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2008年3月30日 (日)

魂は細部に宿る、か。

 前に写研の書体についてのエントリを書いて、そのエントリを読まれたとある方からメールをいただきました。そのメールのやり取りの中で、その方からある疑問というか質問がありました。山田洋次監督の「母べえ」のプログラムに使われている書体が美しいのだけれど、それが何かがわからないとのことでした。

 写研の石井明朝かなと思って調べてみると、少し違うとのこと。なので、私は、いまどき写植を使うというのは稀でしょうから、モリサワのA1、もしくは字遊工房の「遊明朝体五号かな」、A-1というタイポグラフィーの会社から出ている「ZENオールド明朝」ではないかとお返事をしました。しかしながら、どうもそうではないらしく、その方曰く、「さ」の処理が違うとのこと。そして、メールにはそのスキャン画像が添付されていました。

Kabe_3  これが、そのスキャン画像。確かに「さ」がゴシック体や普通の明朝体のように右上の部分が離れています。通常、A1などの筆記体の持つ流麗な感じを意識した流麗な感じの明朝書体は、右上の部分を筆記体のように続けてデザイン処理している場合が多いのですね。

 「母べえ」のプログラムには制作デザイン会社の名前が記されていたので、その会社に問い合わせるという手もありましたし、その方もそうしようかと書かれておられましたが、探偵さんのような気分にもなってきましたし、面白そうなので、私のほうでも調べてみることにしたのです。

 で、職場のアートディレクターに相談しました。久しぶりに写研の書体帳を引っ張りだしてきて調べてみると、なるほど石井明朝とはまったく違います。マックの中に入っている遊明朝、ZEN明朝で同じ文字を打ってみると、それも違うことは一目でわかりました。文字の設計が違うんですね。文章にすると一目瞭然でした。

 そのアートディレクターが言うには、モリサワのA1ではないかなと。私は、メールのやり取りからA1ではないと思っていましたので、違うらしいよと言ったのですが、そのアートディレクターは、それでも雰囲気はA1だと思うんだけど、と言っており、A1で文章を同じように打ってみたんですね。歯送りや行間も一緒にして。そして、その二つを並べてみたのです。

A1_6

 おおっ、同じだ。その画像を重ねても、フォントのデザイン設計は寸分違わずまったく同じでした。それが上の写真。右がオリジナルA1。左が「母べえ」プログラムのスキャン画像。で、クイズです。この2つの書体で若干違うところがある文字が3つあります。分かりますか。「さ」だけではなく、あと2文字ありますよ。さて、どの文字でしょうか。答え。「さ」と「す」と「た」の3文字でした。ということは、「母べえ」のプログラムを制作した方は、A1で打って、この「さ」と「す」と「た」を加工したわけですよね。筆記体風に続いている部分をカットして整形しているんですね。ちょっと感動しました。

 写植時代は、例えば、「、」や「。」を他の書体にするとか、セリフを切ってしまういった、こういう書体の加工や微調整はよくやったものですが、デジタルになってからはしなくなりました。デジタル時代にきちんとそういう丁寧な仕事をされているんですよね。いい仕事をしているなあと思いました。右と左を、アバウトに見ていただくとわかると思いますが、こういう部分を切って加工するだけで、文章の雰囲気がまったく違ってくるんですよね。

 右のオリジナルA1は、A1独特のこってりした感じがありますが、左の微調整A1は、すっきりとした感じが出ていると思います。すこし教科書体風味になるんですよね。ちょっと余談ですが、細部をじっくり眺めてみると、「ね」は加工しなかったんだなあ、なんてことも気付いて、思わずほころんでしまいました。「ね」は加工が少々めんどくさそうですものね。まあ、「ね」はいいか、見逃しておくか、なんて思ったのでしょうね。

 魂は細部に宿るとか、神は細部に宿るとよく言われますが、ほんとこれはいい例ですね。日頃、忙しさを言い訳にして、こうした細部へのこだわりをあきらめがちな私には、いい反省材料になりました。さあ、がんばらなくちゃね。

関連エントリ:
写研フォントを使わなくなって、もうずいぶんたちます。
写研フォントが好きな人って、まだまだいるんだなあ。うれしい。

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コメント

なんか素敵な話ですね!
すごくロマンチックだと思いました!

日頃ついつい手を抜いてしまう部分が結構あるので、
きちんとしなきゃな、といい教訓になりました。

投稿: 就活中のいち学生 | 2008年3月31日 (月) 17:52

就活中のいち学生さん、どうもです。

ロマンチックかあ。言われてみると、ロマンチックかもしれませんね。社会人になって20年弱経ちますが、小さなことも、手を抜かないって大事だと本当に実感しています。

就活、がんばってくださいね。

投稿: mb101bold | 2008年3月31日 (月) 22:25

はじめまして。

写研について調べていたらこちらのブログにたどり着きました。
私は20代なので当然写植は使ったことがなく、こちらのブログで当時のことを知ることができて面白かったです。

ところで、このかな書体はA1ではなく、モリサワのアンチックAN Lではないでしょうか。
細部の処理だけではなく、文字の骨格自体が多少違うように見えます。

4年前の記事にいまさらのコメント、失礼しました。
これからも楽しみに訪問させていただきたいと思います。

投稿: fu-fu | 2012年4月 7日 (土) 00:39

Macの場合ですが、画像をドラッグすると半透明になりますので、その画像と記事中の画像を重ねて見てください。プロポーションはまったく同じなんですよね。ちょっとしたことで全体のプロポーションの設計まで違うように見えるのは不思議です。
もしかするとアンチックANLがA1のアレンジかもしれませんので、正解はわかりませんが。
今後ともどうぞよろしくお願いします。

投稿: mb101bold | 2012年4月26日 (木) 02:53

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