「コンビニ受診」という言葉を知って、あれこれ考え込んでしまいました。
5月1日の朝日新聞大阪版社会面に『泉佐野病院救急を停止 内科・外科来月から』という記事がありました。医師不足のため、6月から内科・外科の「救急告示」を取り下げ、夜間・休日診療を当面休止にするとのことです。大阪府南部は、以前から救急医療機関が手薄とのことで、その観点では非常に深刻な事態であると言えるようです。病院としては、病院自体が崩壊しかねない状況であるとの判断で、やむを得ずそういう措置を取ったとコメントしていました。
この記事の横にはコラムがあって、見出しに『「コンビニ受診」医師疲弊』とあります。コンビニ受診とは、軽症者の救急外来受診とのことで、それが医師の疲弊の原因となっているとのこと。消防庁調べでは、06年に救急車で搬送された約489万人に占める軽症者の割合は52%。記事は、こうした気軽な受診が救急医療を崩壊させているという論調(そうはっきりとは書いていないですけどね。最近の新聞はそういう感じが多いです。)でした。
私は、この「コンビニ受診」という言葉を今まで知りませんでした。なんとなく下品なネーミングではあるな、とは思うものの、それはある部分では事実を示す言葉でもあるのかもしれません。私は、病院に行くのを躊躇してしまいがちなタイプですから、へえ、そんな人もいるんだなあ、でも、そういう人はいるだろうな、という感想を持ちましたが、しかし、それが社会問題として、キャッチーなネーミングとともに社会面で語られる感じには少し違和感を持ちました。
なんとなく危惧するのは、こういうキャッチーな言葉が流行ると、医療周りの空気が息苦しくなるだろうなということです。正直、まいったなあと思いました。相当重篤な事態でしか医療に頼れない空気がつくられてしまうのが怖いです。この言葉が流行らないことを祈るばかりです。私には90歳を超える祖母がいるのですが、要介護から要支援に変わりました。医療ではなく介護の分野ですが、すでにそういう方向に社会が進みつつあります。90歳を超えているんですよね。それで、今まで要介護だったのです。それが、本人は年をとる一方なのに、要支援。
こういう状況は、私が語るまでもなく、もっと深刻な状況に陥っている方がいらっしゃると思いますし、この社会問題については私自身あまりよくわかっていないので、これ以上の言及は差し控えますが、私は、広告屋さんのひとりとして、こうした言葉が流行って、本当に救急医療が必要な人たちが躊躇するような空気にならなければいいな、と思っています。
この「コンビニ受診」もそうですが、「自己責任」とか「モンスターペアレント」とか、そうしたキャッチーな言葉が流行るとき、世の中は多分にウルトラ化する傾向がある気がします。そうして起こったウルトラ化によってできた空気は、本当の問題を隠してしまうような気がします。これは、広告の力に似ているところもありますが、その広告の力のコインの裏側には、こうしたことがあるのですね。キャッチコピーひとつで、売れてはいけないものもバカ売れするようなことも起きてしまいます。これは、広告屋として自戒を込めて思うことです。
「コンビニ受診」が示すような人は、どんな社会でもどうしようもなくいると思うんですよね。それを「コンビニ受診」と名付けることで、そういう人を社会から完全に排除しようという方向に物事が動くような気がします。そうなると、どういうことが起こるか。それ、コンビニ受診じゃないの?という相互監視と、コンビニ受診という価値観の肯定の両極しかない状態になるような気がするんですね。本当の解決は、その間にあるような気が、私はしています。
それはまあ、バランスとか妥協とかあきらめとか言われるような、かっこわるいものでしょうが、こういう問題は、ある意味、社会システムを崩壊させる閾値を超えないようにするにはどうしたらいいかが課題な気がするんです。朝日新聞の記事もそういうことを目指しているんでしょうが、現象としては、きっとそうならない。それは、言葉の悪魔的な力なんだろうなと思うんですね。なんか危ないなあ。あんまり安易にたとえたり、言い換えたり、ネーミングをしたりするのはよくないのになあ。そんなことを、考えてしまいました。
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コメント
こんにちは。
初めておじゃまします。
「コンビニ受診」という言葉を使わずにコンビニ受診をなくすことを目指して、HPを作ってみました。
「みんなの救急医療」
http://icedyuzutea.web.fc2.com/
ご覧いただけたら、うれしいです。
(^▽^)
投稿: アイスゆず | 2008年5月 4日 (日) 14:03
アイスゆずさま、はじめまして。
HP「みんなの救急医療」を拝見いたしました。わかりやすく整理されていて参考になりました。ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。
投稿: mb101bold | 2008年5月 4日 (日) 15:18
こんばんは。(^▽^)
HPをお読みいただいてうれしいです。
ありがとうございます。
内容はいかがでしょうか。
「本当に救急医療が必要な人たちを躊躇」させてしまわないでしょうか。
キビシイご意見をいただけたらうれしいです。
