ユートピアについての覚え書き
古今東西、太古の昔から、人はユートピアを夢見てきたようではあるけれど、昔の人が残してくれたユートピア思想を読むと、ああ、これは人の方が変わらないと成り立たないよな、なんて思う。今でもユートピアを実践するちいさな集団もあるし、社会主義国家なんかも、空想的とか科学的とかぜんぶ含めて、根本の部分はユートピア思想なんだろうと思う。そのユートピアは、ユートピアが成り立つためには、人が変わる必要がある。ま、このへんはあまり詳しくないから、あまり言い切ることはできないけれど。
では、いま私が住む国の基本原理であるところの資本主義というものは、そうではないのか、と言えば、まあ、これも根本はユートピア思想の部分もあるように思う。資本主義というものに人の方が変わることによって、なんとかやっているという感じでもあるのだろう。対抗原理が今のところ思いつかないから、とりあえずはこれでいいのと違いますか、みたいな感じで、いろいろと修正しながらやっているのが今なんだろう。
ユートピア思想としての資本主義は、うまくいかなかったら修正すればいいんだし、みたいなこととか、そもそもみんなしあわせ、みたいなことは無理ですがな的なゆるさというかいいかげんさがあるし(そういう意味では、資本主義というものはないのかもしれない)、とりあえずは、なんだかんだありながらも、それなりにうまくいっていた。これからはどうなるかわからないけれど。
どちらにしても、なんとなく思うことは、人が変わらないといけないユートピアというのは、本末転倒とまでは言わないけれど、なんか違うのだろうなと言うこと。ユートピアでしょ。そのユートピアを成立させるために、人のほうが変わらなきゃいけないのは、その時点でユートピアではないじゃない、みたいな感じ。
人が思い描けるユートピアというのは、なんとなくだけど「じゃりン子チエ」が描く世界くらいが限界ではないだろうか、ということをぼんやり考えています。今、「じゃりン子チエ」を読み返していて、ああ、この世界、ある意味でユートピアなんだな、みたいなことを感じた。もちろん、このマンガをユートピアと評したのは私がはじめてではないけれど、私は、いわゆる人情ものという部分ではなく、人の駄目さやえぐさみたいなものの存在を認めて、さらにはそれを嫌悪しつつ、それでもそれを許すというか、流すみたいなリアリズムの部分で。
いまある世界は、ユートピアではない。テツのような人は排除されるかもしれないし、「うちは世界でいちばん不幸な少女や」と嘆くチエちゃんは、本当の「不幸な少女」になってしまうかもしれない。春になると決まってノイローゼになる猫のジュニアは、ノイローゼから回復しないかもしれない。「チエちゃん」というホルモン屋は、フランチャイズの居酒屋に客を奪われ、つぶれてしまうかもしれない。
それが現実だ。だからこそ、ファンタジーとして、あの作品は多くの人に愛されてきたのだろうけれども、読み返してみて思うあの作品の特筆すべき点は、人の駄目さやずるさ、いいかげんさ、えぐさみたいなものが、徹底的に肯定されている点だと思う。なんとなく気づくことは、その肯定を成り立たたせるために、極端な悪と、極端な善が、その作品世界から徹底的に排除されていること。
もし、「じゃりン子チエ」というユートピア思想にラディカルなものがひとつあるとすれば、そこだろう。その一点で、「じゃりン子チエ」が、いわゆる大衆文学とは違う地平にある作品なのだと思う。それは、ある意味で、作者であるはるき悦巳が子供の頃に生きていた、大阪の下町の倫理あるいはリアリズムなのだろう。なんとなく、この作品を読むと、吉本隆明が言ってる「大衆の原像」という言葉を思い出す。この「大衆の原像」という概念は、今もまだ有効なんだろうか。そんなことを少し思った。
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コメント
ご無沙汰してしまいした。
「大衆の原像」は、身近にそういう人がいるとリアルですよね。そういう意味では、減ってきました。ほんとに「像」になりつつあるのかもしれません。
投稿: 喜山 | 2009年4月 9日 (木) 07:21
お久しぶりです。
大阪でも東京でも、下町はまだまだそういう「大衆」のリアリズムみたいなものが息づいているように感じますが、やっぱり減ってはいるんでしょうね。
でもまあ、大衆のウルトラ化みたいなものは、ネットにいたりすると感じたりもするし、形を変えた「原像」みたいなものがもしあるとすれば、それを把握できればなあみたい感じはありますね。
投稿: mb101bold | 2009年4月 9日 (木) 17:57