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2008年9月21日 (日)

この機会に、その発想を改めてみてはどうだろう。

 総選挙を控えて、医療制度関連で、このところ世間が騒がしくなっています。後期高齢者医療制度を中核とする医療制度改革では、様々な意見があるようです。若干ステレオタイプな感じでばっさり切っていますが、大きくわけると、この2つに分かれるでしょう。

1)老人いじめだ。医療費天引きとか、この不景気に医療費負担増はもうごめんだ。いままでがんばって国を支えて来たのに、年をとったら区別されて、負担させられて、なけなしの年金から天引きされるし、約束が違うじゃないか。いつもいつも、政府与党は。まるで姥捨て山だ。

2)今のままでは近い将来医療制度は破綻するよね。それに現役世代に負担させてばかりじゃ働く気なくなるでしょ。そういう意味では今必要だし、いつかはやらないといけない制度かも。現実、高齢者の負担も減るケースもあるわけだし。大衆っていつもヒステリックなんだよね。

 で、テレビとか新聞で報道されるのは、この2つを行ったり来たりの言説だったりします。一方で患者の経済的困窮をドキュメントで見せるかと思えば、コンビニ医療や社会的入院という品のない言葉で大衆をくさす。政治の世界では、野党の言い分は概ね1)で、政府・与党の本音は概ね2)で、選挙が近くなると、がぜん1)の言い分が大きくなって来て、政府与党の舛添さんがフライング気味にテレビでこんなことを言うようになってきました。

 後期高齢者医療制度は75歳以上の高齢者を若い世代から切り離し独自の保障をする制度。だが年金からの保険料天引きなどが感情的な批判を呼んでいる。同相は新たに検討する医療制度は(1)年齢のみで対象者を区分しない(2)年金からの保険料天引きを強制しない(3)世代間の反目を助長しない仕組みを財源などで工夫する——という三原則に基づいて設計することを強調した。
厚労相「麻生政権で新制度」 後期高齢者医療 — NIKKEI NET

 ああ、わかりやすいな、と思います。でも、わかりやすすぎて、いやになります。みんな感情論。そこ、本質なんでしょうか。私にはそう思えません。年齢で区分とか、保険料天引とか、世代間の反目とか、説得でなんとかなるじゃないですか。年齢で区分しないとするとどう区分するのかはわからないし、お金は天引ではなくても、どうにかしてとらないといけないし、世代間の反目なんて、しょうがないじゃないですか。最後は、きっと消費税を念頭に置いていますよね。(私は個人的にはそれも手ではないか、と思っていますが、その経済への影響とか、不勉強でいまいちわかりません。)

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 医療費の増大の原因になっている高齢者の社会的入院を招いたのは、そもそもかつての地方自治体の老人医療費無料制度です。政府は、この社会的入院という大衆の行動をすごく嫌悪していて、この後期高齢者医療制度が始まる前から、医療から介護へ、療養病床は削減、長期入院は病院が赤字になるような手法で抑制、というカタチで大衆に対抗したように私には思えます。私は、この捻れた暗い情熱に支えられた抑制の方法が、後期高齢者医療制度を含めたすべての医療行政の根幹にあって、それがこの制度の最大の欠陥だと思っています。

 それが分かりやすく表現されているのは、入院90日を超えると保険点数が極端に下がる制度や、終末医療をやめるアドバイスをすることに対して新たに保険点数を与える制度などです。私の経験したことで言えば、母が入院して、どんどん悪くなって、入院が長期化し、入院当初より医療の助けが必要な状態にも関わらず転院要請されたり、その間に、行政の指導もあると思うのですが、自治体からの介護認定があり、当然いちばん重度の「要介護5」だったのですが、でも、このタイミングの介護認定というのは、ほとんど意味をなさないんですね。「要介護5」の状態は、介護ではなく医療が必要なんです。

 母は、状況が良くなったり悪くなったりが続いて、まだ入院していますが、希望的な観測で言えば、もし母がある程度元気になって退院できるようになり、介護でなんとか生活できるようになったとき、もう一度介護認定があるわけです。そのときは、きっと「要介護5」ではありません。介護ではなく医療が必要なときには介護認定が高く、介護が必要なときには介護認定が低い。介護が低いと介護が利用しにくい。そんな現実があるのです。

