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2008年7月19日 (土)

広告代理店って、何を代理しているのだろう。(3)

 新聞に始まり、ラジオ、テレビといったメディアに積極的にかかわってきた日本の広告代理店は、その論理的帰結として、一業種一社制は採用しづらく、むしろ、特定業種に強いという構造を持ち、媒体コミッションを主たる収入源としてきました。いわゆる手数料ビジネスというビジネスモデルです。

 一業種一社制を取らないことで起こる問題は、これまでは、思たる制作の舞台が企業宣伝部、制作会社、そして、フリークリエイターであったことで、あまり顕在化することはありませんでした。またここで重要なのは、それぞれの制作者は、企業と直接やりとりをしていました。つまり、戦略、企画、制作のプロセスが、広告代理店内部で重複しにくかったことを意味します。

 これが、おおよそ1980年代までの現状だったのではないかと考えます。また、日本経済の成長がその問題を隠していたのかもしれません。今までの展開については、()と()をご参照ください。

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広告代理店って、何を代理しているのだろう。(3)

■ 広告代理店クリエイティブの時代

 1990年代の終わり頃、私は、とある広告制作会社のコピーライターとして、とある百貨店の新聞広告を担当していました。営業担当は大手代理店。大手代理店の営業担当と、制作会社の制作(CD/AD/C)というチーム編成です。業界で営直(営業直)と呼ばれる形態です。

 当時、その百貨店では、媒体ごとに担当代理店を振り分けていました。朝日、読売、毎日、産経は代理店A、日経新聞が代理店B。私は、その代理店Bのチームに所属していました。宣伝部の担当の方とも仲良くしていただいて、深夜、商品撮影の合間の時間におしゃべりをしていたとき、その宣伝部の方が言った言葉が、今も印象に残っています。

 「これからは、代理店の時代だからね。広告は、代理店のものになるから、本気で広告をやりたかったら、あなたも代理店に行ったほうがいいよ。」

 例外は数多くあるものの、世の中の形勢としては、その人の言ったとおりになりました。世の中は、広告代理店が媒体、戦略、企画、表現のすべてを担うようになりました。フルサービスというやつです。私は、とある外資系広告代理店に所属するようになりました。そんな時代の変化の中で、外資系を中心に「ブランド」が叫ばれるようになり、ここではじめて媒体依存で一業種一社をとれない日本の広告代理店の問題が顕在化していきます。

■ 日本の広告代理店が代理してきたもの

 こうして見てくると、一業種一社、メディアの分離、コミッション制からフィー制への移行という、グローバルスタンダードを旗印にしたお題目が、それほど単純なものではないことに気付きます。

 日本の広告代理店が代理してきたもの。それは、良質な広告媒体づくりを含めた、いわば広告環境の提供だったのではないでしょうか。それは、味方を変えれば、日本に特有の優れたシステムであったような気がします。私は、外資系広告代理店なので、どちらかと言えばグローバルスタンダードの側に位置するのですが。

 外資系広告代理店が、日本市場で苦戦しているのも、こうした根深い理由がある気がします。また、私の職業である制作について言えば、現在、代理店の時代から、欧米のクリエイティブエージェンシー、あるいはブティックの潮流に呼応するように、クリエイティブエージェンシー時代が来たかに見えました。

 しかし、欧米と決定的に違うのは、大手代理店から独立したクリエイティブエージェンシーの主たる仕入れ先が、古巣の大手代理店であることです。これは、欧米ではそうではありません。むしろ、大手代理店からの受注は独立の失敗を意味します。けれどもそれは、日本の後進性というよりも、むしろ、日本の広告代理店が代理する広告の意味の違いに起因しているように思います。もちろん、その村感というか、閉鎖性は困ったもんだとは思うけれど。

 欧米型のブランドプランニングとメディアバイイングの分離だとか、一業種一社だとか、そういう欧米のスタイルが、これまで先進的だと言われてきました。しかし、その欧米の広告業界のスタイルが、一気にオールドスタイルに見えてくる場所がひとつあります。

 それは、Googleを広告代理店、あるいは広告会社と見る場所です。それは、今、私たちが立っている場所のような気がします。その場所から見えるのは、媒体開発こそが広告代理の広告そのものであるという考え方です。それは、日本の広告代理店が先取りしてやってきたことなのではないか。そんなふうに私には思えるのです。

■Googleのビジネスモデルと日本の広告代理店

 Googleの広告事業を見ていると、あっ、そうかと気付かされることがあります。それは、構造を取り出してみると、電通をはじめとする日本の広告代理店がやってきたことと同じなのではないか、ということです。大きな代理店だけの話ではなく、アニメコンテンツをつくってきた、音楽コンテンツをつくってきた、そんな大小様々な広告代理店の行動の構造と同じではないか、ということです。

 もちろん、媒体と広告システムまで自社で開発してきて、独占的に使い、卸してたりしているGoogleと、媒体社と共同で、もしくはその業務の一部を代行する形で開発してきた日本の広告代理店では、違いがあります。けれども、Googleという企業が考える広告業の方法論と、日本の広告代理店がやってきた方法論は似ているような気がするのです。

■欧米は先進的?日本は後進的?

 欧米=先進的、日本=後進的。こういう単純なものの見方は、そろそろやめたほうがいいのかもしれません。その見方では、先進的になれない理由を、理想はそうだけど現実はそうじゃないし、とする二枚舌的な解決にしかならない気がします。そうではなく、先進、後進という先入観を排してものごとを見ていかなければ、なにか大切なものを見落としてしまう気がします。これは自分の反省として、そう思います。新しいビジネスモデルは、そこからは見えてこない気がします。

 日本でも、博報堂DYグループをはじめとして、メディアとブランドマネジメントを分離する動きが出て来ています。しかしながら、きっと、それはメディアエッジのような、媒体がすでにインフラとしてあることを前提とし、そのメディアプランニングフィー(調査、シミュレーション、戦略構築)で稼ぐという形態で進化することはないような気がします。もちろん、それはそれとして進化するでしょうが、きっと、その目指すものの本筋は、媒体、つまり環境の開発なのでしょう。そうなれば、それが自社媒体でなければ、マージンか、コミッション以外にないような気がします。

 この先、欧米の広告業界を含めて、広告業界はどうなっていくのか。ここ5年くらいは、いろいろと混乱と葛藤があるだろうと思います。また、私自身、その環境の中で生きる職業人として、どういう行動を取るのだろうか。それを、私は、マス広告の終焉とウェブの台頭、グローバルスタンダードという軸だけでなく、いろいろな角度から考えていきたいと思います。
 

広告代理店って、何を代理しているのだろう。(1)
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ちょうど1年くらい前に、会社のレクリエーションの場でたまたま居合わせた新卒のエンジニアくんと雑談していて、彼は僕の所属している営業部門の仕事に興味を持ってくれたようだっ... [続きを読む]

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