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2009年1月25日 (日)

発泡酒のジレンマと呪縛

 ビールの味はよくわかりませんが、ビールの味を基準にすれば、発泡酒はあまり美味しいものではないと言えるでしょうね。明らかに味が薄いし。でも、価格が安い。うちの親父なんかは、昔はキリンビール(生じゃないやつ)一筋だったのですが、今では発泡酒ばっかり飲んでいて、それは価格が安いこともあるけれど、味が好き、とも言うんですよね。ワシの歳じゃ、ビールはくどい、みたいなことを言っています。サラッと飲みやすくていい、とも言います。

 たまにヱビスなんかの高級ビールを買って帰るけれど、一口飲んで、もうええは、あとはオマエが飲めや、みたいなことを言います。親父が発泡酒好きなのは、もはや安いからではないようです。

 漫画の「美味しんぼ」なんかでは、そんな状況を堕落っぽく描きますが、確かに、ビールというお酒の本質を追究しつづける人にとっては、いかにも嘆かわしい状況ではあるんでしょうね。とは言え、親父のような人が、発泡酒を味で支持するというのは事実でもあり、そのこと自体に、ある信条を持ってあれこれ言うのは、きっと違うんだろうなと思います。

 これをビール会社の視点で見ると、けっこう悩みが大きい部分でもあるのでしょう。日本の会社は節操がないというか、マーケット至上主義的な傾向が高いから、あらゆるターゲットに同じブランドで様々な商品を提供します。麦芽100%ビール、普通のビール、個性派ビール、発泡酒、そして、第3のビール。

 マーケティング的には、価格が下がれば下がるほど、大量生産・大量消費が必要になり、広告の必要性が高まる傾向にあって、必然的に発泡酒・第3のビールの広告をつくらなきゃならないことになります。で、ビール会社としては、ビールを基準とする限り、それは廉価版のビールという位置づけになるし、その限界の中で、味をどこまで高められるかが勝負になります。

 消費者のインサイトを「本当はビールが飲みたいけれど、お財布のこともあるから、安い発泡酒にしておこう」みたいに認識すると、メッセージは当然、「ビールに近いおいしさです。もしかするとビールと同じかもしれない。」となります。廉価商品ほど味や品質を訴求するのは、広告の常套手段でもありますし。

 で、「まるでビール」とか「ビールよりいい感じ」みたいなコミュニケーションをやるようになるわけですが、本業での本質的な部分に触れるようになると、短期的に消費者に支持されるとしても、それは確実に本業をゆっくりと蝕んでいくような気がします。自らの本質を自らが欺く、みたいな。ブランドを考えないといけないというのは、つまり、そういうことを考えないといけない、ということなのだろうな、と思います。

 POSが出来てから、ちょっとそういう長期的な視点でものを考えにくい売りの現場になってきて、流通を含めて、1日単位で結果が突きつけられる状況で、のんびり長期的視点で、みたいな悠長なことが言ってられなくなってきます。私は中堅広告会社なので、巨大マスプロダクトの経験は、そう多くはないけれど、それでもいくつかのマスプロダクトでは、そんないわゆる「棚落ち」の恐怖と毎日戦っていました。

 コミュニケーションのジレンマがまずあって、その一線を越えてしまったら、次に、そのコミュニケーションが呪縛になります。いくら否定しても、なかなか記憶から消えないのも広告の特徴のひとつなので、その呪縛は、5年ごとか、そのくらいのスパンで蝕んでしまうし、その立て直しはかなりの力技に頼ることになってしまいがち。

 そのあれこれには税制の問題もあるし、中身はすごく複雑なんでしょうが、コミュニケーションに限定すると、こういうことは、ちょっとした想像力で簡単に言えるとは思うんですね。でも、そうした厳しい状況の中で、そのことを明快に指摘するというのは、ブログで語るということとはまた別の話で、それはそれは勇気のいることであって、そういうことをきちんと出来る人が本当のプロだとも言えるわけで、プチそういうことは、私も現場でたまにやることがありますが、なんか大事なところが縮み上がる感覚というか、そんな感じです。怖いよお。ひとつ間違うと、出入り禁止だしねえ。

 最後に、多くの発泡酒の広告は、どこも「発泡酒には発泡酒のよいところがあるし」みたいな感じですね。サントリーの「金麦」の広告はいい感じで、うまくやっているなあ、とは思っています。ちなみに、うちの親父のお気に入りは「マグナムドライ」と「円熟」です。第3のビールは、ちょっと淡白すぎるとのこと。同じ発泡酒でも他の銘柄はまったく駄目で、そんな親父を見ていると、ほんと、人それぞれだなあと思います。

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コメント

もともとの経緯がどうであれ、
ビールと発泡酒を同じ次元で上下関係として捉えることは、
もうほとんどナンセンスでしょうね。
僕は学生なので、そう滅多にビールが買えないし、
そもそも発泡酒や第3のビールも結構好きだしで、
よく買いに行きます。
お気に入りはやはりMDと円熟、アクアブルーやストロング7も好きです。

人それぞれっていう表現を馴れ合いみたいだとして嫌う人もいますが、
そもそも嗜好品ですから、
やはり好みの違いは考慮せずにはいられないものではないでしょうか。

投稿: it | 2009年1月26日 (月) 18:52

ビールとかタバコとかは、一度気に入ったら一生それという感じで、ブランドチェンジが難しい商品でもありますしね。だからこそ、広告にも熱が入るんでしょうね。

投稿: mb101bold | 2009年1月26日 (月) 19:37

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