 精神疾患や認知症、脳梗塞の後遺症の高齢者患者を中心に、医療を受けられない人が続出しそうな気配があったのですが、やはりこの制度は後期高齢者については10月より、重度の認知症と脳梗塞の後遺症については凍結されるそうです。とりあえず、そのこと自体は評価はするけれども、この大本の考え方が変わらない限り、こうした問題は出続けるだろうと思います。

 こうした問題は、大きな犠牲が出てから反省しても遅いんですよね。人の人生は一度しかないから。財源がない。破綻する。どこかからお金を持ってこなければいけない。それを言うのは反発があるから、一番負担になっている患者さんにがまんしていただく。しかも、その患者さんは、口うるさくない患者さんなんですよね。そこそこ健康なら、文句は言えるけど、認知症や脳梗塞の後遺症では話せないですから。それはないだろう、と思う訳です。

 私は小児医療はあまり詳しくはないですが、医師不足や医師の過労で、小児医療が崩壊しそうな今、選挙が目的だとしか思えないタイミングで、小児の医療費を無料にする地方自治体が相次いでいます。何を考えているのだろうと思います。これで、小児医療を存続させるための地域住民の取り組みが水の泡になります。

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 舛添厚生労働相は「どんなに論理的にいい制度でも国民に支持されなければ長期に維持できない。政権も代わる時期でもあり、じっくり問題点を洗い出す」と言っています。本音は、論理的にいい制度という思いがありそうです。ならば、その良さを説得するのが本当は先なのではないかと思います。そして、その問題点は、年齢での区切りや、年金からの天引きでは本来はないはずです。これでは、後先を考えない、この小児科無料と同じです。

 口当たりのいい先送り案はいいから、とりあえず、医師の職業的倫理から医療を行いたいけれど、それをすると病院が赤字になり、その結果として、医療を受けるべき人が受けられないで路頭に迷ってしまう制度をつくれば、国民に負担を迫らずに結果的に医療費が抑制できるじゃない、という陰気な発想だけは、この機会に改めてみてはどうだろう、と私は思います。敵ながらうまく考えたと思うし、これを思いついた人は頭がいいんだろうなと感心するけれど、そんなやつと付き合いたいとは思いませんもの。

 だって、こういうことがある限り、後期高齢者医療制度が、高齢者に安心して医療を受けていただくための制度だと言っても、信じられませんもの。こんなやつらのために、大切な医療費を使えねえんだよ、という本音が透けて見えるじゃないですか。信じられないものにお金は出したくない、というのが人情です。逆に言えば、信じられるだけの根拠をきちんと示せば、しぶしぶだけどお金は出すとは思うんですよね。医療制度が疲弊しているのは、変えられない事実なのだし、医療が大切だというのは、みんなわかっているわけだから。

追記:

 麻生氏は21日、NHKや民放のテレビ番組で、同制度について「抜本的に見直すことが必要だ。国民に納得してもらえないという話だったら、さっさと(見直す)」と語った。見直しの柱として、〈1〉加入者を年齢で区分しない〈2〉年金からの保険料の天引きを強制しない〈3〉世代間の 対立を助長しない——の3点を挙げた。麻生氏は、次期衆院選の政権公約(マニフェスト)にも、同制度の見直しを盛り込む意向だ。

 同制度を巡っては、4月の導入直後から、「75歳以上の高齢者を切り捨てるつもりか」などの批判が出ていた。

後期高齢者医療「見直し」…麻生氏、政権合意に盛り込みへ(2008年9月22日03時02分  読売新聞)

 目先のわかりやすいところだけ先送り的に改革、というふうにならないようにしてほしいと思います。本当は90日ルールを代表とするような、隠れた部分をなんとかしてほしい。で、本来この問題が隠れてしまうのもおかしな話ですけど。でも、この話、現場のお医者さんも混乱するくらい複雑なんですよね。うまいこと考えたもんです。(参考:90日ルールへの特例措置-新小児科医のつぶやき)

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