「中央フリーウェイ」と郊外の感性
ユーミンが歌って、ハイファイセットがカバーした曲ですが、1976年発表とのこと。ユーミンこと松任谷由実さんが荒井由美さんだった頃の作品です。もう30年以上前になるんですね。「中央フリーウェイ」(参照)の中にこんな歌詞が出てきます。
中央フリーウェイ
右に見える競馬場
左はビール工場
この道はまるで滑走路
夜空に続く
私は学生時代に、その真下に住んでいました。東京都府中市本町。JR武蔵野線・南武線の府中本町駅のすぐ近く。4畳半トイレ共同の安アパートでした。右に見える競馬場は、東京競馬場。左のビール工場は、サントリー府中工場ですね。まるで滑走路のように夜空に続く中央自動車道の下で、そんなおしゃれな雰囲気とは無縁の生活を送っていました。近くのイトーヨーカドーの駐車場でバイトしてたなあ。
そう言えば、ユーミンは確か府中の呉服屋さんの娘さんでしたよね(追記:府中というのは間違いで八王子の荒井呉服店だそうです。をたくな講師さん、ご指摘ありがとうございました)。府中は、大国魂神社から続くケヤキ並木が見事で、緑が多く住みやすい街でした。私は八王子の大学に通っていましたが、大学にいかない日は東京農工大でよく牛を眺めていました。
ユーミンは、「海を見ていた午後」にある山手のドルフィン(参照)もそうですが、実際の何でもないお店や土地をおしゃれに変えてしまうのがうまいですよね。私は大阪出身なので、大阪だと東名は名神に当たるし、ということは、中央道は中国縦貫に相当するので、「中央フリーウェイ」は「中国フリーウェイ」になるのか、でも、市内から入るとすると、当然、阪神高速を使うから、「阪神フリーウェイ」かも、でもどちらにしても歌にならんなあ、なんて考えていました。暇だったしね。
関西で、こういう土地が出てくる歌って何かあったかな、なんて考えて思いつくのは、サウストゥサウスの「憧れの北新地」だったり、「梅田から難波まで」だったり、大塚まさじさんの「天王寺思い出通り」だったり、おしゃれとは無縁の歌ばかり。まあ、聴いている曲が偏ってますので、もしかすると関西にもおしゃれなご当地ソングもあるかもしれませんが。
小便臭い
プラットフォームの
下に道がある昼間息を殺した
あの路地裏には
夕べの男と女の
黒い秘密があるロマンを持った男が
泣いてるよ
この街で
大塚まさじさんの「天王寺思い出通り」の出だしの歌詞です。うーん、なんだろ、このリアリズム。ロマンを持った男は、もう泣くしかないですね。このへんに、東京と大阪の感覚の違いがありそうです。
天王寺は、東京で言えば上野のような場所で、かつての中心でした。上野が北から東京へやってくる人たちのターミナルだったように、天王寺は南から大阪にやってくる人たちのターミナルでした。今は、その役割を東京駅が担っているように、大阪駅が担っています。
あまりテーマを決めずに、寝る前のなぐさみ的に文章を綴っているので、いろんなところに話題が行ってしまいますが、書いているうちに、ひとつ気づいたことがありました。
ユーミンの感性というのは、東京の中心部の感性ではなくて、東京の郊外の感性なんだろうな、ということです。その付かず離れずの微妙なさじ加減が、土地のリアリズムに飲み込まれない、あの独特の感覚を作り出しているのでしょうね。土地、あるいは日常生活のリアリズムに浸食されない自意識は、内向化しますよね。身体から切り離された自意識というか。
オフコース時代の小田和正さんの書く世界も、そんな身体から切り離された自意識の感覚があるような気がします。小田さんも東京の郊外なんですよね。なんとなく思い出すのですが、20年くらい前の所沢とか新所沢とかの、実体のないおしゃれ感は、なんとなくその感覚に似ているような気がしました。
