かつてテレビは軽蔑される存在だった。
TBSのドキュメンタリー番組「あのとき…村木良彦氏とTV私論 是枝裕和」を観た。テレビ黎明期の話。放送局ではラジオがメディアとして偉く、ラジオ制作部は駄目な人、使えない人を新しくできたテレビ制作部に出したとのこと。もちろん映像メディアが軽く見られていた訳ではなく、映画は、表現の場としては頂点であったようだ。一方、テレビは紙芝居と揶揄された。テレビ黎明期の武勇伝はよく聞くけれど、そうした現実のリアルな話はあまり聞かない。けれども、よく考えれば、そんな感じであることは容易に想像できる。
今や死語かもしれないが、広告代理店にはラテ局という部署があった。テラではなくラテ。ラジオ、テレビ。それは、できた順番というだけではない何かが表現されていたのだろう。テレビは、映画の模倣から始まったとドキュメンタリーは語る。けれども、落ちこぼれのテレビマンたちは、映画に近づくことをあきらめる。カットが多く、緻密にモンタージュされた構成を放棄し、カットが少なく長まわしする手法を選んだ。そのために、長まわしに耐えられる素材を探し始める。なんとも本末転倒な話ではあるが、時代を根本的に変えてしまうことは、そういうご都合話から生まれるのだろうな、と思った。
しかしまあ、テレビ黎明期を支えた人たちのすごいこと。構成、寺山修司。音楽、山本直純。もちろん、このドキュメンタリーの主役である萩元晴彦、村木良彦。笑福亭鶴瓶がよくラジオで嘆く話がある。昔のラジオは挑戦があった、自由があった。そこにマーケティングが入って来て、ターゲットをセグメントした。斜陽のラジオ局だから、広告を取るためには仕方がないことかもしれない。結果、深夜はアニメ番組と、アイドルが出演する全国ネットの30分番組ばかりになった。大阪のラジオは終わった。鶴瓶はそう嘆きながら、大阪のラジオ番組に今も出演し続ける。自身を育ててくれたラジオを蘇らせるために。
逆に見れば、ラジオは終わったと嘆くことで、鶴瓶にとって、ラジオは今も黎明期であるとも言うことができる。テレビは終わった、新聞は終わった、広告は終わった。そう認めることで、黎明期を生きることができるのかもしれない。自分の領域で言えば、黎明期を生きるということは、広告とは何かと問い続け、ひとつひとつ形にしていくことなのだろう。広告とは何かと考えることは、その答えを形にしていくことがなければ、ただの問答に過ぎない。いろいろ考えさせられた。月曜日が始まる。
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コメント
その番組は私も裏方として某民放テレビに開局から定年まで在職したので、興味深々で・といいながら、毎度の「ながら視聴」ですが・「テレビは軽蔑・」は無かったように思います。なにしろ戦後の混乱がやっと落ち着きを取り戻し、平和、・今となっては懐かしい言葉かもしれないけれど・が戻り、今だからこそそう思えるけれどもっともポピュラーな娯楽、家にいながらにして得られる娯楽・という位置づけ?に今で言えば情報産業のトップが気がつかないはずは無いので・だから「軽蔑」は無かったように思います・ただ一般には理解が不十分だっただけ。だからこその正力日本テレビ、財界の肩入れはフジテレビですね。そしてその「危険性?」にいち早く気がついたのが故大宅壮一氏でしょう。
この番組は、当時ドラマの・、報道の、といわれたTBSの制作だし、ドラマの萩元氏、村木氏に特化した作りになっているけれど、報道、スポーツ・社会教養・どの面でもその将来を考えればどこのラジオ局(人材派遣はラジオ局が担っていたから)も「ダメ人間」を出したとは考えられない・・
投稿: J.I | 2008年5月19日 (月) 04:38
J.Iさん、はじめまして。
コメントありがとうございます。おっしゃるような側面もありながら、番組の前半でも触れられていたように、現場ではそうしたことがあったのも事実のようです。財界はその可能性に気づいていたからこそ、投資したわけで、いい人材もテレビに出したでしょうから、どちらかというと表現屋独特の自意識がつくる空気なのかもしれません。もちろん「軽蔑」というのは私の言葉なので、それは言い過ぎかもしれませんが。
