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2008年2月 3日 (日)

だけではありません禁止法

 これは広告コピーだけでなく、企画書の見出しなんかにも言えることかもしれませんが、ワンコピー・ワンメッセージが基本です。よく言われるたとえ話は、キャッチボールの話です。相手にひとつの球を投げると、相手はキャッチできますが、たくさんの球を投げると、相手は球を受けることができなくなってしまいます。

 とはいいつつ、広告の現実はそうもいかないことが多いですね。あれもいいたい、これもいいたい、というのが人情というもの。新しいテレビは、画面が大きく、画質が美しく、コンパクトで、デザインがいい。そんなオリエンテーションもあります。そんなとき、便利ないい回しがあります。

 それが、「だけではありません」という話法です。例えば、上記のテレビを例にコピーをつくると、こんな感じになるでしょうか。

 美しいだけではありません。
 画面が大きいだけではありません。
 小さいだけではありません。
 デザインだけではありません。

 とまあ、こんなふうに見たことあるなあ的なコピーが出来上がるわけです。これをベースに、かっこよさげなレトリックを加えると、なおよしです。

 美しいだけなら、他にもある。
 今の時代、画面が大きいだけで満足ですか。
 小さい。それだけで勝負できた時代が終わります。
 誇りたいのは、そのデザインだけではない。

 てな感じですね。結局何が言いたいの、と思わせて、ボディコピーを読ませるという作戦です。この「だけではありません」話法は便利だし、広告に関わる多くの人をそれなりに満足させてしまうので、ついつい多用しがちです。でもやっぱり、この手の、ぜんぶ言うタイプの広告はあまり効果が得られないみたいです。ぶっちゃけると商品自体もヒットしません。マーケティングでも、マルチパーパスは売れないという定石がありますよね。

 なので、私は「だけではありません」話法は禁じ手にしています。そして、その便利な話法を使わないですませるためには、早い段階でのクリエーターの参加が重要になります。コンセプトを玉虫色にしないために、広告表現の専門家の早期参加は大切なんですね。

 アップルのスティーブ・ジョブスは、広告会社のクリエーターと毎日会っているそうです。それに、ジョブス自身が希代のクリエーターです。そんな彼が製品開発から関わるのですから、そりゃうまくいきますよね。

 話題のMacBook Airの広告。コピーは「世界で最も薄いノートブック。」です。明快ですね。封筒に入ったMacBook Airのアイデアも素晴らしいですよね。マックワールドの講演のときも、ジョブスは封筒からMacBookを出していました。お披露目のマックワールドからCM放映に至るこの製品のコミュニケーションの流れを見ていると、今の時代の広告っていうのはどういうものなのかを見せつけられる思いがします。

 結局、「だけではありません」話法というのは、これで勝負するという決断を先送りにした妥協の産物なのですね。どれだけ素晴らしいレトリックで飾ったとしても、そのメッセージの中には何もありません。

 じゃあ、あなたは「だけではありません」話法を絶対に使わないんだね。というツッコミがありそうですが、私はたまに使ってしまいます。だって、理想だけでは生きていけないですもの。ね、この話法、便利でしょ。

 と小粋な落ちで締めくくると、なんとなくまとまるけど、なんかやな感じが残るでしょ。なんかメタ論法になってしまいましたが、本当の話を書きます。私は、ある時期から一切使わなくなりました。だから、玉虫色オリエンの時は、けっこうごねます。戦略を変えます。昔は、そんなことを考えずに、華麗なレトリックに酔いながら安易に使ってた自戒も込めてこのエントリを書きました。では、よい日曜日を。

