写研フォントを使わなくなって、もうずいぶんたちます。
新しいパソコン(MacBookの黒)を買って、気づいたことがあります。お粗末な気づきでここに書くのもか っこわるい話なんですが、ブログのフォントは見る側のブラウザやパソコンにある程度依存するんですよね。たとえば、当ブログだと、Safari(左)とFireFox(中)とOpera(右)では違います。微妙な違いですが、クリックすると拡大画面が出ますので比較してみてください。閲覧する方が設定を変えることで好きなフォントで表示させることも可能ですが、発信側ではコントロールできにくいようです。
広告について言えば、広告デザインの基本は文字組であると言っても過言ではないくらい、フォントをコントロールする傾向があって、例えば、フォントの選択、字間、行間の設定から始まって、ひと文字ひと文字のプロポーションを考えて、精密に組んでいきます。
昔だと、写植を打って、それをひと文字ずつカッターナイフで切ってバラして、それを台紙にもう一度貼り直して、三角定規やピンセットを使って微調整をしたりしていました。今は、Illustratorのカーニング機能を使って調整します。一頃前は、文字を詰めるデザインが流行していましたが、今は字間も行間も緩くとるのが流行していますね。時代なんでしょうね。
文字のデザインセンスがあるアートディレクターは、いいですよね。信用できます。いまのアートディレクターは写植時代を体験していないので文字組は下手になる、なんて思っていましたが、最近はそうでもないようです。それは、テクノロジーが進化して、アートディレクターの深いこだわりにハード、ソフトが応えられるようになったからなのでしょうね。
写植時代、よく使ったフォントは写研のものでした。明朝だと、「石井中明朝オールドタイプ」とか。我々は、MM-A-OKLとコードネームで呼んでいました(タショニムコードと呼ばれるものです)。非常に上品で美しい明朝体で、広告では人気があった書体です。その対抗馬としては、モリサワのA1という明朝体があり、写植機はモリサワのものが多かったこともあって、こちらを代用とすることも多かったようです。
一頃、広告ポスターのキャッチフレーズは、どれを見ても「A1・太らせ・あま焼き・字間あけ」だったような感じでした。A1を写植のレンズで太らせて、すこしピントをぼかして甘く印字してもらい、それを字間をあけ気味に組むという意味です。モリサワの書体は、写研に比べると現代的で押し出しが強いので、それもA1が一世風靡した要因であるかもしれません。
そして、時代はデジタルへ。マックがデザイン業界に普及し始めた頃、写研は、広告業界のデジタル化に抗ったんですよね。写植業者さんを守るという使命から、デジタルフォント化を拒んだというふうに聞きます。皮肉にも、それをきっかけにして、写研はシェアを急速に失っていきます。
未だに、雑誌なんかでは写研フォントを見かけたりしますが、やっぱり美しいなあと思います。特にひらがな。手動で組むとこを前提に作られていますから、「し」とか「と」はほぼ半角分くらいの幅しかないんですね。ひらがな本来のプロポーションをデザイン化しているので、見た目が自然なんですね。ゴシックも同様のプロポーションで設計されていて、きれいです。
DTPでは、当時、こうした処理は難しく、等幅もしくは等幅に近いフォントでなければいけなかったんですね。今や、これだけテクノロジーが進んだわけだし、写研のフォントがデジタルで使えればいいのですが。需要はあると思うんですよね。どうなんでしょうね。そういう計画はあるのでしょうか。今は、どうしても写研を使いたい場合は、アウトライン化して届けてくれるサービスを利用しています。
写研についていろいろなサイトを見てみると、こんなブログに出会いました。sugiyaさんという方が運営されている「Walk in Osaka」です。『モリサワの「A1明朝」と写研の「石井中明朝体オールドスタイル」』というエントリーを懐かしく読みました。当時のMM-A-OKLの書体見本も掲載されています。
sugiyaさんは「モダン・ジャズの日々/ビバップからハード・バップへ」というジャズブログも運営されています。写植屋さん出身のWeb制作者さんだけあって、美しくて読みやすいブログです。興味がある方はご覧になってください。
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コメント
わたしのブログ「Walk in Osaka」を紹介していただいてありがとうございます。
このブログには写植のことをもっと書くつもりでいましたが、最近は書いていませんでした。
わたしが写植屋であった頃、仕事のお付き合いのあったグラフィック・デザイナーさんも何人か読んでくれています。追々書きますので、ぜひ読んでください。
投稿: sugiya | 2008年2月25日 (月) 02:06
こちらこそ、素敵なエントリをありがとうございます。このエントリも、多くの人に読んでいただけたみたいで、まだまだ写植が好きな人はいらっしゃるようですね。
写植のお話も、ジャズのお話も、楽しみにしております。今後ともよろしくお願いします。
投稿: mb101bold | 2008年2月25日 (月) 12:14