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2008年11月26日 (水)

想像力資本主義

 昔、SANYO(三陽商会)の広告で「想像力資本主義」というコピーがありました。最近、なぜかそのコピーのことばかり考えてしまいます。たぶん、ウェブの分野で言えば、それはほんのわずかな世界だとは思うけど、なかばそういう想像力資本主義的な世界が実現されつつあって、それはきっと本来の資本主義の概念(おおまかに言えば、資本家が生産施設をつくり、つまり、生産能力を独占し、使用人=労働者が労働力を資本家に提供する、みたいなシステム)を覆すものなのだろうと思います。

 私がブログというメディアがすごいな、と思うのは、まさにそういう想像力資本主義的な部分で、ほんの少し前までは、個人が何かしらの情報発信をする時には、まあ書き物に限定して話せば、原稿をつくって、それをもとに写植を打って、版下をつくって、製版して、それを印刷して製本して、そのあと何かしらの流通に乗せないといけなかった。それが、いまやパソコン立ち上げて、原稿を書いて、ブログの管理画面から投稿ボタンを押すだけです。たったこれだけで、とりあえずは情報発信の体裁はつくれてしまいます。

 これ、考えてみるとすごいことですよね。私は、ずっと前からジャズピアニストのビルエバンスについて書いてみたい、つまり何かしら世の中に論を問うてみたいという思いがあって(最近書いてないけど今もあります)、その思いがこのブログをはじめた動機のひとつでもあるんですが、そのとき考えていたことは、やっぱり出版社に持ち込んだり、なんかの文芸賞に応募したり、そんなことはしないといけないなといったこと。それは、いまだにそれなりに意味はあるだろうけど、まあ、情報発信という意味では、それはブログでできてしまいます。

 パソコンにしたって、プロバイダにしたって、ブログツールにしたって、普通の勤め人が無理せず手にする価格になっていて、ちょっと前なら、こういうことを実現するためには、それこそ銀行に借金するほどのお金がいったわけですよね。もちろん、パソコンや、ブログみたいなものが持つ写植レイアウト機能は業者さんの力を借りるにしても、それでもかなりのお金がかかります。当たり前のように見えて、ほんの20年前は考えられない状況が、いまあります。

 もちろんこの状況がいつまでも続かないという考え方もあるし、それを実現している広告モデルもすこし曲がり角に来ているような気もしますが、それでも、20年前に戻ることはまずないでしょう。となってくると、これはもうやる気次第。SANYOの広告コピーの言葉を借りれば、想像力があるかどうかになるわけです。

 いまさら何をという感じでもあるけれど、このことは20年前の状況から今を見たとき、なんど驚いても驚ききれないほどの状況ではあると思うんですね。吉本隆明さんは、かつて同人誌、後に吉本さんの責任編集となる「試行」という雑誌を出版していました。心的現象論なんかは、この雑誌での連載ですし、けっこう吉本さんにとっては重要な表現の場でした。これ、きっと儲けはあまりなかったと思います。儲けではなく、自由に書く場所がほしいだけ。その条件を考えると、若き日の吉本さんなら、「試行」はきっとブログもしくはウェブサイトであったのだろうな、と思います。

 吉本さんが、かつての左翼が考えていたような人間の開放とか自由の獲得みたいなものは、戦後日本の資本主義が実現しているじゃないか、それは女子社員が、自分がモデルとして出ているファッション雑誌を読んで、おしゃれのことを考えるその光景が示しているだろ、みたいなことを吉本埴谷論争のときに言っていましたが、それは、こうして、人が寝ている時間にこんな文章を書き綴っている私の光景にも言えることなんだろうと思います。

 想像力資本主義は、これからの社会をどう変えていくのでしょうか。それは、単純に考えても、ひとつの作業に対してかかわる人は減っているわけで、きっといいことばかりではない気もしますが、もう後には戻れないでしょう。とにかく、いまそういう社会に生きていて、その方向性で、いやおうなく時代は動いていく。それは自覚しておいたほうがいいのだろうな、と思ってしまいました。

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