投稿: アイスゆず | 2008年5月 5日 (月) 19:38
アイスゆずさん、こんばんは。
トップページの「このサイトは緊急時じゃなくて、平時にご覧ください。」という言葉が企画意図をしっかり伝えていていいと思いました。
ウェブは比較的情報摂取の意識が高い人たちが多いと思います。なので、こうした丁寧な語り口のHPは非常に役に立つと思います。Q&いろいろな意見の人がいますので、いろいろあるかもしれませんが、がんばってください。
私もこの問題を自分の問題として考えてみたいと思います。
投稿: mb101bold | 2008年5月 5日 (月) 21:47
こんにちは。(^▽^)
たびたびおじゃまします。ほめていただいて、とてもうれしいです。ありがとうございます。
でも、どうでしょう。私は文章が下手です。HPのどこかに、弱者切捨てにつながると受け取られそうな部分はないでしょうか。かかりつけ医を持ったり、受診の時はメモなどを利用するというのは、本人がより良い医療を受けるためもありますが、救急外来の患者の数を少しでも減らすため、一人の患者にかかる時間を少しだけ短くするためです。救急医をやめさせないためです。ある病院が救急を閉鎖したら、その地域を切り捨てることになります。でも、私の文章の書き方だと、より良い医療を受けるのは自己責任だ、みたいな感じる部分があるんじゃないでしょうか。
投稿: アイスゆず | 2008年5月 6日 (火) 16:33
もうひとつお聞きしたいことがあります。
私はこの問題をネットである人に教えていただきました。今年の2月に教えていただいてから、試行錯誤しながら他の方に伝えています。でも、私のHPに来る方の数は限られています。だから、私のHPに来て下さった方が、また自分のブログなどで他の方に知らせるという形で広がっていくことを期待していました。でも、思うようにいきません。みなさん、がんばってくださいとおっしゃるだけです。それは、ちゃんと理由があることだと思います。HPに、何か「自分も知らせよう。リンクしよう。」と思っていただけないような部分があるのだと思います。もし、何か思い当たる点があったら、率直にお話いただけたら、とてもうれしいです。
投稿: アイスゆず | 2008年5月 6日 (火) 16:35
アイスゆずさん、こんばんは。
>HPのどこかに、弱者切捨てにつながると受け取られそうな部分はないでしょうか。
それは、率直に言うと、ないとは言えないと思うんですよ。具体的にどこがというのはわかりませんが、それはしょうがないことではないかなと思います。
ある意見には、必ずその意見によって不都合な部分があるもので、逆に言えば、それがなければ意見とは言えないと思うんですね。ですから、その不都合の部分を自覚するということが大切な気がします。
そういう意味では、アイスゆずさんは、その自覚をしっかり持っていらっしゃいますし、十分機能していくものではないかと感じました。
それと、文章については上手下手ではないと思うんですね。もちろん分かりにくいと駄目ですが、その点で言えば、すごく分かりやすかったです。
>だから、私のHPに来て下さった方が、また自分のブログなどで他の方に知らせるという形で広がっていくことを期待していました。
この部分については悩ましい問題ですが、なかなかうまく行かないのが、どのHPでも現状ではないでしょうか。
とりわけ、この医療問題は、自分の問題として考えるにはきっかけがいるし、なるほどそういう問題があるんだね、で終わることが多いです。
けれども、それだけでもすごいことだと思うんですよ。私なんかも、このエントリは、今現在、読まれたいのもありますが、時間が経って、同じような思いの人が、検索をして訪れてくれることを期待して書いています。
そして、そういう中で、ひとりでもふたりでもエントリが読まれ、このコメントが読まれ、その中のひとりでもふたりでもアイスゆずさんの名前のリンクから当該HPに訪れてくれる人がいる。そういうことが、個人メディアの希望できることではないかと私は思っています。
>HPに、何か「自分も知らせよう。リンクしよう。」と思っていただけないような部分があるのだと思います。
うん。お気持ちはわかります。でも、リンクをすすんでしてもらうのは、けっこうどんなHPでも難しいことだと思います。強制もできないですしね。プロフェッショナルがHPをつくってもなかなかうまく行きません。
なので、結構時間がかかりますし、それこそがんばってくださいとしか言いようがないのは理解できます。
リンクは、検索システムの肝ですから、様々なSEO業者がしのぎを削っている分野なので、率直に言えば、あまりリンクにこだわりすぎるとスパム的な印象を与えてしまうので得策ではないと思います。
そこで提案なんですが、ブログをお始めになられてはいかがでしょうか。それこそ、医療分野ばかりでなくてもいいと思いますし。そして、アイスゆずさんの生活実感の中で、HPの意見を伝えていくことができるのではと思います。
あと、今、ウェブは記事ごとのパーマリンクでピックアップされる仕組みになっていますので、アクセスという意味でもブログは有利かと思います。
なんか出過ぎた感じになってしまってすみません。ではでは。
投稿: mb101bold | 2008年5月 6日 (火) 19:47
こんばんは。(^▽^)
お返事いただいて、本当にうれしいです。
