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2008年7月 5日 (土)

吉本隆明と紙おむつ

 吉本隆明さんと糸井重里さんの対談本「悪人正機」を読み直しているのですが、またまた驚きがありました。糸井さんは、「ほんとのことを言う人の時間」というタイトルでまえがきを書いています。まさに糸井さんの言う通り、吉本さんは「ほんとのことを言う人」だなあ、と思います。

 吉本さんは、この本の中で、この社会の管理機構が容易にあ破れないものであれば、その管理機構というものをどのようにましなものにしていくかを語っています。その答えが、管理機構においては「管理されている者の利益を第一にする」というもの。なるほど、答えとしては相当なもんだなとは思いますが、これだけでは普通の思想家でも言えることかもしれません。

 けれども、吉本さんが普通の人と違うところは、その答えに至ったきっかけとして語られるもののすごさ。それは、かつての新左翼運動の同伴者としての体験でもなく、吉本さんが生涯こだわり続けるスターリニズムの歴史的検証でもありません。引用します。

 ぼくも手術で寝たきりのときにつけていたのですが、老人用の紙おむつで、子どものともだちが探して買ってきてくれたものに「これは、ほんとうに寝たきりの老人患者のためを考えて作られたもの商品だな」と思ったものがありました。
 他のものを試したけれど、かならず漏れるし、どこがで、寝ている患者側が面倒な動きをしないといけない紙おむつばかりだったのです。
 だけど、そのひと種類の紙おむつだけは、起きなくていいし、それで尿がもれることはないんです。それはほんとうによくできているんですよ。要するに、こういうことだと思いました。

「悪人正機」話し手 吉本隆明・聞き手 糸井重里(新潮文庫) - 文庫のための最終章「病院からもどってきて」P234〜P235(2004年)

 ね、いいでしょ。この発言ひとつで、この人は信じられる。というか、私は信じる。吉本さんは、思想家としてロックなんです。パンクなんです。こんなこと言う人、他にいません。遠藤ミチロウさんが心酔するのも納得できます。ま、こういうことを言うから、かつて浅田彰さんたちに「吉本さんは、JALパックでもいいから海外に行ったほうがいい」と嫌みを言われてしまうんですけどね。

 でも、思想って、どんなに高尚なものでも、根は、生活の実感から出てくるものだと思うしね。生活の実感から乖離した思想って、どれだけ美しくても、緻密でも、根本の部分が間違っていると思うし。その思想は、人を不幸にするし。紙おむつから社会のあり方を語る吉本さん、私は好きです。

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