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2009年4月26日 (日)

タレント広告のリスク

 日本の多くのテレビCMはタレント広告です。その中には、タレントがタレントとして商品なりブランドなりをお薦めするものもあれば、タレントがストーリーの中の登場人物として演じる場合もあります。前者の積極的なタレント起用の場合はもちろん、後者の場合でも、タレントさんが不祥事を起こしてしまうと、広告が取りやめになることが多いのが、残念ながら現在の風潮です。

 今回の草彅さん泥酔の件でも、ほぼすべての広告が取りやめになりましたし、彼の出演する番組が差し替えられたりしました。私の個人的な感想ですが、今回は草彅さんにとっては不運だったように思います。出来事としては、まあ酒にまつわる失敗でもあるし、日常でもよくあることだと思うのですが、なにせ内容が、ネタとしてキャッチーでした。芝生で全裸ですもの。しかも、あの草彅さんが、という感じで、これはもう、逮捕うんぬんでなくても、今の時代では同じことが起こっていたと思います。

 まあ、そうした風潮はちょっと世知辛いなと思うし、私は今回の件で、草彅さんも一人の人間なんだよなあ、みたいなことを思いましたし、草彅さんの真面目なイメージ通りのお酒の失敗だったような気もします。純な人なんだろうな、という感じです。あえて突っ込むとしたら、「人間として最低」ではなくて「学生じゃねえんだから」ですよね。ただ、企業にとっては、彼のイメージ資産を使って広告しているわけだから、わざわざイメージが一時的に下がっているときに、その人を使って広告する意味もないので、今回のようになるのは仕方がないですね。

 タレント広告には属人的なリスクがあります。みんなそれを承知でタレントを起用しています。だから、鳩山邦夫総務相を除いて、広告主側は誰一人として苛立ちを表明しなかったでしょ。内心は、「こんな、なにかと大変な時期に不用意なことしてくれるなよ、ほんとにもう」なんて思うのでしょうけど、起きてしまったことだし淡々とことを進めるしかありません。それだけでも何かと大混乱ではあるのですが。

 現場はみんなリスクを織り込み済み。もちろん、こういうことはないに越したことはないけれど、それがタレントを広告に起用するということですから。たぶん、今回のことくらいなら、お金の話を含めたビジネスライクなやり取りがドライに行われ、ある時期を過ぎれば、きっと多くの企業はまた草彅さんを起用するのではないでしょうか。冷静に見て、今回の件は、傷害事件のような致命的なものでもなんでもないですし。まあ、このへんのことは大手広告会社の所属ではないので、はっきりとしたことは言えませんが。

 私もタレント広告を制作することがときどきあります。いろいろ大変です。たとえば、まだ芽が出ていないタレントさんを起用して、そのCMで人気が出ると、次のクールの契約が予算的に難しくなったりすることもあります。要するに、契約料が上がるんですね。こうなると、広告主とタレント事務所の間に挟まれる広告会社としては、いろいろ調整が難しいです。

 逆に、企画段階では旬だった人が、オンエア時では落ち目になっていることもあります。流行のギャグを使ったCMなんかは、ほとんど賭けです。寒いCMになるリスクが大きくて、私はそういうのは怖くてやりません。

 それと、誰を起用するかを決めるときが一番しんどいです。試しに思考実験。ある銀行のCM。誰を起用したいか3人くらい挙げてみてください。第一希望、Aさん。第二希望、Bさん。第三希望、Cさん。その中で、金融系のCMに出ている人は除外です。競合に出ている人は、出演できません。Cさんが残りました。第三希望なので、少しインパクトに欠けますが、とりあえずはよしとして、交渉してみます。すると、Cさんは金融系NG。で、全滅。振り出しに戻る。タレント起用の実務はそんな感じの繰り返しです。もちろん、起用が決まって、企画も決まって、制作に入ってしまえば、エンターテイメントのプロであるタレントさんとのお仕事はとても楽しいんですけどね。

