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2009年1月11日 (日)

「したたか」でいこうぜ。

 僕のブログは、ふだんは主に広告実務のあれこれを書くことが多いです。役立つ知識だったり、僕自身の広告についての考え方だったり。そんな記事は、これから広告業界で働こうと思っている人とか、広告業界で働く若い人が、ためになるなあ、なんて感じで読んでくれていることも多いかと思います。また、同じくらいのキャリアの人とか、もっとベテランの方なんかは、おまえの考え方は違う、なんて読み方もされているかもしれません。どんな読み方にせよ、いつも読んでくれて、ほんとうにありがとうございます。

 これから、広告業界はきっと今より規模がずっとずっと小さな業界になっていくと思います。少なくとも、ここしばらくは縮小傾向が続くはずです。僕が所属する会社だって、いつまであるかわかりません。大手も、当面、会社消滅はないにしても、人員削減は避けられないでしょう。もしかすると、今年の中頃あたりに大型合併があるかもしれません。みんな、生き残りに必死です。

 きっとこれからリストラがはじまります。ここまでの状況になったら、いよいよ弱い人が標的になります。弱い人とはどういう人か。それは、志なかばの若い人のことです。これからもっともっと勉強をして、いろいろな経験を積んで、一人前になろうとしている人のことです。この人たちが直面する災難の特徴は、その予兆がないことです。それは突然やってきます。

 ある程度のキャリアがあれば、それまでの間に、次第に自分に与えられる仕事が少なくなったり、責任が著しく小さい仕事ばかりが与えられたり、本人が自覚するかどうかはともかくとして、その予兆はあるものです。しかし、若い人にはそれがありません。チームに所属し、そのキャリアに応じた仕事をこなす日常を過ごしている限り、さしたる疎外感も持ち得ないでしょうし、チーム全体としてはうまく回っている状態なので、本人にとっては寝耳に水になってしまうのです。それは、僕がCDになって理解できたことです。

 僕は、デザイン会社から、広告制作会社を経て、外資系広告代理店へとキャリアを進めてきました。その間には、バブル崩壊と、外資系広告代理店ブームの沈滞化という2つの時期を経験しています。ちいさな広告制作会社、特に広告制作職は、クビが当たり前の世界です。また、外資系も同様です。制作職は、英語を武器にしている人も少なく、いわゆる外資渡り鳥な人も少ないと思いますし、大手ではない広告業界と外資系がクビ上等な世界だと知るのは、やはりある程度の経験が必要なので、若い人はどうしてよいのかわからない状態になってしまうと思います。

 たくさんの事例を今まで見てきました。悲惨な事例もあったし、そのリストラがきっかけに、長い目で見れば、それが、その人の人生にとっていい契機になって、その後の幸運をつかんだ事例もありました。そしてまた、その人が対象になったのは、若い人の場合、ある程度は偶然の要素が大きいことも多かったように思います。運が悪かったとしか言えない事例も多々ありました。つまり、誰でもよかったけれど、たまたまあなただった、ということです。

 はじめから一人前になれる人はいません。だから、一人前になる途中で、はい終わり、という状況に絶望を見てしまうかもしれません。あなたがあなたなりに一生懸命仕事に取り組んできた人であるならば、多くの人があなたに同情するでしょう。会社が悪い、経営は何を考えてるんだ、あなたより辞めさせたほうがいい人はいるじゃないか。あいつのほうが働いてないのに生き残るのは上司に媚を売っているからだ。

 あなたには、こういう同情や善意に感謝すると同時に、やるべきことがあります。それは、あなたが置かれている状況を正確に把握すること。箇条書きにして確認してみてください。その状況把握に感情を持ち込んではいけません。自分のことは甘く計算しがちです。でも、なるだけ感情を排除すべき。そして、同情や善意を取っ払った上で、あなたが信頼できると思う人に相談をすることです。その人は、あなたに対して批判的なことや厳しいことを言えれば言える人ほど、信頼できる人という基準で考えてください。大切なのは、前を向くとこです。前を向くことに、慰めは必要ありません。

 「したたか」でいてほしいのです。自分の未来に対して「したたか」でいてほしいのです。「こずるく」生き抜く才能がなかったあなただからこそ、「したたか」さが必要なのです。

 本当にやりたいことは何ですか。あなたが今やれることは何ですか。やりたいこととやれることのバランスはどうですか。冷徹に自分を見つめてください。生きていくことも重要です。縮小していく業界で、これからもきちんと楽しく食っていく自信がありますか。そこまで追いつめて考えられたら、可能性はかなり広がっているはずです。

