「新聞折り込みチラシ」の行方
新聞を取らない人は増えてきましたが、新聞折り込みチラシは人気です。広告の話題というと、どうしても派手なマスメディアや新しいネットメディアでの広告になりますが、この新聞折り込みチラシという広告メディアは、この不況下でも効果が衰えてきたという話をあまり聞かない希有なメディアです。
広告メディアとして新聞折り込みチラシを分析してみると、その有用性がよくわかるかと思います。
ターゲットセグメントについては、新聞広告の場合、エリア広告の切り替え版を利用して地域セグメントはできることはできますが、その地域はどうしても広域になりますし、切り替えが細かくできる地域も、東京や大阪などの大都市に限られています。しかし、新聞折り込みチラシは、新聞販売店が広告配信の拠点になるので、かなり細かい地域の設定が可能です。だからこそ、スーパーマーケットが特売に利用するんですよね。
広告の信頼性については、新聞広告にはかなわないけれど(最近は落ちてきているように思いますが)、新聞に折り込まれるということで、新聞の信頼性に準じています。これは、日中にポスティングされる投げ込みチラシと比較するとよくわかるかもしれません。郵便受けにたまるチラシは捨てられがちですが、新聞折り込みは読むという人はよくいますよね。それは、文字通り新聞に折り込まれているという信頼性が影響しているのでしょう。
つまり、新聞折り込みチラシという広告メディアは、新聞宅配という制度がつくった、きわめて優良な地域広告メディアだと言えるのです。しかし、新聞をとらない人が増えてきて、新聞宅配は急速な勢いで減ってきています。つまり、それは新聞折り込みチラシという広告メディアを支える前提がなくなってきていることを意味していて、じつは、新聞で言えば、メディアの多様化で最近効果が落ちてきている本紙の広告よりも、まったく効果が落ちる気配のない新聞折り込みチラシの方が深刻度は上。
そんな中、ネットでチラシを検索して見られる「Town Market」というリクルートが運営するPCサイトができたり、様々な取り組みが行われています。ただ、これは新聞折り込みチラシの代替にはならないな、というのが私の印象。理由は、新聞折り込みチラシの本質は、テレビCMや新聞広告と同じ「受動性」にあると思っているから。
ネットで検索という方法では、どうしても見る人の能動性が問われてきます。私は、広告の本質は「受動性」だと思っています。その意味で言えば、ウェブでいえば、AdWordsなどのテキストバナーは、それが単にテキストだけの質素な広告であったとしても、きっちり「受動性」を満たしていますが、「続きはウェブで」の先にある、フラッシュ満載のリッチな特設サイトは、じつは広告の本質からは少し遠いものと言えます。余談ですが、ネットメディアが台頭してきたとき、広告代理店は、広告の本質により近いテキストバナーではなく、リッチな特設サイトに注力してしまったのは、今から思えば失敗だったと私には思えます。
話がそれました。「Town Market」の話です。東京中野の自宅のポストに、その「Town Market」のチラシが入っていたんですね。なんだろうと思ってチラシをみると、そこにはこんなコピーが。
週刊TV情報紙と地域の広告・チラシを
毎週(金)あなたのポストへ無料でお届け!
なるほどなあ。さすがリクルートと思いました。やっぱり考える人は考えるんですよね。そのキャッチコピーの下には、赤色の囲いの中に想定ターゲットが示されたこんなコピーもあります。
週末にお得な情報が欲しい方、
ご自宅で新聞を購読していない方にオススメ!
この宅配版「Town Market」の企画、かなり考え抜かれていますよね。新聞にあまり興味のない人、ニュースはネットで見るという人にとって、新聞本紙であえて必要だと思うのはテレビ欄。そのテレビ欄と芸能情報をコンテンツにして、まとめてチラシを届けてしまうという方法。しかも、信頼性はリクルートという企業名で担保。一応、これで、新聞折り込みチラシのメディア特性の要件は、完全にではありませんが、すべて満たしています。ただ、盲点はあります。テレビ欄でさえ、今はネットで代替できるんですよね。無料でも、このセットを申し込む人がどれだけいるのか、という部分。これは、ある意味本質的な部分でもありますが。でも、このサービス、化けるとかなり地域広告メディアの中核になりそうな予感がします。
チラシには、「目黒区・世田谷区・中野区・杉並区・大田区・品川区の皆さんへ」と書かれていて、すでに始まっている横浜市、川崎市、町田市(きっとテストマーケティングでしょう)での実績で、勝算ありと読んで、いよいよ本丸へという段階なんでしょう。ちなみに、我が街中野区は全国ではじめて新聞購読率が5割を切った街。それと、人口密度が日本一の街でもあります。リクルートにとっては、まさに中野決戦といった感じなんでしょうね。
追記(4月22日午前2時頃):
はてなブックマーク経由で、こんな記事を見つけました。週刊ダイヤモンドが好みそうなネタではありますが、それを取っ払って考えても、やはり、業界的にはかなりのインパクトがあるようです。
記事にある「ある広告代理店幹部によると」という部分をどこまで信じるかによりますが、どちらにせよ、このサービスは、新聞の収益構造そのものに絡んでいるから、いろいろ微妙な大人の事情を含んでいそう。まあ、新聞はデイリーで、こちらはウィークリー(コンテンツ的にはウィークリーが限界でしょう)。その面できめ細かさでは新聞が勝ちだし、受動性の度合いも新聞のサブとしての新聞折り込みに利があります。
そもそも、ロジカルに考えれば、昨今の新聞離れはこの件とは別問題だし、主に新聞を読まない層を狙っているわけだから、本格的な競合もなさそうな気もしますが。でも、広告予算削減傾向の今、今後は宅配版「Town Market」だけでいいやという広告主もいると思うし、広告メディアが広がっても顧客は広がらないわけで、記事にあるように客を奪われるというのはやっぱりあるでしょうね。「メディアの雄」を自負する新聞社の気分としては、あまり気分のいいものではないのかもしれません。
追記2(4月22日午後2時頃):
ダイヤモンドオンラインの記事が、はてなブックマークのトップに。そうか、やっぱりいろんな意味で刺激的なサービスなんだなあ、といまさらながら実感。あと、余談ですが、同じサービスを語るにしても、このエントリのような個人メディアが発信する記事の書き方と、ダイヤモンドのようなジャーナリズムが発信する記事の書き方は、ずいぶん違うもんですね。タイトルのつけ方とか、論の進め方とか。ま、私の場合は、ポストの中のチラシを見て「ほえぇ、リクルート、いろいろ考えるよなあ」という感想のがベースになっているからではあるんですけどね。
このへんの話法の違いみたいなことって、いろいろ面白いなあ、なんて思いました。
追記3(4月23日0時頃):
このエントリを書いた時点ではダイヤモンドの記事が出ていなかったので、この時点の私の認識では「Town Market」はPC版のことでした。しかしながら、急速に宅配版「Town Market」がホットな話題になってきて、「Town Market」が宅配版を指すような状況が生まれ、今読むと、少しわかりにくくなってしまっているようなので、若干文章を手直ししました。文意は変えていません。また、そのへんの時間的な事情を加味して読んでいただけると幸いです。しかし、たった1日でずいぶん状況が変わるもんですね。びっくりです。
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コメント
はじめまして。ちらし折り込み広告のことを検討していて、こちらを拝見させていただきました。「お茶は出せないけどね」のコピーが秀逸で、心に来ました。流石はプロです!
時々、参考にさせていただきに来ようと思います。よろしくお願いします。
投稿: 曳家岡本 | 2013年1月22日 (火) 20:42