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2008年6月 2日 (月)

高齢者が3ヶ月以上入院できにくくなっているって知っていましたか。

 たぶん、高齢者の入院患者を持つ人なら常識かもしれませんが、私自身が得た知識を整理する意味でも、同じ状況にある人の参考のためにも、書いてみたいと思います。(ちなみに、このエントリは2008年6月2日時点のものです。)

 高齢者が3ヶ月以上入院できにくくなっている理由は、3ヶ月を過ぎると病院に支払われる入院医療報酬が減る制度にあります。3ヶ月を境にして、入院の保険点数が極端に下がる制度になっているのです。これは、高齢者の長期入院をさせている医療機関へのペナルティを意図しています。で、転院を薦められるというわけです。もちろん例外(後ほど触れます)は定められていますが、ほとんどの一般病棟の高齢入院患者は3ヶ月を過ぎると病院側の医療報酬が減ります。病院側の経営が成り立たなくなります。

 建前としては、病院側の経営の問題を理由として退院もしくは転院させることはできませんが、病院の存続という社会性を持った課題がありますから、退院もしくは転院を薦めるということが実際は多いようです。そしてまた、病院側も、転院による問題を防ぐために、他の病院と提携していて、3ヶ月を超える長期入院が必要な患者のために、現状で出来る限りの体制をつくっているようです。

 また、患者側も通算で3ヶ月を超える入院がある場合、患者側の医療負担が若干増えます。これを補足しておくと、患者側の自費負担が増えるだけで、病院側の収入増にはなりません。これをまとめると、現行の制度は、3ヶ月以上の入院では、病院が儲からない仕組みをつくると同時に、患者の負担を増やすことで一般病棟での高齢者の長期入院を抑制していく、という制度なんですね。

 療養型医療の場合、こうした制度はこれまでずっと行われていたそうで、それを一般病棟・急性期病院に適応したとのことですが、この一般病棟・急性期病院というのは、高齢者の場合、高度医療を行う病棟・病院を指すことが多いのが見逃せない点です。そのため、3ヶ月規定における例外が以下のように示されています。

・別に定める重症の障害者、神経難病等の患者
・入院基本料の重症者等療養環境特別加算を算定している患者
・悪性腫瘍に対する重篤な副作用のある治療を受けている患者
・観血的動脈庄測定を受けている患者
・複雑なリハビリテーションを受けている患者
・ドレーン法若しくは胸腔又は腹腔の洗浄を受けている患者
・頻回の喀痰吸引を受けている患者
・人工呼吸器を使用している患者
・人工透析を受けている患者
・全身麻酔等を用いる手術を受けた患者

 しかし、高齢者の場合、こういうこと以外にも長期入院が必要なことがあるのは容易に想像できます。現実に上記以外の高度医療はたくさんあります。そうしたケースに当てはまる高齢者の患者を持つ家族は、3ヶ月後のことを考えて、早期に転院先を考えておく必要がありますし、3ヶ月後に、環境の変化によって患者がとまどうことや、医師や医療スタッフとの信頼関係を一度ゼロにして新たにはじめなければいけないことを、あらかじめ覚悟しておく必要があります。

 まだ、この件に関しては、知識があやふやなので、安易に自分の意見を書いていくことは、今のところ控えようとは思っていますが、どうもこの制度は、今後、例外規定以外の例外を多く生み出して、様々な問題を起こしてしまうような気がします。長い目で見れば、こんな、医療機関にも患者にも自衛を迫るような制度がうまくいくはずはないとは思いますがが、今のところ、現行の制度を知った上で行動せざるを得ません。参考になさってください。

 ○2008年6月10日追記:今年の10月より「後期高齢者(長寿)医療制度に伴い診療報酬が改定され、十月から一部の重度障害者が特例対象から外され減額される。」とのことです。これは、事実上、高齢の重度障害者を引き受ける医療機関をなくすことに他ならず、医療費抑制のためとはいえ、本当に発想がグロテスクだと思います。自体はますます悪い方向へ進んでいるようです。

 中日新聞:混乱する後期高齢者医療制度 長期入院の報酬減額拡大(2008年5月9日の記事)

