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2008年7月 3日 (木)

原稿用紙から遠く離れて

 そう言えば、長い間、原稿用紙というものを使ってないですね。これも、まあ当然と言えば当然ですけど、原稿用紙ではなく、ワープロソフトで書いています。マイクロソフトのWordです。昔は、エルゴソフトのEG-WORDや、クラリスワークスも使っていたことがありましたが、時代の波には抗しがたく、と言うより、ワープロソフトにそれほどのこだわりもなく、流されるままにWordを使っているという感じです。

 この仕事を始めた頃は、2Bで0.9mmのシャープペンシルと会社指定の原稿用紙。広告会社の原稿用紙は、単純に升目が切ってあるだけのシンプルなもので、一字分が市販の原稿用紙より大きめのものが多いです。たいがいが200字詰めですね。

 その升目いっぱいに大きく文字を書きます。書体で言うと、ゴナとか新ゴシックみたいな感じです。そうすると、字の汚い人でもなんとか見られる字になりますし、丁寧に書くようになるので、写植屋さんが間違いにくいんです。キャッチコピーは、平太の水性インクのペンを使うことが多かったですね。見た目に勢いが出るんですよね。

 昔は、ワープロで言葉を書くと、言葉が荒れると言われました。ワープロ病みたいな用語もあって、要するに変換、変換、変換で漢字が多くなるんですね。出来上がってプリントアウトしたボディコピーをひと目見て、なんとなく黒の色が濃いと、駄目、漢字多い、やり直し、なんてことがよくありました。

 このところは、日本語ソフトも格段に進化して、そういうワープロ病もなくなってきました。私としては、書体に組まれたときのイメージがリアルタイムでわかるワープロソフトは、ありがたいことだなあ、と思っています。推敲がしやすいんですよね。昔は、写植に出して、あっ、違う、でもお金かかるし、このままにしとくか、みたいなこともありましたから。

 柄谷行人さんが、昔、おもしろいことを書いていました。ワードプロセッサが出始めた頃ですね。その頃、柄谷さんは、ワードプロセッサの編集機能や保存機能をしきりに褒めていました。ワードプロセッサという技術によって、新しい日本語の世界が生まれる、といったことをことあるごとに書かれていました。

 原稿用紙に手書き、というのは不条理だと思わざるをえない。あえていえば、日本の近代文学は「原稿用紙」とともにあったのである。「原稿用紙」は、私に身動きできないような窒息感を与えるだけだ。どこかの文士のように原稿用紙に関する好みなどまったくない。一つ一つのマス目を埋めていくことの作業はどこか根本的におかしい、と思う人はいないだろうか。
批評とポストモダン」柄谷行人

 そう言えば、柄谷さんの友人でもあった中上健次さんは、縦に罫が引かれているだけの集計用紙に、万年筆で小さな文字をちまちまと書いていました(参照)。もともと「原稿用紙」というのは、出版というシステムのために生まれたものなのかもしれません。文字数を割り出す、とか、版下に起こすための指示を書き込むとか。そのテクノロジーは、書き手ではなく、出版する人の方を向いていたんでしょうね。

 一方のワープロソフトで言われることは、縦書き横書きの問題がありますね。ブログなんかは、組まれるときはほぼ横書き。最近は縦書きブログもあるようですが(参照)、スクロールの操作性がいまいちで、見た目はともかく読み手としては、まだちょっと不便な気がします。Wordなんかだと、縦書きで書くのは簡単で、ボタンひとつですぐに縦書きモードになります。今、試しに縦書きモードで書いているのですが、文体の違いは出ているのでしょうか。読み直してみても、私の読む限りでは出ていないような気がしますが、みなさんはどう感じられるでしょうか。

 ワープロソフトは、ただ単に書くだけなら、実はフリーソフトで代替できるんですよね。テキストエディタでも、ソフトによっては、ある程度の文字装飾はできてしまいますし。マイクロソフトのWordは、その気になれば、かなり書籍に近いレイアウトまでできてしまいますが、私はしたことがないですね。その必要性があるものは、PowerPointで作ってしまいます。PowerPointはよくできたソフトだと思いますが、あえて言えば、1字1字の文字詰めができないところが不満かな。とくに大きな文字で表示するタイトルなどは「、」の後を詰めたくなることが多いです。

 影とか透明とか立体とか、そういうのはもういいから、日本語のカーニング機能を実装してくれたらなあ、と思ったりします。できれば自動カーニングではなく手動の。でも、そういう要望は多いでしょうから、きっと、これは技術的に難しいのでしょうね。

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