 ちなみに、タレント広告は日本と韓国に多い手法です。欧米にもタレント広告はありますが、多くは、「セレブリティに語らせる」というアイデアとしての起用です。欧米の広告会社のクリエイティブ・ディレクターは、各国の支社を歴任して出世していくことが多いのですが、その赴任先で日本と韓国は人気がないそうです。オーストラリアやタイではうまく行く有能なクリエイティブ・ディレクターが、日本と韓国だけでは結果が出せないようです。なにせ、街に貼っている、確定申告やら火の用心などの政府公報系の小さなポスターなんかも、ほとんどがタレント広告の国ですものね。

 それがいいことかどうかはわかりませんし、私は正直言うとあまり好きではありませんが、まあ、それもひとつの文化ではあるのでしょうね。と外資系の広告マン的な皮肉っぽい締め方ですが、本日はこのへんで。ではでは。

関連エントリ:
タレント広告はなぜなくならないのか(1)
タレント広告はなぜなくならないのか(2)
スタンドインさん
「好感度」考
キャラクターはいいやつだ

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広告のしくみ」カテゴリの記事

コメント

ご無沙汰しております。

今回の草ナギ君の件で、彼を起用していた広告主の「くさいモノに蓋」的な対応には疑問を持っていたのですが、広告主側にもそれなりの理由があるんですね。
ただ、根本的に過剰反応しすぎという気はします。広告を全て取り下げてしまうほどのことか?という。

とすると、問題の本質は広告の受け手(=消費者または市民)ということでしょうか。広告主側が受け手に対して攻撃されるリスク(クレームとか)があるという。

寛容さがない世の中というのは本当に世知辛いですね。

投稿: mitsu7716 | 2009年4月26日 (日) 13:05

mitsu7716さん、こんにちは。
ま、彼はスターですし。メディアも消費者もほってはおかないでしょう。でも、そろそろほとぼりは醒めるのではないでしょうか。なんとなくそんな感じがします。
今は情報の拡散が少し前とは違う感じがします。そのぶんひくのも速いけれど。寛容さは経済状況に同期しているような気もします。しばらくは世知辛いのではないでしょうか。しんどいですけどね。

投稿: mb101bold | 2009年4月26日 (日) 15:31

商品ではなくタレントを売るかのような広告は、それだけで商品への信頼を損ねてしまっていると思いつつ、それを「ブランディングですからすぐ効果なんて見えるわけがない」といって売っている側にも問題があるわけで

投稿: 課長007 | 2009年4月26日 (日) 16:47

いろいろ分けて、緻密に考える必要があると思うんですね。でないと、この手の分野は感情論になりがち。
現場の感覚で言えば、タレントを売るかのような広告は、事実としては、課長007さんのコメントとは逆で、短期的に効果が出やすいんです。それは当然と言えば当然の結果で、タレントの「持ち票」を利用しているわけですから。POS仕切りが激しい今の市場で、ますますタレント広告が主流になるのは、これもまた当然と言えば当然の結果です。
でもリスクもあるし、売れるのはタレントの力だから、長期的には難あり。競合コンペで制作担当の広告会社が変わり、タレントが変われば振り出しに戻るみたいなことにもなりかねません。
でも、長期的な視点でものを考えられるのは余裕のあるときで、どうしても短期の効果を求めがちなのが今のビジネスのスピード感でもあり、コストで言っても、これはあまり語られないことですがタレント起用は、短期視点で見るとリーズナブルなので、どうしてもタレント広告になりがちなんですね。
但し例外はたくさんあります。タケヤ味噌とか。そのへんは、エントリの最後のリンクから関連エントリ、そのエントリのコメントをお読みくださいませ。

投稿: mb101bold | 2009年4月26日 (日) 17:33

今回のクサナギ君の件は、全くもっての他人事として(酒に関する事件は私も身に覚えがありますが・・・・・・)見ているので、業界にどんな変化が訪れるのかワクワクしてしまっています。


マスコミに君臨していたジャニーズ帝国の覇権の衰退が囁かれる中、聖域とも言えるSMAPへの直撃ダメージは、痛恨ではないでしょうか。


これに際して、タレントの独立、対抗事務所の興隆、ジャニーズの戦略転換、などなど。。。大袈裟でしょうか。考えることが。


クサナギ君の一件は、芸能界にとって相当エポックメイキングじゃないかと思っています。なにぶん、ゴロー氏よりも罪状がキャッチーなもので。業界は素人の考えるより、それとも、良く出来ているものなのでしょうか。


