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2008年7月22日 (火)

外資系広告代理店の真実

 とまあ大げさなタイトルを付けましたが、外資系の本体、つまり、海の向こうの広告代理店の動向などを自分の知る限りで書いてみたいと思います。なんか最近、こういう自分の小さな知識みたいなことをエントリにまとめるのがマイブーム。って、言葉づかいがちと古いですね。この、ちと、と言うのもマイブーム。って、しつこいですね。すみません。本題、始めます。

 欧米の広告代理店の動向、こっちに入ってくるのはいい話ばっかり。クリエイティブエージェンシーの台頭だとか、あっちはアイデアで戦っているだとか。まあ、それも真実ではあります。ほんと、かつてのDDBなんかも、Saatch & Saatchなんかも、立ち上げて、あっという間にメガエージェンシー。最近では、Wieden+Kennedyだとか、Fallonだとか、BBHだとか。

 アイデア一発で大きなクライアントをつかんで、一世風靡。でも、時代の寵児になって、メガエージェンシーになって、何年かたって、組織の肥大化のつけが回って来て、ちょっと低迷。もうあそこは駄目だよなんて言われながらも、復活して、巨大代理店として安定することもあれば、どこかに吸収されて、その持ち株会社内で存続するか、名前がなくなってしまう代理店もあったり。そんなふうに、欧米の広告業界はめまぐるしく動いています。日本よりずっと自由な感じではあるとは言えますね。

 まあ、そんな広告代理店の表向きの動向は、AdvertigngAgeなんかを見ていればわかることだし、あまりこのブログに期待されていることでもないと思いますので、違うこと。欧米の広告代理店といえば、仕事がスマートで、アイデアで勝負してて、みたいなイメージありませんか。それはそうではあるんですが、これは二極化しているかも。

 私は、ときどき、本社では別の海外の代理店がやっている外資系企業の仕事を請け負うことがあるのですが、ブランドマニュアルがすごく分厚くて、広告のつくり方やデザインの仕方まで厳しく規定されていたりします。最近は、この傾向がますます強まっています。

 これ、どういう意味かといえば、クライアントを規則で縛り付けて、流出を防ぐということなんですよね。それと、新規獲得時のフィーをあげる目的も。マニュアル一式含む、みたいな。それはもう、マニュアルを読み込むと、新しい写真やら、そんな自由は一切認めない、というふうになってて、でも、そういう企業に限って、日本では本国の代理店を使いたがらないし、そのブランド管理もずぶずぶだし、日本市場用のフォトストックも持っていなかったりします。

 要は、マインドでブランドを共有化できないから、マニュアルで縛るんですね。それで安心するんです。代理店にとっては、このマニュアルがある限り、我が社に仕事が落ちるみたいなね。でも、そんなマニュアルひとつがつなぐ関係は長続きするはずもなく、すぐに担当広告代理店を決めるピッチ(競合プレ)が行われます。で、新しく決まった代理店は、そのマニュアル全否定。ブランド大刷新。多くの外資系企業が、日本でなかなかブランドをつくれないのは、そんなことにも起因しています。

 逆に、ブランドが強力な外資系企業は、ひとつの代理店と長く付き合っているところが多いですね。こういうパートナー関係が築ける形になれば、欧米の広告代理店はすごくいい仕事します。

 クリエイティブで生き残るタイプの代理店は、創業者の影響が薄くなる頃がひとつの契機で、そこから、たいがいは創業者の方法論の理論化がはじまり、そのメソッドが複雑化し、間に独自のブランド評価方法やリサーチが入ってきて、その理論の神格化みたいなものが始まって、現実に不都合が出ようと、絶対に我々が正しい、みたいなことになっていきます。そのプロセスは、まるでかつてのマルクス主義みたいです。

 それうちの会社じゃん、っていう外資系広告代理店に勤めている人も多いのではないでしょうか。私は、外資系広告代理店10年超え選手ですが、ここ最近は、そういう縛りがきつくなってきました。昔は、もっと緩かったような気がします。って、まだ10年ちょっとしか経ってないけど。海の向こうの広告代理店も、今、曲がり角に来ているのでしょうね。エージェンシー・オブ・ザ・イヤーが「消費者」という時代ですからね。

 日本の外資系広告代理店のビジネスモデルは、ひと昔前は、ワールドワイドブランドの日本展開によって食いぶちを稼いで、経営を安定的にして、その余力で国内クライアントに外資ならではの尖った広告を提供する、というものでした。私も、そんな尖ったクリエイティブに憧れて、この道に入った口ですが、それはどんどん崩れつつあります。

 アイデアというお題目も、なんだか息苦しく機能し始めているし、なんかね、アイデアがひとつの型を持ち始めているんですよね。世界を目にすれば、日本でマス広告という型が飽きられてきているように、アーカイブ(ドイツの広告専門誌。ここに掲載されることが世界のクリエーターの誇りみたいな雑誌です)に載っているような広告も、世界の消費者にあきられはじめているような気がします。その動きは、きっと世界同時な気がします。最近、海の向こうのクリエーターと話す機会がめっきり減りましたから、ほんとのところは何とも言えませんが。

 ま、曲がり角ってことで、なんとか次の展開を考えないとな、と思う今日この頃です。もう、マス広告とかウェブ広告とか、そういう狭い感じじゃなくて、コミュニケーションという大きなところで考えないといけないんだろうな、という気はしています。

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コメント

突っ込みたいのは、エントリ全体というより始めの入りです。
面白いですよね。なんかいい感じです。
私もそういう風になりたい(書きたい)と思う感じです。

エントリというかブログに関してですが、
就職活動を始める後輩にこのブログを紹介しています。(広告業界を目指す後輩も多いです)これからも、みなさんにとって、私の後輩のような広告業界を目指す人たちにとって
面白い、素敵なエントリを待ってます。

投稿: ちほ | 2008年7月22日 (火) 23:11

ちほさん、どもです。
どんどん後輩に紹介しちゃってくださいませませ。役に立つかどうかは保証できないけどね。
ちほさんもどんどん就職活動のノウハウを伝えていってくださいませませ。期待していますよ。

投稿: mb101bold | 2008年7月23日 (水) 00:05

初めまして。
国内の広告代理店勤務の松子です。

広告の行く末、行き着くところに苦悩してたところ、このブログに。

なかなかこういう事を書く人がいないので、面白いです、また来ます( ^ω^ )

投稿: 松子 | 2013年5月20日 (月) 00:31

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