に投稿して一度だけメールをいただいたことがあります)。糸井さんからは、いろいろ学ばせていただきましたし、今も学んでいます。若い人にとっては「ほぼ日刊イトイ新聞」のダーリンとしておなじみかもしれません。でも、私の世代にとっては憧れの広告制作者だったんですよ。広告がサブカルチャーのメインストリームにあった頃ですね。

 広告の言葉として、私が糸井さんの代表作だと思うのは、ウディ・アレンさんが出演されていた西武百貨店の広告「おいしい生活。」だと思います。ご本人もかつてそんなことをおっしゃっていましたし、「おいしい生活。」という言葉が開く未来というか、新しい価値観は、多くの人に影響を与えていきました。私はその頃、大阪に住んでいましたし、まだ学生でしたので、その広告をリアルタイムに経験はしていません。けれども、大阪で広告の仕事をはじめた頃に追体験し、おいしい生活かあ、すごいなあ、と唸ったものでした。

 そんな、糸井さんの広告の言葉の中で私がいちばん好きなのは、西武セゾングループ(当時)の1987年の広告で「いてもいいし、いてほしいと、おもう。」という言葉です。これは、「お手本は、自然界。」というシリーズ広告の中のひとつで、確か大晦日かお正月かに出た広告だったような気がします。ビジュアルは動物のナマケモノが木にぶら下がってこちらを向いているというのも。その顔が何も考えずに微笑んでいるような感じで、いいんですよね。アートディレクターは浅葉克巳さんです。

 ナマケモノという動物は、なるだけカロリーを消費しないようにずっと木にぶら下がっているだけの動物なんですね。要は役立たずで、怠け者。一生懸命やってる他の動物から見ると、ちょっとイライラする動物かもしれません。そんな動物でも、いてもいいし、いてほしい。言葉のレトリックで言うと、「いてもいいし」という部分がこの言葉の持つ眼差しをすごく上手く表現していて、「いてほしいと、おもう。」という言葉との差は明らかです。私は、広告制作者の職業的な技能というかこだわらなくちゃいけない部分を、この言葉から学びました。

 大人になると、いろいろ「いてもいいし、いてほしいと、おもう。」というだけではいかない色々が出てくるし、世の中はそういうふうには出来ていないと言えばそれまでですが、ふっと息を吐いて、ひとり考えるとき、自分も含めていろいろな人が「いてもいいし、いてほしいと、おもう。」と思える自分でありたいなと思います。そして、そういう社会であってほしいと思います。そして、同じ考えるにしても、そういう視点で、いろいろなことを考えていきたいなと思っています。キリキリせずに、イライラせずに、ゆっくりじっくり。さあ、3連休のあとの月曜日です。

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コメント

いいですねー。ジブリのコピーとかバス釣りとか見てるともういいかなと思ったりしますが、「おいしい生活。」や「くう、ねる、あそぶ」はずっと心に残ってます。たぶんこれからも。
ふと共感したのでコメントしちゃいました。

投稿: 河野 | 2007年11月26日 (月) 05:57

「いてもいいし、いてほしいと、おもう。」の次あたりに来る、「ほしいものが、ほしいわ。」も時代を捉えていましたね。

というか、あの頃の広告コピーは、その言葉があるだけで、生きていく元気をもらっていました。

心に残る記事をありがとうございます。

投稿: 喜山 | 2007年11月26日 (月) 08:52

河野さま、こんばんわ。

「くう、ねる、あそぶ。」はリアルタイムではなんだこれと思いましたが、後からじわじわ効いてくる言葉ですねえ。ほんと、生活って、くう、ねる、あそぶ。

お体の具合はいかがですか。最近寒いのでご自愛くださいませ。これからもよろしくお願いします。

投稿: mb101bold | 2007年11月26日 (月) 22:55

喜山さま、こんばんわ。

「ほしいものが、ほしいわ。」は、欲望論の周辺でよく語られましたよね。西武の広告がどんどんポストモダン的になっていくのは、このへんからですよね。

そのあと、私が日本橋三越本店の広告を作っているときに、セゾングループがビジュアルが「!」だけの「実感するだけ。」という言葉の広告をつくったんですね。それは糸井さんではなかったけれど、当時、「ああ素晴らしいけど、これを言ったら先はないだろうな」と思ったことを思い出します。

投稿: mb101bold | 2007年11月26日 (月) 23:04

東武百貨店の「ふつうの百貨店」というコピーを思い出しました。

あんなに巨艦で「ふつう」も何もという身も蓋もなさを感じましたが、新しい「ふつう」の提案ではありました。

それと同時に、何かとても白けたのを覚えています。言葉の魔法が解けるような感じですね。

投稿: 喜山 | 2007年11月27日 (火) 08:36

あのコピー、東武百貨店のCIと池袋店リニューアルの時だったような気が。言葉の魔法が解けるような感じ、というのはよく分かります。あのあたりでひとつの時代が終わったんでしょうね。元CIプランナーだったこともあり、その終わりの感覚が今も残っています。

投稿: mb101bold | 2007年11月27日 (火) 14:00

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