ありがとうございます。
すごく勉強になります。
私自身、私のすることが弱者切り捨てになるのは、絶対にイヤです。でも、何もしないこと、知っていることを伝えてあげないことも、弱者の切捨てです。このままでは、時間外料金の徴収がはじまります。経済的に苦しい人をばっさり切捨てることになります。経済的に苦しい救急患者と医療を同時に守る方法があるのだということを、伝えるのが本当の親切だと思います。
もし、行政が責任を持って全員に安全に伝えるべきだ、医療にもっと税金を投じるべきだと言うなら、議員を通じて国に訴えるか、次の選挙で一票に意見を反映させるしかないと思います。でも、私は議員を通じて国に訴える勇気なんか、これっぽっちもありません。次の選挙はいつか分からないし、それまでいくつの病院が、救急をやめてしまうか分かりません。それまで何もしないでいるのは、やっぱり不親切で冷たいと思います。
もう少し、弱者切捨てにならないような話の伝え方を、考えてみます。弱者切捨てにならないような、安全で賢い話の伝え方があるんじゃないかと思います。
実は、先にブログを初めて、それからHPを作りました。
ブログはこちらです。
「みんなの救急医療」
http://ameblo.jp/icedyuzutea/
はじめは、「コンビニ受診で50通り」というブログ名で「コンビニ受診」という言葉を使って記事を書いていました。でも途中で、「コンビニ受診」という言葉に抵抗感を持つ方がいることに気づいて、ブログ名を変え、それから「コンビニ受診」という言葉を使った記事を削除しました。
>あまりリンクにこだわりすぎるとスパム的な印象を与えてしまうので得策ではないと思います。
すごく勉強になります。
ありがとうございます。(^▽^)
HPじゃなくて、この問題を広く知ってもらうことが目的なので、リンクはこだわりません。内容を、うまく伝える方法を考えたいと思います。
投稿: アイスゆず | 2008年5月 6日 (火) 22:44
アイスゆずさま、こんばんは。
いえいえ、こちらこそ、やりとりの中でいろいろ考えるきっかけをいただきました。
またあらためて書きたいと思いますが、私は広告屋ということもあって、例えばメモを取るということでも、医師を辞めさせないためにメモを取ろうとは思わないのが人間なんじゃないかな、なんて思うんですね。なので、医師も人間だから、いい伝えかたをしてあげて、良質な医療を引き出そう、と書きました。
人が、私もメモを取ろうかなと思うとすれば、自分がいい医療を受けられてトクだという動機でしかない。救急医療崩壊を防ぐという大きな目的のために、メモを取ろうとは思わない。愚かしいけど、それが人間だと思うんです。
ただし、地域の医療機関が実際に危機に陥っているときは、別。きっと市民運動的なことが、危機を救う助力になると思います。いつも利用している医療機関を救うという目的が自分のトクになるから。
フェーズが違えばコミュニケーションのやり方が違うのも、コミュニケーションの難しいところですね。
それと、ここのコメントのやりとりみたいなのは、すごく面白いと思うんです。この問題に心を痛めあれこれ考えるアイスゆずさんのリアルな姿、つまり、このコメントの言葉みたいな、迷いながら進むアイスゆずさんをブログに書くといいんじゃないか、と思いました。
それは、内容をうまく伝える方法のひとつではないでしょうか。お互い、それぞれの問題意識でがんばっていきましょう。ではでは。
投稿: mb101bold | 2008年5月 7日 (水) 00:08
コンビニ受診、ん〜厄介な言葉が
生まれたんだね。
一番こわいのは、緊急かもしれない
患者さんが、病院に行くのを
ためらってしまうこと。
そういった意味で
mb101boldさんの意見に賛同します。
コンビニ受診をやめましょうと
啓蒙することも必要だけど、
同時に、「この程度なら大丈夫だと」
素人診断しないこと、と呼びかけることも
必要な気がするね。
そもそも緊急性があるかないかなんて、
素人では判断つかない場合も多い。
うちの娘も、二回、救急車で運んだし…。
担当医は、少しでも異変があったら、
迷わずいつでも救急車で連れてきなさいと
いっていた。こういうのが、
ほんとうにいいお医者さんだよね。
そもそも問題となってる受診は、
あきらかに軽度な症状の患者さんだろうし、
本人もわかってるんじゃないかな。
だからマスコミの取り上げ方も
非常に問題があるような気がする。
知り合いのブログに、
あまり長々と書きたくなかってけど、
どうしてもひと言、言いたかったんで。笑
すまん。
投稿: のばらパパ | 2008年5月12日 (月) 14:36
のばらパパさん、どもです。
私もGWに帰ったとき、素人診断のこわさを思いました。患者さんとその家族は、あるいみ閉じられていますし、日常の連続性の中で見ているので、はたから見たら相当なことになっていても、本人たちはなかなか気付きにくいんですよね。
私が帰ったとき、私から見て相当な感じになっていたのに、なんかひたすら我慢という感じになっていました。
結局、私が急患として連れて行ったんですが、今から思えば、あんな緊急時でさえ、私の心の中にためらいの気持がありましたから。
コメントありがとうございます。なんか、ホッとしました。笑
投稿: mb101bold | 2008年5月12日 (月) 17:29