もちろん私は、テレビが「軽蔑」されていたとは言ったものの、だからテレビが駄目と言いたい訳ではなく、今のテレビの興隆はそうしたエリートではない人たちの創意工夫とご努力があってのことだと思いますし、新しい分野はそういう情熱でつくられると私は思っています。
そう言えば、私がいる広告も、昔は広告取りなんて言われたり、新聞も聞屋とか言われたりもしました。そうした環境の中で培われた黎明期の情熱を今の私たちがどう引き継いだらいいのかを考えた、黎明期を知らないある広告屋のつぶやきだとご理解いただければ幸いです。
これに懲りず、また機会がありましたら、J.Iさんから見たテレビ業界などを教えていただければ幸いです。今後ともよろしくお願いします。
投稿: mb101bold | 2008年5月19日 (月) 11:32
mb101boldさん、こんにちわんわんわわん(^^)
ちょっと話の流れははずすかもですが、昔私はテレビを「環境」のように捉えていたように思います。でも、高校生のときあるひふと、テレビって娯楽機械なんだよね。メディアってこわいな。と思ったものです。
どうしてそう思ったかというと、父親世代がテレビをなんとなく馬鹿にしていたから。テレビなんて高が娯楽。新聞やラジオのほうがえらい。みたいな。いまでも、アナウンサーの質なんかはラジオのほうが高いですよね。ラジオの実況中継とかテレビの人は無理だと思う。もうそんなニーズもあまりないのだろうけど。
新しく出てきたものをちょっと下に見るというのはありそうです。今のネットもクズとか言われ続けているしね。
ちょっと蛇足だけど、いまはラジオのコマーシャルがいがいと面白いんですよ。(^^)ちゃんとオチがあって、うならせるのもたまにあるように思います。
投稿: ggg123 | 2008年5月19日 (月) 17:08
ggg123さん、どーもどーも(^^)
まあ新しいものは、過剰に期待されるか、ちょっと下に見られるかどっちかですものね。そんな私も少し前までは、ネットはよくわかんないものとして考えないようにしてたし。
ラジオCMは面白いよぉ。私がよくラジオのプレゼンで使うのは、ラジオは巨大なセットも組み放題で、宇宙ロケだってやり放題。だって、ここは宇宙、みたいなこと言えばいいからね。視覚の制限によって逆に表現が自由になっているんでよね。
私がつくったものでは、某空調メーカーで、空気を音にしてみました、というCM。涼し気な空気は風鈴の音、じめじめした空気は雨の音。で、心地いい空気は、というところで、いびきの音がぐーぐー。で、今夜もいい空気でおやすみなさい、っていうオチ。
FMで夜に流れるCMでしたが、このいびき、私のいびきなんですね。声優さんにもチャレンジしてもらいましたが、なんとなくものたりなく、「違うんですよね。こんな感じ」とやってみたら、声優さんに「それ、いいんじゃないですか」なんてことに。
こんなこと書いていたら、ラジオCMがつくりたくなってきました。最近、減ってるんですよね。ネットは増えてるんですが。これも時代かな。
投稿: mb101bold | 2008年5月19日 (月) 18:18
>このいびき、私のいびきなんですね。
うをを。聞いてみたかったぁ~(^0^)
ラジヲCMは文章コミュと似てるかなっと思います。ネットでラジオCM募集とかやってないの?
投稿: ggg123 | 2008年5月19日 (月) 19:07
CWもほんの20年くらい前までは、「TVCMは邪道、新聞広告こそ王道」って発言してましたよね。団塊世代のおじさんたちが。
投稿: | 2008年5月19日 (月) 20:53
>ggg123さん
ラジオCM大賞というのは広告批評が主催してますね。ネットでは募集してないですねえ。ラジオCMもそうだけど、ラジオ番組も文章コミュと似てるかも。ネタ文化だし、匿名文化だし。それに、優秀な人はハガキ職人って呼ばれたり。ハガキ職人出身の広告マンや放送作家は多いみたいよ。
>たぶんCWさん
そう言ってましたね。でもそう言うおじさんって、随分邪道がお好きだったような気が。私はそんな発言を聞きながら、もっと素直になったらいいのになあ、なんて思ってました。今流行の(?)、右から左に聞き流す〜って感じで。
投稿: mb101bold | 2008年5月19日 (月) 23:07