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2009年2月 6日 (金)

言葉の速度について

 広告は見てもらえる、みたいな気持で作るなというのは、マス広告の危機だなんだといわれる前からよく言われることで、とあるクリエイターは、きれいなポスターをつくってきた後輩クリエーターに対して「キミ、この広告で人が振り向くと思う?例えばさ、白いポスターの真ん中にうんこがあるとするじゃない。それ、気持いいかどうかはともかく、見るよね。そのうんこのポスターに勝たないといけないのよ。」と言ったそうです。まあ、うんこのポスターは極論だとは思いますが、広告は、「そんなもの誰も見るかいな」みたいな気持でつくってちょうどいいんじゃないか、と思います。

 新聞広告でも、テレビCMでも、ポスターでも、ウェブバナーでも、広告である限り、まずは見てもらうことが大事。でもそれは第一段階クリア、みたいなことに過ぎなくて、そのあとの段階がいくつもあります。これだけ情報が多くなってきた今の世の中、人々の広告に対するスルー力はかなり上がってきています。ちょっとうっとおしいな、と思われるだけで、華麗にスルーされてしまうんですよね。

 なので、広告の言葉は、どうしても読みたくなるくらいの魅力、もしくは、言いたいことがストレートかつすぐに伝わる「速度」が求められます。魅力の部分は、まあ魅力的な言葉をつくりましょうってことだから、あまり語ることもないんですが、「速度」については、広告独特のものでもあるし、ここが文芸の言葉と広告の言葉の決定的な違いのような気もするので、ちょっと書いてみます。

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 たとえば、とあるキャンペーンが2月28日で終わるとして、そのことを「あ、終わってしまう、急がなきゃ」と思わせるコピー。次の2つのコピーのどちらをチョイスするべきか。

2月28日終了。

2月28日まで。

 この2つのコピーは、「速度」という観点からは明快な違いがあると私は思っています。特に調査をしたわけでも実験をしたわけでもありませんので、あくまで私は、ということですが。答えは、下の「2月28日まで。」です。

 理由は明快。「終了」が頭の中で音に変換されるときに「終了→しゅうりょう」という1プロセスが必要なことに対して、「まで」はそのまま見たままで音だからです。その余分の1プロセスで、人の感情における理解の「速度」は遅くなります。しかも、「まで」は音が2つに対して、「しゅうりょう」は「しゅ」を1つと数えると2倍の4つ、数えなければ3倍の6つあります。

 よく広告コピーでは「なるだけ漢字はひらけ(ひらがなで表記しろ)」と言われます。「下さい」は「ください」のほうがよく、「私達」は「私たち」のほうがよい、みたいなこと。これは、誰にでもやさしく表記するという部分もあるけれど、きっと速度の問題でもあるのでしょう。で、ここで「私」はひらきませんでした。これは、「私」という漢字は、ひらがなの「わたし」より速度が速いからです。たいがいの漢字はひらくほうが速度が速く、日常で頻出する簡単な漢字は、ひらがなより漢字のほうが速度が速いということなんですね。

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 広告コピーをつくる人。コピーライターという職業ですが、華やかな言葉をつくる職人(ってもう誰も思ってないかもですね)であるだけでなく、こういう「速度」みたいなものもねちっこく考える職業でもあります。最近、広告がやたら多様化してきて、広告のコピーはインパクトでしょ、みたいな感じになってきて、そういうのなら誰でも書けるみたいな空気がさみしいのですが、まあ、それでも自信をもってコピーライターと言える人たちは、こんなことも日頃から考えていることをちょっとお伝えした次第です。

 これからの世の中、コピーひとつの表現の良し悪しって、結構大切だと思うんですよね。クリエイティブって、販売促進の中では何気に「予算削減」の機能を果たすので。目的に対して100万円かかるところを、広告の表現が優れていると50万円で済むみたいなことはありますから。ビジュアルの良し悪しは予算の多い少ないに左右されがちだけど、コピーは基本はそれがありませんしね。

 1千万円かけてつくった豪華なポスターがB倍2連貼りであったときに、隣に4分の1の大きさのB1ポスターで、しかも白地にコピーだけの超低予算ポスターを貼って、その1千万円ポスターを圧倒する快感みたいなことを昔、仲畑貴志さんがおっしゃっていましたが、まあ、そんな感じですよね。特に物量作戦が取れない小さな会社なんかには、言葉の力って、すごく有効だと思います。そういう意味では、これからしばらくは言葉の時代が続くんじゃないかな、と思っています。

