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2008年3月23日 (日)

クライアントか、スポンサーか、お得意先か。

 最近は、パートナーという言い方もあるようですね。広告会社から見た広告主をパートナーと呼ぶということの意図するところは、広告主と広告会社は対等であるべきみたいなことなんでしょうけど、広告主と広告会社は非対称な関係であるのは変えられない事実で、それは個人的には、考え方や理想としてはわかるけどピンとこないです。それよりも、非対称な関係だからこそ、広告主は専門家である広告会社に依頼する意味があると思うんですね。

 我々が専門家たり得ているのか、という論議は大いにありますが、まあ今はそれはそれとしてとりあえず置いておいて、まずは、もっとも一般的だと思うクライアントという言葉から。ウィキペディアにはこうあります。

クライアント(client)とは、広告の用語で、広告代理店が依頼を受けて担当した広告主のことをいい、特に得意先、顧客を指す言葉として用いられる。同義語にアカウント(account)がある。

一般に用いられる広告主(広告料を支払って広告活動を依頼する法人または個人)はアドバタイザー(advertiser)、民間放送の広告主、番組提供者はスポンサー(sponsor)、得意先となりうる見込み客をプロスペクト(prospect)として区別している。

したがって、雑誌や新聞などの紙媒体における広告主をスポンサーと呼ぶのは適切ではない。

クライアント(広告) - フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

 clientという言葉は、ラテン語が由来だそうで、忠告を聞く人という意味がある言葉だそうです。心理療法なんかでも、相談者のことをクライエントと言いますし、この言葉は、専門家である広告会社が相談者である企業に、マーケティングやストラテジーを提供するという関係性を表現しています。我々が広告主のことをクライアントと呼び出したのは、それほど昔ではないような気がします。

 昭和44年(1969年)に発行された『みごとなコピーライター』という西尾忠久さん(参照:著作をブログ化されています。これは素晴らしいことだと思います。)のアメリカ広告業界で活躍するコピーライターのインタビュー集では、広告主のことをアカウントと呼ぶ記述が多くみられます。ナンバー2キャンペーンで有名なレンタカー会社がエイビスに対抗して、ナンバーワンであるハーツの広告を担当したことで有名なジム・ダーフィーさんだけは、明確にクライアントと呼んでいます。

 DDBがワーゲンの広告キャンペーンで一躍有名広告代理店の仲間入りをした頃は、まだ牧歌的な時代(ある意味では戦国時代)でした。その時代が終わり、一応の決着が出た後は、欧米の広告代理店はどんどん肥大化していきます。マーケティング理論や調査手法も緻密化し、そうしたムーブメントの中から、クライアントという言葉が生まれたのでしょう。これは推測ですが、多種乱立時代から、メガエージェンシーの時代に移行するときに一般化した言葉のように思います。

 この言葉、広告会社の間では一般的ですが、広告主は自分たちのことをクライアントとは呼びません。そりゃそうですよね。広告会社の身内では「こないだ、とあるクライアントがさあ」と呼び、広告代理店では「あの代理店、いいかげんなんだよね」と呼ぶ。そんなリアリティを持っている言葉です。身内向けの言葉ですね。

 次に、スポンサーという言葉。これは、私より随分先輩の広告人がよく使う言葉ですね。先のウィキペディアの記述にもありますが、これは、番組提供が由来。日本の広告会社はテレビ局、ラジオ局とのつながりが深く、民放の番組のためのスポンサーを探すことが広告会社の仕事であるという意識が強かったので、その番組スポンサーが一般化して、広告主の総称として使われたのでしょう。

 年配のクリエーターさんは、広告主のことをスポンサーとよく言います。そのニュアンスは、表現者として広告作品を作らせてもらえる、みたいな感じがあります。とある年配のクリエーターさんは、社内の担当営業のこともスポンサーと呼んでいました。つまり自分にとってのスポンサーですね。それはある意味でわかりやすいなあ、と思いました。クリエーターという人種は、良くも悪くもそんな感じです。このスポンサーという言葉は、今ではあまり使う人がいなくなりました。使うのは、もっぱらテレビ、ラジオの業界でしょう。

 最後に、お得意先。これは、もうビジネスが続く限り生き続ける言葉でしょう。お得意、と短く言うことも多いです。でも、これは広告用語ではなく、一般のビジネス用語というか、商売の言葉ですね。私は、この言葉を使うことが多いです。

 クライアントも、スポンサーも、パートナーも、それを発するときに、自分の考え方を問われるような気分になり、ちょっとしんどいんですね。考え過ぎかもしれませんが。私自身は、理想としてはパートナーな感じを目指したいなと思いますが、それを目指す最中に、それが実現してないにもかかわらずパートナーと呼ぶのは、なんか気恥ずかしい感じがします。まあ、分かりやすく言えば、照れるんですね。

 余談ですが、一頃、広告代理店を、広告会社もしくはエージェンシーと言い換えよう、みたいな空気がありました。クライアントといい、広告会社やエージェンシーといい、広告会社側の自意識が見え隠れして、ある意味、なんかかわいらしいというかいじらしいというか。そんな私も広告会社と書いてしまっていますね。

 英語のagencyには代理店という意味がありますが、この広告代理店という言葉が日本で定着した理由には、日本の広告会社の多くが、媒体社の広告販売代理店にルーツを持つということが挙げられるでしょう。日本の広告会社の実務の現状にはぴったりくるというか。

 ホイチョイプロダクションのマンガ「気まぐれコンセプト」を見ててもそんな感じがします。ちなみに、あのマンガに出てくる白クマ広告社制作局のマツイさんは、元サーファーですが、確かにこの業界にはサーファーが多いですね。なぜだろう。ちなみに、私は元サーファーではありません。でも、ジャズ研出身ではあるので、まあ、ある種の典型ではあるんでしょうね。

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コメント

始めてコメントします、ちょっと一言。
エイビスとハーツはレンタカー屋さんです。

私も元外資系広告屋、呼び方は、お得意、もしくはクライアント
でした。

その時の社長(10年前、50代後半)が「スポンサー」って
言い方をした時、ちょっと違和感を覚えた記憶が有ります。

アカウントは、名刺にアカウントエグゼクティブ(要するに平の営業)
って書く為の用語の様な気がします。

経理担当部署ではアカウントと呼んでいましたね、これはお得意を
お金の面でしか見ていない様なイメージがあります。

投稿: をたくな講師 | 2008年3月25日 (火) 09:10

をたくな講師さん、はじめまして。

ご指摘ありがとうございました。そうですね、レンタカー屋さんでした。うっかりしていました。修正いたします。

確かにアカウントは、お金のイメージ、ありますね。そういえば、営業部がアカウントグループに名称が変わったり、また戻ったり、そういう言い方にも流行りすたりがあるようです。

今後ともよろしくお願いします。

投稿: mb101bold | 2008年3月25日 (火) 09:51

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