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コメント

だけではありません話法。
自分もかなり多用していますw

今回のお話読ませてもらって、これからはなるべくその話法は使わないようにしたいと思います。

投稿: マサキ | 2008年2月 3日 (日) 09:02

マサキさま、おはようございます。

ま、あくまで私の考えですので、お気になさらずに。この話法を使わないと解決できない状況も実務ではたくさんありますしねぇ。

でも、この話法を禁じ手にすると、とたんにコピーが書きにくくなって、手数というか引き出しが増えるから、スキルを磨くためにはいいことかもです。

投稿: mb101bold | 2008年2月 3日 (日) 10:57

はじめまして。。今までロム専でしたが、初めて書き込ませて頂きます。
いつも楽しく読ませて頂いてますが、今回は特に、とても勉強になりました。
実はマンガを、と言っても流行りから少しズレた4コママンガ家を目指してるのですが
私も普段から、自分に戒めている事があり、それは「絵で表せるものは台詞にしない」です。
小さな画面の中に、必要な情報以外、いかに余分なものを削ぎ落とすかが、絵を描くより大変です。
ストーリー漫画がドラマだとすると、
4コマは寧ろCMに近いと勝手に解釈してます。
また勉強に参ります。
失礼しました。

投稿: MJ | 2008年2月 3日 (日) 15:38

MJさま、はじめまして。

いまちょうど15秒CMの改編やらをしてるところですが、15秒などの短尺はほんとそのまま4コマ漫画です。もしかすると2コマ漫画くらいかもしれません。意外と15秒は短いです。痛感します。

>絵で表せるものは台詞にしない

広告のコピーとビジュアルにも同じようなことが言われてます。絵解き、字解きは駄目というものです。削ぎ落とすことが大変なのは広告も同じですし、分野が違っても同じなのは面白いですよね。

今後ともよろしくです。

投稿: mb101bold | 2008年2月 3日 (日) 16:47

あ~、蔓延してますね、これ。笑
こうやって聞くとすっごく陳腐に見えますな。
でも、「ダケジャナイ テイジン」は好きですけどね。

投稿: チャパ王(大学生) | 2008年2月 4日 (月) 18:55

禁じる事といえば、「プレゼンは受けない」ということでしょうか。

代理店時代に、山のようにプレゼンをこなしてて、結局、プレゼンというのはリーマンの保険に代理店が付き合うような儀式・・・という認識と、勝った負けたの思いが残っています。

なにかをトライするよりも、なにかをしない、と決める方が生き方をクリアにすると信じてるので、小生は「プレゼンは受けません」とやせ我慢で行きます。

結構それでウマくいくものですから。

投稿: チャーリー | 2008年2月 4日 (月) 20:15

>チャパ王さま

はじめまして。

私が作ったわけじゃないけど、テイジンの広告の解説です。テイジンって、繊維の会社だと思われてて、テイジンはそれだけじゃないよ、いろいろやってる会社だよってことを伝えたくて「ダケジャナイ」というコピー。

つまり、「(繊維)だけじゃない」というのを伝えることがが広告の勝負どころなので、同じレトリックでも、これは「だけではありません話法」ではないんですね。むしろ、だけじゃないでいこうと勝負してるんです。

きっと、だからテイジンの広告はいい感じに見えるんだと思います。専門用語で、SMP(Single Minded Proposition)というのですが、それがきちんとあるいい広告だと思います。


>チャーリーさま

こんばんわ。

なにかをしないというオリエンはすごく作る方はクリアになります。うちはこうです。だから、こんな感じは駄目なんです。そういう感じの会社は、ブランドがしっかりしているんですよね。

プレゼンは、私にとってはつくった思考のプロセスをオープンにする場なのかも。あまり説得とか考えないです。でも共有というのは考えるかもです。

プレゼンは受けませんという企業はかっこいいですよね。なんか、そんな企業だと、逆に、一度ゆっくり話をさせてくださいという気になります。不思議なもんですねえ。

投稿: mb101bold | 2008年2月 5日 (火) 00:08

チャーリーさま

コメントに関連して、新しいエントリを書きました。我流のプレゼン論です。

投稿: mb101bold | 2008年2月 5日 (火) 01:56

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