 ○2008年7月14日追記:後期高齢者医療制度(75歳以上の方が健保を離脱して新たにこの医療制度のもとで医療を受けるしくみ)とのからみで分かりにくかったので、追記します。ここで言う一般病棟への入院90日規定は70歳以上の方が対象で、90日を一日でも超えると、保険点数が包括払い方式になり、どれだけ高度な医療を使っても請求できなくなります。本来は、その受け皿が介護保険なのですが、医療を必要している方(介護認定が高い人は、比例して医療が必要になりがち)は、介護保険では不十分で、介護で十分という方は、介護認定が低く設定されてしまい十分な介護を受けられないというジレンマが生じます。(今、私が直面している問題は、この問題です。このことは、またあらためて書きます。)

 参考:医療制度改革の残したもの——「重症高齢者」への地域福祉実践は可能か●天田城介 (2004年10月に書かれたものです)

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医療」カテゴリの記事

コメント

 これは後期高齢者医療保険制度の創設?にともなって出てきた・というか、医療費削減の目的で、いわゆる「社会的」入院を減らそうと厚労省が考えだした制度・で対象となっている「療養病棟」に入院している患者のうち社会的入院」と判定?された患者は介護保険制度へ・という事なのですが、一方介護保険制度の方も福祉介護予算削減・・なのでそう簡単には受け入れられない・ということが問題になっているわけなのでしょう。元をたどれば小泉元首相の福祉予算削減・にたどりつきます。で、いま論議になっているのが‥結局は増税・やり玉に上がっているのが消費税です。
 ま、その前に医療、高齢者介護など福祉関連の状況は改善すべき問題点は多々あるけれど、それにしても日本の
福祉関係予算は少なすぎるように思えます。

投稿: J.I | 2008年6月 2日 (月) 02:39

コメント、ありがとうございます。
少し補足をしておきます。療養病棟に入院している高齢者を社会的入院と看做して、それを介護保険制度へ移行させるだけでなく、その発想を急性期(軽症、重症含めた普通の病気)の高齢患者にも適応してしまったということで、じつはこの問題は、より根が深いものです。
要するに、国は、高齢者の理由がある長期入院に対して、医療機関、患者に疑いの目を向けているということで、わかりやすく言えば、その長期入院って必要ないでしょ、病院も患者も嘘付いてるでしょ、その嘘に貴重な保険料は使えないからね、ということなんですね。
例えば、高齢者が風邪を引いて、そのあいだにもいろいろ病気にかかって、熱が出続けている。で、どうしても3ヶ月以上入院しなきゃいけない。そういう患者さんにも、あなたが3ヶ月以上入院しているのは、病院か患者自身が嘘付いてるでしょ。早く退院しなさい。我々の保険料をあなたにさく余裕なんかないんですよ、ということです。
なんか書いていて、いやになるほど、その制度の設計思想はグロテスクだと思います。もし抜本的な改革が増税か消費税しかないのであれば、私はそれもしかたがないと思っていますが、その前に、そういうグロテスクな発想だけは、どうにかしてほしい、と切に願います。そして、朝日新聞なんかの医療問題の報道の仕方も、それにシンクロしているように思います。どういうことなんだろうと思いますが。
J.Iさんがおっしゃるように、日本の福祉関係予算は少なすぎるのも、国のその発想のひとつの現れなんでしょうね。この問題を解決するのは、時間がかかるかもしれません。

投稿: mb101bold | 2008年6月 2日 (月) 09:28

・・姑が入院して3ヶ月に、いやもっと・・・になります。 あ~やっぱりね、って感じです。 食べられなくなり衰弱して脱水をおこしかけていました。で、いつものかかりつけ医より、ケアマネさんを通じて入院施設のある個人医へ。 点滴ー回復ー点滴ー鼻チューブ栄養ー肺炎ー胃ろうチューブーむくみ、と経過しいます。 胃への処置の際、申し込みをしていた療養型病院から、話もあるのですが、本人の体調が安定せず、転院がのびています。先日は血圧も下がり、ハラハラさせられました。 先生からも「たぶんこのまま(息をひきとるまで)ここでお世話させていただくことになると思います。」と、その時点では言っていただきました。
 必要の無い医療はもちろん論外ですが、家族や介護される側・する側が安心できる環境が、切実に欲しいです。

