男らしいってわかるかい
私が好きなミュージシャンのひとりに大塚まさじさんがいます。ご存知ない方も多いかと思います。その昔、大阪の難波に「ディラン」という喫茶店があり、そのマスターが大塚さん。そして、その仲間である永井ようさんと組んだデュオが「ディランⅡ」というバンドです。そして、「ディランⅡ」解散後、大塚さんはソロになりました。今もギター片手に全国を旅して歌ってらっしゃいます。ウィキペディアを引用するのもなんですから、昔、JICC出版局から1988年に出版された「大阪呑気大事典 大阪オールスターズ編」から、大塚さまじさん本人が書かれた「ディラン」の項を引用してみます。
【ディラン】でぃらん[個] 一九六九年夏、大阪は南、難波元町にできた喫茶店の名前、たった4坪という店としては最小のスペースだったが、夜には行き場を失った若者達が集い、時にはライブハウス、ある時はギャラリー、又ある時は芝居小屋と、まるで走馬燈のように、時代をそこに写し出していた。一九七〇年から十年間つづいたコンサート、”春一番”もこの店から始まった。当時誰もが口ずさんだ名曲「プカプカ」もこの店で西岡恭蔵が書いた。もう一九年も前の話、僕はまだ十九だった。この店もいまはもうない。(大塚)これが書かれた1988年から19年の月日が経ち、やっぱり今も喫茶店「ディラン」はないけれど、「春一番コンサート」は復活しています。私は、大阪の服部緑地公園でゴールデンウィークに行われるこのコンサートで大塚さんの歌を聴くのが毎年の楽しみのひとつです。お亡くなりになった西岡恭蔵さんがお書きになった「プカプカ」も大塚さんのヒットナンバーです。「♪俺のあんこは煙草が好きで いつもプカプカプカ」という歌です。聴いたことのある人も多いかもしれませんね。その昔、「東のはっぴいえんど、西のディラン」と言われていたんですよ。
そんな大塚さんの曲の中で、私が大好きな曲があって、それが「男らしいってわかるかい」という曲。この曲は、ボブ・ディランの「アイ・シャルビー・リリースト」を大塚さんが日本語訳したものです。けれども、この歌詞は、原曲の歌詞とはまったく違う、大塚さんの世界なんですね。喫茶店「ディラン」で大塚さんが勝手に歌詞をつけて歌っていたんじゃないかなあ、なんて想像しているのですが、どうなんでしょうか。
変わっていくなんて きっとないぜ
君の世界なんて ほど遠い
でも俺をこんなに 変えてくれた
昔の友がいるんだ
朝日は もう昇るよ
少しずつだけどね
そのとき その日こそ
自由になるんだ
ヤツらは楽な方を 取るのさ
誰とでも 手をつなぎながら
でも 俺は断じて俺の
考え通りに生きるんだ
朝日は もう昇るよ
少しずつだけどね
そのとき その日こそ
自由になるんだ
男らしいって わかるかい
ピエロや 臆病者のことさ
俺には聞こえるんだ 彼らの
おびえたような鳴き声が
朝日は もう昇るよ
少しずつだけどね
そのとき その日こそ
自由になるんだ
いい歌詞だと思いませんか。私は、いつも心が弱ったときに、この曲に励まされます。人のいない夜道なんかでは、歌いながら歩いたりすることもあります。近所迷惑ですね。「男らしい=ピエロや臆病者」というのがいいですよね。私、最初にこの曲を聴いたとき、ちょっと誤解して解釈してました。男らしいなんて、所詮、ピエロや臆病者のことなんだよ。男らしいなんて意味がないっていうふうに。でも、違うんですよね。男らしいとは、心で泣いていても、どんだけ心が臆病になていても、そんな自分を人に見せずに、誰にでもやさしい笑顔を見せるピエロみたいなものなんだよ、という意味なんですよね。
ずっと誤解して聴いていたこともあって、それに気づいた時、私はそう解釈していた自分をものすごく恥ずかしいと思いました。いつも不機嫌にしていた自分が、文句や理屈ばっかり言っている自分が、情けなくなりました。男らしくないなあって。今日も、あと数時間で朝日が昇ります。これを読んでくれた人をとりまくそれぞれの環境が、少しでも自由になりますように。ではでは。
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コメント
プロフィールを見て驚き!1967年生まれ。この年に就職、ジョン.コルトレーンとビリー.ホリディが亡くなり忘れられない年だ。文体もしっかりして哲学的で感心しきり。昔ブルースハープ奏者、スティーブ.ガードナーと同じ宿に泊まった事があり、彼は”ブルースは何もしてくれなかったが、いつもそばに寄り添っていてくれた”とポッと語り、音楽ってそうゆう事なんですね。
投稿: あんぷおやじ | 2007年12月20日 (木) 06:45
スティーブ・ガードナーさんの言葉、すごくよく分かります。ガードナーさんは東京を中心に活動されているそうなので、今度聴きに行ってみようと思います。素敵な言葉をありがとうございます。
投稿: mb101bold | 2007年12月20日 (木) 16:44
ちょっと名前、変えてみた。笑
いい詩だねえ。
大塚さん先週、
家から徒歩5分の場所でライブを
やってたんだけど、見に行けなかった。残念
投稿: のばらパパ | 2007年12月20日 (木) 17:48
のばらパパさん、はじめまして。笑
そう言えば、キー坊さんの本、
まだ読んでないけどちょっと楽しみ。
春一出るんでしょうか?
出たらいいのになあ。
投稿: mb101bold | 2007年12月20日 (木) 18:34
キー坊の本、おもしろいよ。
ぜひ、買ってください。
春一、どうやろね〜。
そうそう、mixiで足あと見たら
キー坊の元奥様のものがあったよ。
ちょっとビビりました。笑
投稿: のばらパパ | 2007年12月20日 (木) 20:11
笑
投稿: mb101bold | 2007年12月20日 (木) 20:35
大塚さんの「男らしさ」は、マッチョでもなく何か新しい感じがしました。いいですね。
今回も励まされます。ありがとうございました。
投稿: 喜山 | 2007年12月20日 (木) 23:38
「男らしさ」はジェンダーの領域を超え、ある精神の在り方かもしれませんね。
大戦下のアンドレ・マルローの写真のカッコよさや、ロバート・キャパの写真などから「男らしさ」を感じていた僕は、おそらく「逆境にあっても友情や夢や希望を失わない文化」に男らしさを感じていたかもしれません。
苦しい時に、目の前で泣いている子供の瞳をしゃがんで同じ目線で優しく見守れる人でありたいです。
投稿: チャーリー | 2007年12月21日 (金) 01:20
喜山さま。
マッチョではない「男らしさ」は、男という言葉が使われていますが、これからの世の中に大切な「らしさ」なのかもしれません。
例えば、吉本隆明さんのいい年のとり方を見て、私は「男らしい」なと思います。あの人は年をとればとるほどやさしい顔になっていくんだなあと。そんなことを思いました。
投稿: mb101bold | 2007年12月21日 (金) 13:42
チャーリーさま。
この「らしさ」は、ジェンダーを超えたある精神のあり方。私もそう思います。女性でも、こういう意味での「男らしい」人はたくさんいますし、むしろ、女性の方が多いのかもしれません。
なかなか難しいけれど、そういう「男らしい」人でありたいなと私も思っています。
投稿: mb101bold | 2007年12月21日 (金) 13:50