 ここまで読んで、このブログを書いている僕、つまり、今日も明日も安穏と外資系広告代理店で働きつづけるお気楽なCDごときに私の気持ちはわからない、と思う人もいるかと思います。本質的には僕にはわからないのかもしれません。僕は、今まで、すべて自発的に会社を辞めてきましたし、そもそもその時の時代が今とはかなり違いました。今ほど厳しくはありませんでした。無茶な辞め方をしたこともありますし、それでもなんとかやってこれました。でも、今は状況が違います。

 このエントリを書く僕も、このエントリの未来の読み手のひとりです。もし僕がその状況に追い込まれたとき、このエントリを読み直そうと思っています。僕は、これからもこのブログで、縮小していくこの業界の希望を書いていきたいと思います。だからこそ、このエントリは、広告ブログのはしくれとして、今のこのタイミングで書かなければいけないエントリだと思って書きました。今の僕には、業界を根本的に変えていく力も、経営にコミットする力もありません。僕が今書けることは、自衛策しかありませんでした。

 最後に僕が今考えていること。この時代になって、僕は今、自分がやりたいことは広告業界でなくてもできるのかもしれないと考えるようになっています。でも、縮小していくこの広告業界で、まだ僕に価値がある限り、僕はこの業界にいようと思っています。広告が好きだし、この業界で生きていきていくこともできるだろうという自己認識があるから。でも、この業界がこの先、もっともっとつまらなくなるか、それとも僕をこの業界が必要としなくなるとき、いつでも違う場所で生きていくつもりでいます。そのための準備を始めています。

 僕の場合、本当にやりたいことは何かと考えたとき、それは、究極的には広告をつくることではなく、言葉を核にしたクリエイティブなのだろうと思うようになりました。僕は、その一点を大切ににしながら、これからはもっともっと「したたか」でありたいと思っています。

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コメント

コメントさせていただきます。
小さな広告代理店経営しております。
今回のブログ本当に身にしみる思いです。したたかに、というのは年始に私も社員に言い伝えたことです。本当に厳しい世の中ですが、頑張っていきたいと思います。
今後ともブログを楽しみにしています。

投稿: 三笠崇仁 | 2009年1月11日 (日) 15:11

三笠さん、こんにちは。
本当に厳しい世の中で、これはちょっとただ事ではないな、と感じています。お互い、したたかに頑張って、なんとか光を見いだしていきましょう。
今後ともよろしくお願いします。

投稿: mb101bold | 2009年1月11日 (日) 15:25

乱入者です。今年も楽しませていただきます。
元!同業者としてはとても懐かしくまた
参考になるお話です。
とにかく去年以上に注目することが多い
業界ですね。

投稿: 乱入者 | 2009年1月12日 (月) 16:31

いろいろ大変な1年になりそう。ま、しぶとくしたたかにやっていきます。今年もよろしくお願いします。

投稿: mb101bold | 2009年1月12日 (月) 21:47

コメントさせていただきます。
もう少しで一年を迎える新人です。
自分なりにどきっとするところもあり、かなりの緊張感を持って読めました。正直、周りの状況がどうなるかなんてことは予測はできませんが、現状の仕事を一つ一つ仕上げていきながら、ずるがしこく前を向いていたいと思います。

今度ともブログを楽しみにしています。

投稿: coro | 2009年1月13日 (火) 00:05

coroさん、こんばんわ。
まずは現状の仕事。それがいちばんです。ノウハウを学ぶには現場しかありませんし、そこでどれだけ学べるかが今後につながっていくと思いますし。
それに、すべてのものは地下茎でつながっていますから、深く深く掘り下げることも必要かも。浅く、だとその分野以外では通用しないノウハウになっちゃうんですよね。
お互い、がんばりましょう。したたかに、ね。

投稿: mb101bold | 2009年1月13日 (火) 00:38

はじめまして。
少し前から読ませてもらっていました。
去年から新卒でデザイナーになった者です。
毎回熟読しておりますが今回は新人には勇気と不安を同時にいただけるお話でした。
最近、仕事に流されて自分の現在の状況把握できなくなってきてます。客観的に再確認しなくてはとおもいました。
キャリアアップ、したたかに頑張りたいと思います。
今後も楽しみにしております。

投稿: chama | 2009年1月13日 (火) 11:08

chamaさん、こんにちは。
自分を客観的に見るもうひとつの目があればいいかもですが、自分を客観的に見るって、なかなか難しいんですよね。
今後ともよろしくです。

投稿: mb101bold | 2009年1月13日 (火) 12:01

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