関連:継続は速度を上げる

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コメント

はじめまして。わたしもひらくのが好きです。エクストラメーションを使わずに驚かせるのも好きです。代理店時代の先輩の広告論を聞いているようで愉しい記事でした。
ちょうど「あってもなくてもいい仕事、でも愉しい仕事」なんて書いたばっかりで。トラックバックに不慣れなもので…アドレスを置いていきます。
http://onamomitei.blog.shinobi.jp/Entry/384/
広宣出身で営業畑が長いもので、予算削減、マストです(笑)いろんな意味で、お客さまの笑顔が見たいですね。そしてコンシューマーの嬉しい評価も、感じたい。

(ブログと紙の違いになかなか慣れません。困った困った。)

投稿: オナモミ | 2009年2月 7日 (土) 01:50

エクストラメーションもクエスチョンもやめたほうがいい、という人は多いですね。私は、なるだけ使わない、という感じでしょうか。

>(ブログと紙の違いになかなか慣れません。困った困った。)

そうですね。でもまあ、慣れてくるとそんなに違いがないかもですよ。今後ともよろしくお願いします。

投稿: mb101bold | 2009年2月 7日 (土) 02:09

>ビジュアルの良し悪しは予算の多い少ないに左右されがちだけど、コピーは基本はそれがありませんしね。

最近、本当にそう思います。言葉は映像に比べて、製作費が安いのです。インパクトは、同じ言語を使っている文化の中では、むしろ上かもしれないのに。
使わない手はありませんね。

投稿: denkihanabi | 2009年2月 7日 (土) 02:19

それに、言葉は指示性が強いですし。「りんご」という言葉は、ほぼりんごを表すみたいな。つまり、言葉はロスが少ないコミュニケーション手段。昨今は、ほんと使わない手はないという感じですね。
映像は、そこに「熟れた」とか「おいしそう」とかりんごではなく「地球である」とか「ほっぺ」であるとか、そんな言葉にするとものすごい情報量を内包してて、それは言葉にはなかなかできないことですね。
それは、コピーで言えば、書体とか位置とか色とかタイミングとか声とかになるんでしょうね。
ま、ともかく、がんばっていかないとですね。

投稿: mb101bold | 2009年2月 7日 (土) 03:03

最高にいい内容ですねー。旧職を思い出しました。すべからく、良いコピーライターはたがわず早い速度で伝わることを無意識か意識的にかやってましたね。
しかしweb企業こそ、コピーワークに注力しなきゃなと思うこのごろです。コピーワーク中心の媒体ですもんね。

投稿: ベラルーシ | 2009年2月 9日 (月) 21:20

>web企業こそ、コピーワークに注力しなきゃ

そうなんですよね。Web企業というかネットはわりとテキストの世界だったりしますし。AdWordsなんてコピー1本で勝負なわけだし。

投稿: mb101bold | 2009年2月 9日 (月) 23:21

ほんと、言葉は難しいです。
自分はプロデューサとして商品展開をメインにやってますが、例えば商品名も同じです。
自分は「読ませてはダメ」を基盤に置いています。コピーもしかり。
読ませるということは、「終了」の意味も含めて1プロセス余計にかかる。
ユーザは残酷なので、そういう「面倒」なことは拒否!!

投稿: 通りすがり | 2010年2月 9日 (火) 14:53

ほんと、ユーザーって残酷。特に広告が機能するソーシャルな場においては、ほんとドライでクールで残酷です。ネットのコミュニティなんかでは、こういう理論とは逆立的に動く理論で動いていて、速度だけではない部分もありますが。
今の広告コミュニケーションは複数の体系の場を行き来しなきゃならないから、余計に難しくなっていますね。

投稿: mb101bold | 2010年2月 9日 (火) 23:25

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» 「速度」という、コピーライターのノウハウ。 [三茶農園]
次の2つのコピーのどちらをチョイスするべきか。 2月28日終了。 2月28日まで。 この2つのコピーは、「速度」という観点からは明快な違いがある と私は思っています。特に調査をしたわけでも実験をしたわけでもありませんので、あくまで私は、ということですが。答えは、下... [続きを読む]

受信: 2009年2月 9日 (月) 01:52

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