こういうのって、ある意味で広告の理想形だよなあ。
テレビにしたって、新聞にしたって、ウェブにしたって、所詮広告はおじゃま虫。コンテンツを中心に考えれば、広告なんてなかったほうがいいに決まっています。まあ民放なんかは、広告収入で成り立っているから、その猥雑さが民間のたくましさだったりするところはあるけれど、例えば映画館で映画を見ているときに、物語の途中でCMが入ったりすると興ざめですよね。
基本的には、私は広告をそんな「おじゃま虫」という立ち位置をベースに考えていて、だからこそ、せめて広告はおもしろくなくちゃいけないだとか、せめて何かの役に立つものでなければならないだとか思うわけで、広告というものがそれ自体で自立しているものであるとはあまり考えていません。私がお得意さんに対して、これじゃいくらなんでも悲しすぎます、と抵抗する論拠は、ここ。広告はおもしろくあらねばならない、ではなく、「おじゃま虫」たる広告はせめておもしろくないと失礼じゃないですか、という感じです。
おもしろい広告なんかつくっても誰も見ていないし、売り上げに寄与はしない、みたいな広告否定論を見かけたりしますが、その論とは私の考えは微妙に違います。おもしろいを美しい、かっこいいと言い換えてもいいんですが、そういうのは、必要。なぜなら、広告は「おじゃま虫」だから、そのくらいしないと受け入れられないし、つまりは効果を生み出さない、という考え方をしています。
ま、だから、なんとなく製品やブランドの素晴らしさをまっすぐに表現する広告は、ちょっと苦手ではあります。もちろん、自ら広告であることをカミングアウトしているような広告らしい広告や、その表現自体が見事な広告は、それ自体がおもしろを表現してしまっているので、いいちゃいいんですが、中途半端な広告は、ちょっと恥ずかしく思えるんですね。(ま、自分もそういうの作ってるかもですが。)
そんな中、これいいなあ、ある意味、広告の理想がたくさん入っているなあ、という広告が、これ。Perfumeの「Baby cruising Love/マカロニ」のテレビCMで、スペースシャワーTVで放映されたそうです。時報に合わせて、かしゆかさん、のっちさん、あ~ちゃんさんが一言添えて時間をお知らせするというもの。ダンスのタイミングにもあっていて、すごく気持いいですね。
「おなかがすいたら早弁。パフュームのあ~ちゃんが午前11時をお知らせします。」
「何が出るのかな?恋話(こいばな)!パフュームののっちが午後1時をお知らせします。」
「お昼寝の時間だけど、チャンネルはそのまま。パフュームのかしゆかが午後2時をお知らせします。」
という感じです。ちょっとユニクロの「UNIQLOCK」に企画が似ているとか、パフュームかわゆすとかを差し引いても、いい広告ですよね。そもそも、新譜のCMにしたって、新譜のCMは当たり前じゃん、という常識を取っ払ってよくよく考えれば、そもそもそんなに薦めたかったら15秒じゃなくて、楽曲全部聴かせたたらんかいな、といいう話だし、それでも広告したいのなら、これくらいの気の利かせ方というか、楽しませ方しないと広告としては駄目じゃん、みたいな理想の姿があるなあ、と思いました。
しかも、その楽しませ方が、パフュームの新譜の世界観とは違うところから来ているのがいいですよね。そのへんの楽しませ方の太っ腹加減がすごく好ましいです。余談ですが、この手の広告は、日本の外資系広告会社は苦手なんですよね。外資の場合は、アイデアは製品やブランドに強力に結び付けたがります。こういう楽しい企画は「おもしろいけどオフストラテジーだよねえ。」とか言われてしまいがち。でもまあ、そんな不粋な人は無視すればいいだけですけどね。
で、こういう広告は効果的だとも思うんですよね。データで確かめたわけではないけれど、こうしてYouTubeにアップされるくらい注目されているわけだし。なんとなく最近思うのは、広告をつくる人は、世の中の人はみんな広告が大嫌いだ、という前提でつくったほうがいいんじゃないかな、なんてこと。その中で、いかにして、広告を見てもらうのかを、なんかスパム的なベクトルではないところで追究したいな、と思っています。
それにしても、最近は広告のことばかり考えています、というか、今、余裕がないから広告のこと以外考えられないというか。ほんと師走とはよく言ったものです。てな感じで、本日はこんなところで。ではでは。
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コメント
こんにちは。はじめまして。大阪の新人プランナーです。
おじゃま虫たる広告は、おもしろくないといけない。
本当にその通りやと思います。
広告に携わるものとして、その辺りをこれからある程度こだわっていきたいものですね。
投稿: coro | 2008年12月 4日 (木) 10:10
ものですね。今後ともよろしくお願いします。
投稿: mb101bold | 2008年12月 4日 (木) 10:24
大学一年のjimです。
広告はおじゃま虫ですか・・・確かに最近周りにテレビCMの話とかするとそういった意見がでてくるんです。
でも僕はCMが好きなもんで、どうしてもそういう風には考えられないんです。
だからこの記事の内容は興味があります。
もしも自分がCMを作る立場に将来つけたのなら、その時は勿論CMを邪魔者扱いするひとのことも考えます当然。
だけどひとつの考え方として、CM好きな自分の立場はくずさないというか或いは自分がCM好きで作っていることを分かってもらいたいんです。
管理人さんにとったらおじゃま何だからせめて面白く、とのことですが自分の場合はお邪魔扱いされなくなるようにという基本目標があります。でもどっちも結局自分の精一杯でおもしろい広告を作る必要があるんですね。
ちなみに、僕はperfumeのファンです。新参者ですが、5月9日のライブにも行きます。実はこの記事で一番反応したのはそこかもしれません。
投稿: jim | 2009年5月 7日 (木) 16:11
>広告はおじゃま虫ですか・・・確かに最近周りにテレビCMの話とかするとそういった意見がでてくるんです。
そういう人を見入らせる、うならせる、あるいは、ふとしたときにフレーズを口ずさませるような広告をつくるのが、この商売の醍醐味ですよ。
ある意味ね、表現者としては、広告は好き好んで見てくれないからやりがいがあるんですね。
>5月9日のライブにも行きます。
それはそれは。いいですねえ。私もこの部分にビビッと反応しました。
投稿: mb101bold | 2009年5月 7日 (木) 21:28