こういう場合はどうしたらいいのでしょうね。
少し前のことになりますが、私、髪を長く伸ばしていたことがありまして、どのくらい伸ばしていたかと言うと、肩まで、というか背中に届きそうなくらい。それをゴムバンドで束ねていたわけです。いわゆる丁髷ですね。今はそんなに長くないし、いたって普通の髪型ですけどね。
広告会社の制作といえば黒い服ですね。とりあえず服に迷ったら黒を着ておけ、というのが制作業界で代々伝えられる教えでもあり、私も例に漏れず、黒いジャケットに黒いシャツ、黒いパンツを着ておったわけです。そんなうさんくさい出で立ちで東京駅の地下街を歩いていると、前方からこちらに向かって歩いている年配の上品そうなご婦人が私のことをチラチラ見ているのです。
まさか私のことを見ているとは思いませんので、後ろを振り返ると、誰もいない。ということは、やっぱり私のことか、なんて思っていると、そのご婦人がどんどん近づいてきまして、ちょっと躊躇はされているご様子でしたが、私に話しかけてきたんですね。
「あのぉ、ドン小西さんでいらっしゃいますよね。」
えっ、ドン小西?私は、いままでいろんな人に似ていると言われてきましたが、ドン小西さんは初めてで、とっさの対応ができなくなってしまいました。そんなとき、人間はどうなるかというと、笑顔になるんですよね。西欧人から揶揄されるジャパニーズスマイルという感じの笑顔。そのとき、ドン小西さんの顔も頭に浮かばなかったので、ドン小西?ドン小西?ドン小西?というふうに、頭の中でこだまするわけですね。
そんな感じでひきつった笑顔で対応していると、そのご夫人は鞄の中からノートのようなものとボールペンを取り出して、ニコニコしながら「サインをお願いできますか?」なんてことを言う訳ですね。で、私。
「す、すみません。私、ドン小西ではないんです。」
「いえいえ、ドン小西さんですよね。いつも見てます。がんばってください。」
そのご婦人は、いわゆる街で芸能人を見かけると、気軽にサインをねだるようなおばちゃんテイストの人ではなく、ノートとボールペンを鞄にしまいました。きっと、そのおばさんは、ドン小西さんはサインを嫌がる方なのだと察したのだと思います。ご婦人は、子供のようないい笑顔で私の顔を見ていました。
「えっと、あの、その、」
と私がドン小西ではないと再度伝える間もなく、ご婦人は去って行かれました。あれはあれでよかったのかなあ、なんて今も考えます。こういう場合はどうしたらいいんでしょうかね。まあこういうシチュエーションは、これからの人生で何度もないと思いますけど。
考えられる対応は、おおざっぱに言えば2つありそうです。
まず考えられるのは、ドン小西さんになりきって、サインをしてあげるという対応。ご婦人のお名前をお聞きして「○○さん江 ドン小西」なんてノートにでたらめサインを書いてあげて、握手などして「応援ありがとうございます」とか言ったりして。でも、こんなことをすると、ドン小西さんにご迷惑でしょうし、ご婦人がそのサインを人に見せて、偽物だとわかった時のことを考えると、すこし躊躇してしまいます。
もうひとつは、きちんと論理的に「私はドン小西ではない」ということを伝えるという対応。名刺などを出すのもいいかもしれません。でも、そうなると、ご婦人に恥をかかせることになりますし、なんか粋ではないなと思ったりもします。それよりも、その場がさみしい感じにつつまれてしまいます。それもなんだかなあと思います。
いまだにあのご婦人には悪いことをしたなあ、なんて時々考えるんですね。それと、ドン小西さんにも。でもまあ、あのご婦人も「ドン小西さんって、テレビではあんなふうに明るく陽気な方だけど、本当は少しシャイで、サインとかもあまりしない人なのよ」なんて今も話しているのかもしれないし。それにしても、どうしてドン小西さんなんでしょうか。似てないと思うけどなあ。年も違うし。うーん。
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コメント
はじめまして。
いつも興味深く、楽しく拝見しております。
ドン小西さん、のくだりで
思わず吹き出してしまったことをお詫びしつつ。
ドン小西さんの株をあげ、
ご婦人には晴れやかな余韻をプレゼント・・・
つまり最良の選択、最高の展開だったのではと存じます。
今ごろ、ご婦人は(シャイな)ドン小西さんを
ますます応援しておられることでしょう。
そう妄想するだけで、心がぽかぽかしてきました。
ちなみに、わたしも5年ほど前までは
業界の掟にしたがって(?)黒ずくめでした。
現在はその反動か、色ものばかり着ております。なぜかしら。
投稿: ごきげん | 2008年4月19日 (土) 18:37
ごきげんさん、はじめまして。
最良の展開かどうかはわかりませんが、まあ今も記憶に残っているということは、あれでよかったのかもなあ、なんて思っています。というか、私の場合、もし同じ展開に出会ってもああなってしまうような気もするんですよね。
黒ずくめは最近は少なくなりましたね。もはや真木さんくらいかも。今はサーファーっぽい人が多いですね。
それと、書いてて気付きましたが、ごきげんさんって言葉、いいですね。なんか再発見です。
投稿: mb101bold | 2008年4月19日 (土) 23:16
>きちんと論理的に「私はドン小西ではない」ということを伝えるという対応
爆笑しましたw
サングラスありならまだ仕方ないですけど…
投稿: | 2008年4月20日 (日) 03:52
mb101boldさん、こんにちわわわ(^^)
そっかぁ。ドン小西ですね。
確かファッションデザイナーのかたですよね。つまり、おしゃれに見えたってことなのでわ?
ちょっと近所でドン小西っぽい人をみかけたらよーく見ておきますね。
それにしても、ドン小西とかはいきんぐウォーキングのコーラ一気飲みげっぷの人とかようするに、「ガタイのいい」人なわけね。
>>ドン小西?ドン小西?ドン小西?というふうに、頭の中でこだまするわけですね
↑これがおかしかった(^▽^)
なんか映像が浮かんだです。
私は有名人に似ているといわれたことはないんだけど、よく、「私の親友に似てる」とか、「私の姪っ子に似てる」とか「私の妹に似てる」とかいわれます。要するによくある顔なんだと思うけどね。
ではでは~(^0^)/
投稿: ggg123 | 2008年4月20日 (日) 11:05
>>サングラスありならまだ仕方ないですけど…
そうなんすよね。眼鏡はかけているけど、目は見えるわけだし、それでもご婦人は「ドン小西さんですね」と言われるわけだから、私はドン小西さんなのかもしれません、なんてわけはないか。
>ggg123さん
まあ、あたしゃクリエーターでございオーラが出ていたのかもねえ(このオーラはやだなあ)。ご婦人は、クリエーターオーラ=ドン小西だったのかもかも。でも、私はそんなに身長は高くないんですよ。
ggg123の場合は、その人が親近感を持っている人に似ていると言われるということは、きっと、初対面でも親近感を持てるようなオーラがあるんでしょうねえ。文章で想像するだけなんですが、なんかすごく、わかるわかるという感じです(^^)
投稿: mb101bold | 2008年4月20日 (日) 12:18