かしこ
かしこ【畏・恐・賢】
《形容詞「かしこい」の語幹から》1
女性が手紙の終わりに添えるあいさつの語。かしく。男性の用いる「恐惶(きょうこう)謹言」などにあたる語。「あらあら―」
2
恐れ多いこと。もったいないこと。多く「あなかしこ」の形で用いられる。
「確かに御枕上に参らすべき祝の物に侍る。あな―」〈源•葵〉
3
すぐれていること。すばらしいこと。
「草にも真名(まな)にも、…書きまぜ給へり。―の御手や、と空を仰ぎてながめ給ふ」〈源•葵〉
4
思慮•分別などに優れていること。利口なこと。
「我―に思ひたる人、憎くもいとほしくも覚え侍るわざなり」〈紫式部日記〉大辞泉より
「かしこ」と言えば、上記のような意味でしょうが、関西では「かしこ」は「賢い人」という意味になります。4に近いですが、関西の場合「かしこ」だけで「賢い人」を表します。大阪のローカル番組を見ていたら、「かしこと普通の人に分かれて世の中の謎に挑戦」みたいなことを、ハイヒール リンゴ・モモコのお二人が言っていて、なんか久しぶりに「かしこ」という言葉を聞いたなあ、と思いました。
ニュアンスでは、「かしこ」は「走りが早いヤツ」や「歌がうまいヤツ」と同じような感じで、「勉強のできるヤツ」という感じです。ちょっぴり親しみのあるからかいの気持ちがそこには含まれているかもしれません。ハイヒールで言えば、リンゴさんが「かしこ」担当。モモコさんがリンゴさんに向ける感じが、「かしこ」という関西弁のニュアンスをうまく表しているような気がします。番組では筒井康隆さんが「かしこ」代表でした。
こういうのは関西独特の相対化っていうのは、いいもんだよなあとあらためて思いました。進学校は「かしこ学校」で、歴史研究会は「かしこサークル」。関西言葉は、そういう相対化にあふれていて、いろいろ異文化の衝突みたいなものを経て、なるだけみんなうまいことやろやないの、みたいな知恵が言葉に結晶化されている部分があるんでしょうね。
ただ、角が丸くなりすぎて、逆にそういう言葉によってどこに本音があるのかがわからないみたいな部分もあります。「考えときまっさ」が「今回はお断りします」を意味したり。まあ、角が立たないから、商売の関係が維持されるというメリットはあるんですが。それは成熟した都市化の現れですが、関西の場合、ちょっと熟れすぎているという感じもなきにしもあらずです。
都市化が進んで、言葉の一義的な意味から発展して、二次的な体系ができて、その二次的な体系の中で、一時的な意味を了解する人ばかりになると、逆に、外から見ると村的になるみたいなことがあります。空気読め、というのに似ているけれども、二次的な体系というかコードが文化的にきっちり確立されているところが、ちょっと違います。
東京の言葉は、わりと、都市化してから時間が短く、絶えず異文化の流入があるアクティブさがあるので、そういう二次的な体系が少ないようです。関西の人は、東京に住むと、東京の人はみんな親切、みたいな印象を持つようです。それは、親切がそのまま言葉で表現されるからなんでしょうね。
私も、東京で暮らし始めたときは、親切だよなあと思いました。それと、子供がみんな「かしこ」に見えました。子供なのに、ずいぶんストレートだよなあ、と。ま、いろいろ東京の言葉のニュアンスがわかってきた今では、そんなことは思わなくなりましたが。
| 固定リンク
「日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事
- Riskという概念(2019.10.17)
- 「同和」という言葉をめぐって(2019.10.07)
- 久しぶりにコメント欄が荒れた(2019.09.07)
- 父の死(2014.09.02)
- ラジオのこと(2014.08.29)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
西日本を離れて暮らし始めて 20年近くなり 「ああー、あのかしこのことか!」と 理解するのに 時間がかかりました。
私の中では 小さい小さい「っ」が付いて、アクセントが「こ」と「っ」の間にあるような気がします。
投稿: うずまき | 2009年5月 9日 (土) 03:47
子供の頃は私もよく使っておりました。モモコさんの口調で言えば「リンゴ。あんたかしこやから、あたしらの気持ちわかれへんねん。」みたいな感じです。
投稿: mb101bold | 2009年5月 9日 (土) 14:35