投稿: Aうなぎ | 2008年6月 7日 (土) 07:48

ガン患者です。半年前から、入退院繰り返しています。昔なら、外泊のところを退院扱いに。荷物が大変ですよ。

保険の利く治療でも、高額の差額ベッド代や食事代が別など、あの手この手で保険が利かない費用を求められます。

無理に退院するので、退院した日に高熱、その日の内に、救急車にお世話になったこともあります。
若いときには、世代互助とかなんとかで、病院に行かないのに保険料を払ってきましたが、年をとると、この仕打ちに、憤りを感じます。

投稿: .. | 2008年6月 7日 (土) 09:52

Aうなぎさん、コメントありがとうございます。

ブログのコメント欄からではありますが、心よりお見舞い申し上げます。私の場合もそうですが、状態が安定するまで、他院への転院自体が難しくなる現実があります。

この制度は案外知られていません。心ない医師もいるかとは思うのですが、多くはやはり良心的な医師で、そういう医師と、私たち患者家族にあるていどの犠牲を覚悟で自衛をしいてしまう制度はやはり問題があると思います。

投稿: mb101bold | 2008年6月 7日 (土) 13:52

.. さん、コメントありがとうございます。

ご苦労、お察しします。そうですね。昔なら外泊扱いになるところが、退院扱いになるのは、もしかすると、この制度のことがあるのかもしれません。どうか、いい環境で治療に専念できることを願っています。

いま、これからの医療費の問題をどうするのかが論議されています。きちんとした医療が受けられること、制度のために、患者や病院が妙な犠牲や自衛を強いられないことを第一にして、このブログでも微力ながら考えていきたいと思います。

投稿: mb101bold | 2008年6月 7日 (土) 14:08

初めまして。昨年2月に祖母が倒れ、それからずっと容態が安定せずずっと入院していたのですが、
5月中頃から奇跡的に回復し、自力でベッド横の簡易トイレで用が足せるくらいまでになりました。
(それでも、それ以上のことは全く出来ずで、
寝たきりが長かったため脚は萎えていて立つことも難しかったんですが)
すると、病院側から「元気になったしこれ以上ここで面倒を見るのは難しい」という話をされ、
市内の他の病院への転院を薦められました。
急な転院の話に祖母は戸惑い、周囲の「大丈夫だよ」という声にもとても不安そうでした。
そして6月1日に祖母は転院し、転院先でリハビリを始めたのですが……
その僅か一週間後、変わり果てた姿で元の病院に戻って来ました。
原因は、転院先の病院で無理に自力で車椅子を押して移動することを強要されたため、
心臓に負担がかかってしまった所為です。
(祖母は心臓病で、ペースメーカーが入っていました)
心臓が悪い患者、しかも数ヶ月寝たきり生活だった90歳の老人にいきなり車椅子を自力で押させるなんて正気の沙汰ではありません。
ケースワーカーにもありえないと家族で訴えましたが、
取り合ってもらえず、泣き寝入りするしかありませんでした。
そのまま祖母は2週間後に静かに息を引き取りました。
転院先の病院は家から遠く、気軽に様子を見に行くことが難しかったのですが、
それでもどうして足を運ばなかったのかと後悔でいっぱいです。
そして、そのまま元の病院に残っていられたなら、
祖母は辛い目にも合わずもう少し生きられたのではないかと、1年経つ今でも悔しさでいっぱいになります……。

ニュースサイトからたまたまこのブログを訪れ、たまらなくなってコメントさせて頂きました。

投稿: ntk | 2008年6月 8日 (日) 03:23

ntkさん、コメントありがとうございます。

私も高齢の母が、私が住む東京から遠く離れた大阪で入院しておりますので、頻繁には会いにいくことができず、身につまされます。何と申してよいのか、言葉が見つかりません。

転院をするときのお祖母様の不安なお気持ちを考えると、この制度は本当にこのままでいいのだろうかという強い気持ちがこみ上げてきます。

現状では、私もあと2ヶ月と少しで、母の転院を考えなければならず、心配でたまりません。この制度は、そのデメリットの大きさのわりに、あまり知られていない制度であると思います。一刻も早く、なんとかしなければと思います。

投稿: mb101bold | 2008年6月 8日 (日) 03:59

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