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2008年2月 9日 (土)

実名とか、匿名とか、オープンIDとか。

 このところネットでは実名匿名の話題が熱くなっているようです。ブログをはじめて間もない頃(といってもまだブログ歴8ヶ月ですが)、実名匿名関連のエントリを起こしたこともあって、そこからいろいろ考えたりしたりもして、その頃とは少し考え方が変わっているし、あとオープンIDという潮流もあったりして、エントリを起こした07年の8月頃とは少し、自分の考え方同様、世の中の空気も変わっているような気がします。

 私は、ブロガーではありますが、ネットにはそれほど詳しくありませんし(かといってまったく知らないわけはないですが)、このブログを読んでいただいている人の多くも私と同じだと思いますので、まずは、オープンIDとはどういうものなのかを引用してみます。いろいろ見てみましたが、はてなの記述がわかりやすかったので、はてなの「はてなでOpen ID」というページから一部引用します。

OpenIDとは、様々なサービスで共通して使用できるURL形式のID(アカウント)です。通常、サービスごとに別々のアカウントを取得したり、ログインするために別々のIDやパスワードを入力する必要がありますが、OpenIDは様々なサービスで共通の認証の仕組みとして、同じIDでログインすることができます。

 つまりは、オープンIDという仕組みを使うと、いろいろなウェブサービスが1つのIDで横断的に利用できるわけですね。これは、はてなの場合は、他のブログサービスに「はてなスター」を付加して、はてな会員以外の人にも使ってもらうみたいなことが実現できるようになるわけですね。はてなは、IDのもとにゆるやかにつながるコミュニケーションを指向するウェブサービスだと思いますので、そのオープンIDの機能を使えば、他のIDともつながりをもてることになるので、このウェブの指向性は、はてなのようなウェブ2.0的なサービスには親和性があるように思います。今や、ユーザ囲い込み戦略みたいな時代でもないでしょうし。

 このオープンIDは、ウェブは実名であるべきだという立場にとっても、すべてのウェブサービスをひとつのIDで利用するという意味合いでは、好ましい潮流であると捉えられるのかもしれません。様々なサービスを横断的に使うという意味において、そのIDの価値は実名に近づいていくでしょうから、段階的にはありだ、という感じでしょうね。

 一方、私を含めた多くの匿名(正しくはニックネームなんでしょうが)にとっても、その潮流は現状に近く、便利になるなあ、という感じなのではないでしょうか。私の場合も、ウェブサービスによってIDを使いわけていない(共通の文字列にしている)現実があり、どちらかというと現実の利用者の使い方をテクノロジーが追認するという印象を持っています。実際のところはあまり把握していませんが、あっさりウェブユーザの私には、そんな感じがします。

 例えば、mb101boldというニックネームは、実名の私と同義ではないけど、かなり現実の私に近い内容を持つ名前ではありますし、それなりに愛着もあります。であるので、ウェブ上での振る舞いも、私の場合は現実に近いものではあるのだと思いますし、別人格というわけでもないだろうなとは思うんですね。他の方々も程度の差こそあれ、そんな感じでしょう。

 というふうに整理してみると、時折論議されている、実名か匿名か、という論議を見ていて、時々何が問題であるかが分からなくなってしまうときが正直あるんですよね。個人の同一性が、本人の同意なしには明かされないけれども、最終的にはサービス提供会社が保持する情報によって担保されている匿名(多くの人はそうでしょう)と、ウェブと現実が同一の名前の実名とは、本人のウェブとのつきあい方の嗜好以外のどこに対立点があるんだろうなと思うんですよね。匿名のデメリットとは別の話であり、そのデメリットの解決の別の仕方があるような気がします。捨てIDなら、捨てIDの話に限定したほうがいいと思うのです。

 これは、前にエントリを書いたときから変わっていないですが、これだけ多くの普通の人たちがニックネームで楽しくやっているウェブの世界で、完全に明示された実名を強いるのは、やはり現実的ではないと思うし、違和感はあります。単純にすべてが実名明記になるウェブ環境は想像しにくい。それは、日本にいるからなんじゃないのと言われそうですが。それに、私自身、人のブログを読むときに本名を知りたいとも思わないし、小説だって、評論だって、その著者の戸籍上の本名を積極的に知りたいとも思わないですし。

 それに、ウェブで実名を強いてしまうと、ウェブは記録性が高いメディアだから、一度ウェブで失敗すると、その人は、もうウェブの世界に戻ってこれなくなる気がするんですね。むしろ、こちらの方が、ウェブがこれだけ大衆化した今、切実な問題だと思うんですね。

 匿名である権利の主張とか言論の自由という文脈ではなく、むしろ、ちょっとした炎上とかで止むなく閉鎖してしまうブロガーが二度とブログが書けなくなる、そんな環境にウェブがなってしまうことの懸念が私にはあります。これは、ネットを通して、いろいろな人と話をしてたどり着いた私の個人的な思いですが、何度も違う名前でやり直しながら、現実の自分とニックネームの折り合いがつくまでやり直せるシステムは、ウェブは担保しておいたほうがいいと思うんですね。

