ラーメンパラドクスとセカンドライフ。
ラーメンパラドクス。広告やマーケティングの世界では有名な話だと思っていたのですが、googleで検索しても出てきませんでした。なぜだろう。もしかすると、名称を覚え間違いしてるかもしれません。
とある食品メーカーが、減塩でカロリーが低くてヘルシーなインスタントラーメンについての市場調査をやったんですね。そしたら、「いいですね、ぜひ買いたいですね」と言う人が大多数、という結果が出たそうな。で、担当者は自信を持って市場に出した。でも、そのヘルシーなインスタントラーメンは、さっぱり売れず。あんなに市場調査で絶賛されたのに、なぜだろう。そんなお話です。
なぜ売れなかったのか。
消費者はヘルシーには感心がありますし、ヘルシーが好きか嫌いかと言えば、誰もが「ヘルシーいいっすねえ」と答えます。時代はヘルシーですものね。人前だし、格好悪いから、ヘルシーいいですねと答えとくか、みたいな人もいるでしょうね。つまり、この手の誰からもいいことだと思われる質問には、見栄というか、社会的な強制力が働いてしまうのです。なので、調査では、ヘルシーラーメンが求められているという結果が出ます。でも売れない。当然ですよね。
建前と本音は違うんです。「ヘルシーなラーメンいいですね」というのは建前なんですね。
ヘルシーは必要だけど、インスタントラーメンにヘルシーなんて、多くの消費者は求めていないということなんですよね。ヘルシーは他の食品で調達する、と。インスタントラーメンは社会的なものではなく、個人的な食べ物。インスタントラーメンという食べ物の本質は、人の目なんか気にせず、濃い味の汁をずずっと飲み干し、ああ快感、な食べ物なんですね。
そのラーメンパラドクスをわきまえて、あえて身も蓋もなく、世間体も省みず、本音で勝負して大ヒットしたのが、メガマック。ハンバーガーにもヘルシーは求めていないですよね。ヘルシーを求めてわざわざハンバーガーなんて食べないですよね。だから、心の本音の部分をデフォルメしたユーモアとして、メガマックは売れたのだと思います。
逆に、そのラーメンパラドクスに陥って、いまいち流行らなかったのが、セカンドライフだったんじゃないかな、と思ったりします。バーチャル空間で繰り広げられる次世代のコミュニケーション。圧倒的な3D映像。これぞ、新しい世界。みんな色めき立ちました。メディアも絶賛。人々は口々にセカンドライフすごいよねと言いました。うちの職場でもそうでした。
でも、それは建前。本音では、ウェブのコミュニケーションにそんなリアルに近いコミュニケーションなんか誰も求めていないんですよね。めんどくさいんです。ウェブのコミュニケーションに求めるものは、まったく違うものなんでしょうね。例えば、リアルにない手軽さとか、素早さとか、敷居の低さとか。例えば、2ちゃんねるとかmixiとかTwitterみたいな。
多くの人がウェブのコミュニケーションに求めるものは、多くの人が3Dゲームに求めるものとは明らかに違うのに、同じバーチャルだから同じだと思ってしまったんでしょうね。それに、セカンドライフはビジュアルが豪華なので、企画書映えするし。企業にとってはわかりやすかったんでしょう。
ウェブの進化とか次世代コミュニケーションとか、美辞麗句がちりばめられたプレゼンにだまされて、大枚叩いて、巨大パビリオンつくって閑古鳥。この光景、昔どこかで見たことがあるなあと思ったら、インパクですね。インターネット博覧会。そういえば、あれも悲しいイベントでしたね。
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コメント
セカンドライフって、いつ見ても
「これからの」って紹介されてるけど、もう
流行らなかった評価が下されてるんですね!
確かに話題にはなったけど周り誰もやってなかったですよ。
投稿: 大学生 | 2008年1月13日 (日) 13:09
大学生さん、どうも。
概ねそんな感じです。理由はユーザのPC環境がまだそこまでいってなかったとか、サーバの問題で6ユーザだけしか入れないとか、あとチャット中心のコミュニケーションですから言語の問題とかいろいろあるようですけどね。
また、セカンドライフが流行った原因は、バーチャルマネーが現実のドルと換金できるとか、エロの部分とか、そういう感じだったので、そのへんも今のところ違ったのかななんて思います。
まあひとまず、セカンドライフへの企業の参加は少し熱が冷めてきたといったところかな、と感じています。
投稿: mb101bold | 2008年1月13日 (日) 21:52
はじめまして。今 来年度から始まるメタボ健診の準備をしていて ラーメンパラドクス とても興味深く読みました。 メタボちゃんの心理も 勉強していて 心理戦になるのか 癒しで行くか 検討中です♪
投稿: 優子 | 2008年1月14日 (月) 12:32
コメント欄の「6ユーザ」というのは間違いでした。訂正します。正しくは「現在1つのSIMで一度に滞在できる人数は数十人程度であり、数百人以上集めてイベントを開くには複数のSIMに人を分散させる必要がある。」とのことです。(ウィキペディアより)innx_hidenoriさん、ご指摘ありがとうございました。
あと、エントリでは言い足りてなかったですが、仮想空間自体は「ドットシティ」から結構試したりしていて、そんなことで思うのは、ああいう仮想空間で広告というかブランディングをしようと思ったら、あまり企業が全面にたたないほうがいいのかなと思います。
あの中での広告は、リアルに近づける方がいいというか、社会にそれとなくある看板とかポスターみたいな感じで。いい空間は媒体費が高いみたいな広告システムのほうが、広告とはなじみやすい気が。
それと施設を自ら作るのではなく、施設をつくる側のスポンサーになるとか。民放のテレビ番組と同じです。そうじゃないと、せっかくの3D世界が興ざめ空間になるという、そんな気がしています。
投稿: mb101bold | 2008年1月19日 (土) 19:20