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2008年6月15日 (日)

では後期高齢者医療制度のもとで我々は何をすればいいでしょうか。

 前回のエントリ「後期高齢者医療制度がどんな制度なのかを知っていますか。」の続きです。あのエントリで、いま新聞やテレビでよく言われる後期高齢者医療制度がどんなものかはだいたいわかっていただいたかと思います。私も書くことで整理されて、いろいろなことが明確になりました。

 まず最初に、タイトルにある、何をすればいいのか、という意味からです。ブログというものは多分に雰囲気で読まれるものでもあると思うので、あらかじめ言っておきますが、ある種の政治運動を意図するものではありません。私は、これだけブログがネットに漂っているにもかかわらず、医療を受ける側の経験についての文章がまだまだ少ないということを残念に思っていますし、検索してたどり着いた数少ない経験談や情報サイトのおかげでずいぶん救われたこともあり、そのお返しに、とこのエントリを書いています。

 私は、こういうエントリに対しては、今現在この問題で困っている人が検索でたどり着くシチュエーションを想定していますので、そういう人が今現在、どういう心構えでいることがいいのかを書きたいと思っています。但し、私は専門家ではなく、政治活動を行っているプロ市民でもなく、ただの市民というか生活者にすぎませんし、私自身、ちょっと切実に試行錯誤しているので、その備忘録であるという前提でお読みいただければ幸いです。

 私自身の考えは、これだけ世代構成が変わり、目の前に国民皆保険の危機がある以上、どこかの層が負担増になってしまうのはしかたがないと思っています。それに事実を見てみると、今のところそれほど大きな差ではないし、お金にからむことなので、今後の社会のバランスで是正もされてくるでしょう。そういう意味では、現在の後期高齢者医療制度の負担配分についてはさしたる関心はありません。

 私がこだわるのは、やはり、後期高齢者医療制度も含めた一連の医療費削減政策に見え隠れする思想です。今、どうしたらいいのかと思っている方は、そんな思想はどうでもいいと思われるかもしれませんが、そこを見落とすと駄目だと思います。

 今、その政策に見え隠れする思想とは、今まで好き勝手に医療費を浪費してきた高齢者とその家族に、なるだけ医療費を使わせないようにする、といった思想です。その思想が前提としていることは、ある意味で事実でもありました。社会的入院(さしたる医学的根拠がなく患者家族側の都合で行われる入院)は、その患者負担の少なさから、頻繁に行われてきました。患者家族に都合がいいだけでなく、医療機関にも安定的な収入が得られるという意味で、都合が良かったからです。

 そして、そういう悪しき状況を是正するために、高齢者入院90日規定の一般病棟への拡大(「高齢者が3ヶ月以上入院できにくくなるって知っていましたか。」をご参照ください)や、今回の後期高齢者医療制度が生まれてきたということです。この政府側の本当の意図、つまり思想は、あらゆる制度に盛り込まれています。90日規定については、患者ではなく医療機関への保険点数の大幅な削減という部分や、適用疾患の拡大、後期高齢者医療制度について言えば、医療費負担の様々な施策よりむしろ、責任主体のわかりにくい広域連合による制度の運営です。

 そうした思想が根幹にあり、後期高齢者医療制度が運営されていくとき、どうしようもなく医療サービスに対して過剰に抑制的になります。高齢者に対する手厚い医療は、現状の制度下では、医療機関側に経営的なメリットがなく、むしろ、経営を困難になるデメリットばかりで、しかも、国ならずも新聞などの報道機関までもが、患者とその家族に、過剰な医療サービスを受けているのではないかとの疑いの目を向けている時代ですから。

 私が問題視しているのは、社会的入院でも、安易な医療サービスの利用でもない、今までは普通に受けられた医療サービスが受けにくくなってしまうという状況です。それは、すでに発生しつつあります。緊急性があるにも関わらず、緊急性がないと判断されてしまったり、長期入院が必要にもかかわらず入院が打ち切られたりする、そんな状況です。

 性善説に過ぎるかもしれませんが、医療従事者は、基本的には患者を救うために最善を尽くすというミッションを持ちながら働いておられると思います。しかし、制度が、そのミッションを否定してきている以上、そうした善意が曇るのは当たり前の話です。私は会社員だから、その感じがよくわかります。どれだけ素晴らしい人でも曇ってきます。

 そういう状況で大切なのは、状況を知ること、早い段階からセカンドプランを考えていくこと、そして、出来る限りの情報を医療機関に提供することです。私は、自分を一般の市民だと考えています。市民の定義は、国や社会の状況に依存せざるを得ない人であると思っています。そして、そうした状況で試行錯誤するしかないのであれば、その中で、最善の選択をすることが我々ができる唯一のことです。

 自分に言い聞かせるように書いているのですが、特にセカンドプランを早い段階で考えることは大切だと思います。入院されているのであれば、90日というのは長いようで、あっと言う間です。次の入院先は、入院当初から確認しておいたほうがいいと思います。ケースワーカーさんとの相談も早期に行うべきだと思います。そのときには、出来る限り最悪の状況を頭に描いて相談することだと思います。

 それは、精神的にはけっこうきついけれど、そうしなければ、そうなったときに最善の選択ができません。これからは、どこの病院も長期入院が必要な高齢者の患者を受け入れたくないという状況になると思います。最悪のことを考えてください。最悪のことを考えて策を練ってください。よくなったら利用しなければいい。リスクはそれだけですから。この最悪のことを考えて策を練る、よくなったら利用しなければいいというのは、私の父が、ケースワーカーさんに言われた言葉です。

 なんとなく急ごしらえで情報を整理してみてわかったこと。それは、後期高齢者医療制度については、費用負担についての混乱はあるものの、政府の言う通り、今までと同じ医療が受けられるだろうし、世間で言われるほどの悪い制度ではない気がします。

 しかし、この制度の背後にある思想による状況の変化と、長期入院の90日規制の拡大は心配です。こちらは、様々な症状の例外規定に入らない重症患者の問題が、これから数多く出てくるのではないかと思っています。認知症と一般疾病の複合や、複数の一般疾病の複合など、判断しにくいグレーな状況も出てくると思います。この制度が改善されるまでは、しばらくは患者家族の自衛です。

 そして、これは甘いんじゃないか、と言われるかもしれませんし、反論もあるでしょうが、きっと医療機関も自衛の時だと思います。きっと、現行の制度化で懸命に最善の策を模索していると信じたい。医療とはそうした思想に貫かれた職業であると思いたい。今、医療機関と、患者とその家族は反目すべきではない。互いの状況を理解しながら、一緒になって、最善の策を探していく時。私は、そう思っています。

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