 ログとリンクで構成されているウェブの世界は、現実と近づいてきたと言えども、やはり現実とは世界が違うから。(でも、これは有名人かつ実名で、自分のブログが炎上した人はどうでもいいのかと言われそうですね。でもやっぱりこの問題も、広義の匿名に起因する問題ではなではないような気がするんです。ここでは触れませんが、匿名の問題というより、正義の問題のような気がします。)

 それと、この実名匿名の話題に触れるとき、私は個人的には、倫理の問題と環境の問題を分けて考えたいと思うんですね。言論は責任であり、責任は実名でなければならないというのは、ひとつの倫理であり、そのことは、ひとつの倫理的な態度としては、決して間違いではないと思います。また、逆に、属人論法によらずに、実名匿名関係なしに、論議は書かれた内容が問われるべきというのも、ひとつの倫理的な態度だと思います。また、書かれた内容が問われるならば、責任の主体としての実名を名乗るべきという論理も成り立つし、だからこそ、責任の主体という属人性は排除し、あくまで言論を見つめるべきという論理も成り立ちます。

 こうした倫理と倫理では、互いの倫理的態度を尊重するという倫理的態度が問われると私は個人的には思います。でも、倫理の問題は、この実名匿名の本当の問題なんだろうか、といつも思うんですね。アカデミズム的言論空間とウェブ2.0的言論空間。そのふたつの価値の優位性を競うことは、有意義ではあるとは思いますが、別の話題ではないかな、とは思うんですね。いや、違うという意見もあるかもしれませんが、私には、倫理の問題が、この実名匿名問題をわかりにくくしているような感じがします。

 実名匿名の問題というのは、本当はウェブ2.0的なサービスが提供する環境の問題のような気がするのです。アカデミズム的言論空間を目指すということであれば、ブログではある程度コントロールできるけれど、集合知的なウェブ2.0的サービスは、自分でコントロールできないんですよね。自分をターゲットにした他人の領域への嫌悪を、ひとつの倫理で笑うこともできると思いますが、でもこれを嫌悪するのはわかる気がするんです。で、それが嫌ならSNSというのは、私もかつてはそう考えていたけれど、それはひとつの倫理にすぎないんだろうなとも考えるようになりました。(でも、近い将来、嫌ならSNSということになるかもしれないとも思います。)

 ウェブ2.0が、そのいいところをもっともっと延ばしながら、そのサービスが嫌な人にも配慮した機能を自ら持つような成熟があればいいな、いろんな考えの人がニコニコできるようなウェブ環境になればいいなと私は思うんですね。論理的には破綻があるかもしれませんが、気分として少し息苦しい感じがあります。ウェブも社会であるならば、その気分は、ある一定の価値は持つとも思います。

 こうして書くと誤解されるかもしれませんが、私自身がそれほど異論反論があるような鋭角的な記事を書いていないこともあるかもしれませんし、どちらかというとウェブ2.0的価値を信じるほうなので、それほどコントロールできない領域を嫌悪しているわけではないですし、むしろ好感も感じています。それは世間というものの可視化だと思うし、そこから生まれる新しい価値もあるわけだし、バランスを取りながらいい関係でいたいなと思います。

 繰り返しになりますが、でもそれは、私の倫理的な態度にすぎないと思うんですね。それに、個人としては、いろいろな意味で、実名でもいいのではという思いもないとは言えないし、匿名ということに積極的な意味を見いだしているわけでもないし。でも、それは、所詮は私個人の問題。実名匿名問題が社会論のアナロジーだとすると、このいろいろな人が住む社会にだって、いろいろな倫理の人が生きていて、それなりの対立はあるにせよ、それなりの気遣いと棲み分けがあるわけだし、いろいろな問題を克服しながら、言葉は悪いですが、妥協的に成長しているわけだし。

 何を甘いことを、と言われるかもしれないけど、私はやっぱり、おじいさんも、おばあさんも、おにいさんも、おねえさんも、学者さんも、学生さんも、プログラマーも、マーケターも、クリエーターも、実名さんも、匿名希望さんも、gooも、はてなも、ココログも、お互いにゆるく配慮しながら、みんながそれなりに楽しくやれる環境がいいな、と思うんですよね。個別ではまだまだ問題がたくさんあるかもしれませんが、現実の社会だって、いろんな人が歩み寄って、それなりに楽しくやれているわけだし。ちょっとした会話をするのに、誰も名を名乗れと言われない現実もあるわけだし。実名匿名で提出されている課題を通して、みんなそれなりに納得できるいい知恵を、素人の私も含めてみんなで出し合える感じになればいいなと、今のところIDでブログを楽しむにとどまる普通の人の一人として思います。

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コメント

mb101boldさん、おはにちわんこ(^^)


とりあえず2万回くらいうなずいときまーす。

絵文字が使えるようになったんですね。
で、早速使ってみました。
なんかカワイイ。

ではでは~

投稿: ggg123 | 2008年2月 9日 (土) 10:47

ggg123さん、どもです。

しかし寒いです。外はですね。って、絵文字を使いたかっただけですが、知らないあいだにココログが絵文字対応になったみたいですね。

いろいろ書くことで頭の中が整理されました。この手のエントリは久々でしたが、書いてよかったかなと思っています。ではでは〜

投稿: mb101bold | 2008年2月 9日 (土) 21:11

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