単に西武百貨店があり、商店街があるだけだけど、内面としてのおしゃれ感が妙にあって、少し歩くと、もう狭山の茶畑で、しかも、住んでいる人に、その土地のリアルな所属感が欠如しているような。今は、そうでもないかもしれませんが、あの頃は、なんとなく浮世離れした感じがありました。私は、あの頃も、そんな感覚になじめませんでした。私が大阪中心部の街っ子だからなのでしょうか。
なんとなく、そんなことを考えましたが、まあこのへんのテーマは、じっくり考えることにするとして、今日のところはこんな感じで。雨が降ったり、暑かったり、いろいろ不安定ですが、みなさまお風邪などひかないように。ではでは。
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コメント
mb101boldさん、こにちわこにちわ(^^)
確か、ぼーるどさんの通っていらした大学は「地球防衛軍」とか言われていたような気が。駅を降りてから、キャンパスにたどり着くまでの道に「毒蛇にちゅうい」とか看板があったりして。熊がでるとかいう(そんなわきゃない)うわさも・・・今はどうなんでしょうか。
それはそうと、ユーミンってバブル以降六本木とか青山っぽいイメージがあったけど、それもよく考えるとびみょーに郊外からでてきた女の子目線がつまりにちじょーというより憧れみたいなそういうのが立ち位置だったのかもですね。
初期の頃は少女の世界っていうか、高校生くらいの女の子目線だったのが、バブルの頃女子大生からOLさんにまで守備範囲を広げて、さらに結婚適齢期(30前後)までカバーして今に至る感じであってるかな?
私は少女の世界目線のころのユーミンが結構好きかなですね。結構大人の恋みたいな曲もあるんだけど、それが映画のスクリーンのむこうみたいなのが、少女っぽいんですよね。
投稿: ggg123 | 2008年6月11日 (水) 11:58
ggg123さん、こんにちはっす(^^)
いまでは「地球防衛軍」は多摩モノレール直通になったみたいですよ。ますます、地球防衛軍感に磨きをかけているようです。卒業してから行ったことないけど。
後半のユーミンは、マーケティングが入りますからねえ。でも、今に至って第一線なのはすごいですよね。荒井由美時代では「ひこうき雲」が好きです。ちょっとテーマの選び方はずるいですけど、ああいう重いテーマを選んでしまって、それでもってあんな美しい曲がかけてしまうところは、いい意味で少女なんでしょうね。
なんかYouTubeの紹介ばかりですけど、ここで聴けます。いい曲ですね。こういう感性は、男性にはなかなかないと思います。オフコースの小田さんが嫉妬してました。
http://jp.youtube.com/watch?v=Z9IfTYcRGoI
投稿: mb101bold | 2008年6月11日 (水) 12:25
えっと、ユーミンは八王子出身ですね。
いまでも荒井呉服店は盛業中です。
都内で遊んだ後、松任谷の旦那の運転する
オープンのスポーツカーなんかで、家まで
送って貰う情景ですから、田舎娘ってのは
正解ですね。
で、中央道がまだ首都高に繋がる前の曲で
すから、調布から歌が始まるんですよね。
別の歌詞にも、海に行くのに「相模線
に乗って」と言うフレーズがあります。
これも、東京都内で生まれ育った目で見ると
「あー、田舎の子が一生懸命なんだな」な
んて感慨がもてます。
ユーミンは青春なんだけど、彼女はまだ
バリバリに現役で歌ってるから、過去じゃ
ないんだよな、ちょっと悔しい感じもします。
投稿: をたくな講師 | 2008年6月11日 (水) 12:50
をたくな講師さん、こんにちは。
そうですか、八王子ですか。そういえば、そんな記憶が。ご指摘ありがとうございました。追記しておきますね。調布基地のくだり、そういう時代背景があったんですね。知りませんでした。
ユーミンも、小田さんも、財津さんも、みんな現役ですね。たいしたもんだなあ、と思います。
投稿: mb101bold | 2008年6月11日 (水) 13:15