ところで、「裸で何が悪い」って核心的な良いコピーだと、個人的に思っています(笑)どうでしょう。

投稿: LongtailBear | 2009年4月27日 (月) 01:13

私は芸能界とかそっち方面はあまり詳しくないので何ともいえませんが、各方面対応に大わらわだったのはあるでしょうね。

>ところで、「裸で何が悪い」って核心的な良いコピーだと、個人的に思っています(笑)どうでしょう。

なんか80年代のパルコの匂いがしますね(笑)「裸を見るな、裸になれ。」みたいな。

投稿: mb101bold | 2009年4月27日 (月) 01:55

このニュースで、人間らしさを感じてより彼が好きになりました。
あまり悲しい顔をしてほしくないですね。苦境をバネにしてまた元気に復活してほしいです。

投稿: カマ子 | 2009年4月28日 (火) 11:15

ですね。きっとしばらくすると元気な顔が見られると思います。

投稿: mb101bold | 2009年4月28日 (火) 12:58

mb101boldさん、こんにちは。
早速、新しいキャラクターについては
「特筆すべきは、わずか1週間で特設サイトと着ぐるみが出来上がるそのスピード感。芸能界とユーザーとメディアに目配せしつつ火消しし、プレスリリース、サイト構築、イベント開催などを適切なパッケージにして丸受けするのも代理店のお仕事。──今回ばかりは舌を巻きました。」という感想と同時に、
http://nekote.exblog.jp/10820557/
「酷評するほどブサイクでなく、絶賛するほど良くもなく、草なぎ氏の後釜としてはエロすぎる感じ」という説もあり、
http://kirik.tea-nifty.com/diary/2009/04/post-35f3.html
でも、話題になるだけでOK牧場というべきですね。
彼個人について言うと、愛すべき人物ではあるけれど、酒の呑み方は気をつけたほうがいいよと。(人の事を言える立場ではありませんが!)

投稿: tom-kuri | 2009年4月28日 (火) 17:13

tom-kuriさん、こんにちは。

新キャラクター、朝のニュースで見ました。ネーミングがすごいですね。確かに「今回ばかりは舌を巻きました。」ですね。同業ながら、すごいもんです。話題になって、OK牧場だし。私の感想は「キャラクターかぁ。やっぱ、こういうときはキャラクターだよなぁ。」でした。

>彼個人について言うと、愛すべき人物ではあるけれど、酒の呑み方は気をつけたほうがいいよと。(人の事を言える立場ではありませんが!)

括弧内も含めて激しく同意であります。そういうことですよね。

投稿: mb101bold | 2009年4月28日 (火) 17:34

と思ったら……(あ”別名だ。まいいか)
キャラクターもいじられる時代なんですねー
難しいところであります。>mb101boldさん、
http://kirik.tea-nifty.com/diary/2009/04/post-bd3b.html

投稿: 挨拶専用85 | 2009年4月29日 (水) 16:21

でもまあ、キャラクターはいじられてなんぼですし。いいんじゃないでしょうか。
しかし、今回も「許されるものではない」が出ましたね。せっかくいじってもらって知名度がでてきたところなのに、不粋ですねえ。いろいろ余裕がないんでしょうなあ。

投稿: mb101bold | 2009年4月29日 (水) 23:10

mb101boldさん、どもども。
たびたびすみません、追加情報です。
制作は、フジテレビなんですって@地デジカ。業界紙情報によると
リンク先は「SMAPの草なぎに代わる新しいキャラ「地デジカ」の二次創作禁止へ対抗して「chidejika.jp」登場 - GIGAZINE」でした。

投稿: tom-kuri | 2009年4月29日 (水) 23:11

そうなんですか。フジテレビですか。てっきり某代理店のプレゼン没案復活(笑)だと思っておりました。
しかし、ドメインまで取られて(.netと.comも押さえているみたいです)。ちょっと反発くらっちゃっていますねえ。

投稿: mb101bold | 2009年4月29日 (水) 23:26

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