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2008年8月 3日 (日)

問題は「後期高齢者医療制度」ではなくて

■イメージの戦いにしてはいけない

 自分の体験もあって、いろいろ医療制度について考えてきたけど、どうも釈然としないことがひとつ。後期高齢者医療制度のこと。この制度のあらましは、こう。

1)国民健康保険、被用者保険がこのままでは維持できない
2)主要因は高齢者の医療費増大(約33兆円のうち高齢者分が約11兆円)
3)だから高齢者の医療制度は独立させて別建ての制度にし、財政を健全化
4)医療費は5割公費、4割医療保険、1割後期高齢者(現役並み所得者は3割)
5)医療に頼っていた軽度の疾患・障害を介護保険制度に移行させる

 要するに、約3分の1の後期高齢者(75歳以上と65歳以上の高度障害者)を別建てにし財政を健全化させること自体に制度設計として問題はありません。ここでまたヒステリックな言葉狩りが出て来て、「後期高齢者」という言葉がバッシングを受けました。確かにデリカシーがない言葉ではありますが、高齢者を65歳以上とする認識のもとで75歳以上を後期と呼ぶことについては、さしたる問題があるようには思えません。

 話は少し逸れますが、障害者にしても、一部で「障がい者」と呼ぶ動きがありますが、害を、社会に害があるとの誤解を与えるからひらがなにするという発想が、よくわかりません。この場合、障害物競走の障害であって、視力障害、聴力障害など、本人にとって生活の障害になる疾患を持つ者という意味であることは自明であって、障害を障がいとすることは、障害者が生活で支障があるという厳しい現実を隠してしまいます。

 後期高齢者医療制度の通称を「長寿医療制度」としましたが、この手の固有のことやものを示す言葉について、後付けの思想を盛り込むべきではないと私は考えます。「長寿医療制度」や「コンビニ受診」、「姥捨て山制度」など、この医療制度の問題をイメージの戦いにしてはいけないと思います。

■診療報酬制度の問題

 いま問題になっている高齢者医療の問題は、後期高齢者医療制度とは別の制度からでてきています。診療報酬制度の改定です。後期高齢者が一般病棟に入院して90日を超えると、極端に医療報酬が減る(医療機関がつけられる保険点数が減る)というものです。これは、健康保険制度下の65歳以上の高齢者もほぼ同様の減点措置がとられています。

 これが私は高齢者医療の最大の問題だと思っています。要するに、「病院側が90日を超えて入院させても、患者側が90日以上入院しても、制度的にはまったく問題はありませんよ。でも、病院の経営は苦しくなるようにしましたから。赤字覚悟なら、別に入院をさせてもいいし、国は別に入院させるなって言いません。あとは病院がどうするかよく考えてね。」ということなんですね。医療費の抑制を、国は手を汚さずに、現場の医師にやらせようとしているんですね。

 すごいことを考えるものだな、と思います。かつての高齢者医療制度で、社会的入院(本来自宅ケアできる高齢者が気軽に入院すること。いやな言葉です。)でさんざん医療費を使われてきたことからくる大衆への悪意が、きっとその設計思想の根元にはあるんでしょうね。そうでなきゃ、こんな巧妙なやり方、思いつかないです。運用上不可能になるものは、堂々と国が禁止すればいいんです。

■どこに問題があるのか

 私の母は、現在も入院していますが、90日はあっという間でした。入院当初から3ヶ月が限度だと言われ、最後のほうの転院促進のプレッシャーは相当なものでした。でも、それもしかたがないな、とも思うんですね。病院側を責める気にはなりませんでした。

 問題なのは、後期高齢者医療制度にあるのではなく、90日ルールをはじめとする、後期高齢者医療費削減政策に付随する個別の運用制度にあります。

 例えば、90日ルールで言えば、転院すれば、また保険点数が戻るのならば、病院と患者にプレッシャーをかけるという目的以外には、その転院は本来必要がないはず。その次に待ち構える180日ルールにおいては、本来的意味では入院の長期化は、疾患の長期化であるはずで、それが社会的入院に悪用された過去はあったとしても、医療制度の設計思想としては、長期化によって、負担が劇的に増加したり、入院そのものが不可能になったりするその制度のありかたは、根本的な欠陥ではないか。

 私は、この問題が消費税導入時のような騒動に引き下げられて語られる感じが、どうも釈然としないのです。高齢者の負担増とか、負担減とか、確かにそこはわかりやすい部分ではありますし、反応もしやすいですが、問題の本質はそこではありません。仮に、後期高齢者医療制度を廃止しても、問題はまったく変わりません。

■大きな問題になる前に

 この問題を報道しているのが、私の知る限りNNNドキュメントと中日新聞(東京新聞)くらいで、多くは、低所得者ほど医療負担増の悪制度である、みたいなキャンペーンでした。なんだかなあ、いまだブルジョア対プロレタリアートみたいな構図で考えるんだなあ。その構図を批判する側も、旧来の構図を批判すればよしみたいな気楽さがあるし。騒いでいるけど、そんなに問題ないでしょ、みたいな。

 なんか愚痴っぽくなってしまいましたが、この問題は、ブログを通して、多くの医師のあいだでは切実な問題として理解されているのがわかったのが、なによりの救いです。ブログがなければ、なかなかこういう問題はわからなかった、ということを考えると、時代が複雑になってきたのでしょうね。とにかく、後期高齢者医療制度の騒動が終わっても、この問題は終わりません。大きな問題が続出する前に、なんとか解決できないものか、と思います。

■追記(8月4日):

 フジテレビの「サキヨミ」というニュースショーでも、後期高齢者医療制度の医療費年金天引きを問題にしていました。和歌山毒入りカレーの問題に隠れて、知らないあいだに成立したという文脈で語られていました。医療費天引きってわかりやすいし、問題ではないとは言わないけど、問題はそこじゃない気がします。

 天引きが駄目なら他の徴収方法を考えればいいだけだし、徴収自体が駄目だという話であれば、正解は高齢者の負担ゼロを選ぶしかなくなり、つまりは問題を見なかったことにしたいだけになってしまいます。財源は、どんな方法であろうと、どちらにしろ考えないといけないというのが私の立場です。

 ほんと、何度も言いたくなるけど、今、医療で問題になっているのは、そこじゃないです。例えば脳卒中の後遺症で長期入院が必要な高齢者が、90日を過ぎるとどこも受け入れなくなることや、受け入れるとしたら、病院側の良心、つまり無償のサービスに頼ることになります。当然、医療の訴訟も増えるでしょう。

 つまり、医療費削減の方法として、そういう医療機関と患者の代理戦争で解決する方法ををやめよ、ということです。

■追記2(8月4日):

 読売新聞より。後期高齢者の90日ルール(後期高齢者特定入院基本料)が見直しになる公算が高まってきました。後期高齢者医療制度とともに除外対象から外れた脳卒中、認知症について「退院に向けリハビリに努力している患者について、医師が退院の見込みがあるなどと判断した場合は、入院91日目以降もそれ以前と同額の診療報酬を医療機関に払うように運用を見直す」とのことです。とりあえず、朗報。一歩前進。

 後期高齢者、「入院90日超」の診療報酬見直し - YOMIURI ONLINE

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