たまには広告の仕事のうれしさについて語ってみてもいいですか
なんか巷では100年に一度の不況とか呼ばれてて、そんなとき真っ先にカットされるのが、交通費、交際費、広告費だなんて言われてて、それよりもなによりも、「いまどきテレビCMとか新聞広告ってさあ、時代の変化についていけてないよね。終わってるよね、広告」とかブログで語られたりしたときには、そのひとつである広告を仕事にしている私なんかは、「そないに言うなや、あんまり言うなや、そなこと前から知ってるわ(by Rikuoさん)」という気分になります。
とは言いつつも、時代が変わっているのは事実だし、その事実から目を背けることはできないわけで、そんなこんなであれこれ広告について、このブログに書きつづってきたわけです。そんなわけなんで、いつもの広告論的なエントリは、この時代にどうしていったらいいでしょ的な憂いがにじんでいて、ま、それも魅力のひとつではあるのでしょうが、今夜は、広告の仕事をするよろこびについて大いに語ってみたい、そんな気分です。って、どんな気分やねん。
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枕はこんな感じにして、本題。
広告の仕事のよろこびって、人によっていろいろあるでしょうが、私にとっては、これにつきます。
やれば出来る子が、それなりにのびのびと世の中を泳げるようになっていくことにかかわるよろこび。自分が担当した商品やブランドが、はじめはパッとしなかったのが、次第に、「あいつ、最近、なんかいいよね。元気あるよね。」みたいになっていくことにかかわれるよろこび。
本来はもっと売れるんじゃないかと思うけど、現状、あまりパッとしない。期待を担ってデビューしたのに、期待に応えてくれない。そんな商品やブランドは、けっこうあります。広告費もそれなりにかけているのに、あまり売れない。そんな商品やブランドは、その会社では、ちょっとかわいそうなポジションにあります。あいつ、期待はずれだよね、駄目駄目だよね。あいつさえいなければいいのに。そんな目線に、しょんぼりしながら耐えている、みたいなね。
そういうかわいそうな商品やブランドと出会ったとき、広告屋魂がメラメラ燃えます。「よし、人肌脱いだるか。待っとけよ。」てなことを思います。いろいろ調べて、その子が「やればできる子」の部分を必死でさがします。見つかれば、なぜその子のよさがみんなに伝わらないかを考えます。伝わらない理由が見つかったら、もう勝ったも同然。
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ずいぶん前の仕事だけど、とある百貨店のゴルフバーゲン。品揃えもそこそこいけているのに、なぜだかいまいち。それまでの広告を見ていると、目玉商品の1万円均一のお買い得クラブとかをドーンと出していました。要するに、「目玉商品で釣る」というやつですね。こういうやり方は、初日は釣れますが、中日は閑古鳥ということが多いんですよね。そこが悩みどころでした。もうゴルフバーゲンは時代にあわないんじゃないか、みたいなことを言う人もいました。
で、もう一度、そのゴルフバーゲンの商品構成を見てみました。すると、さすが老舗の百貨店。有名メーカーのクラブが、わりとお買い得なバーゲン価格で出ているのです。バーゲンなので、最新クラブとはいきませんが、少し前までは超人気クラブだったものがたくさんありました。
それともうひとつ。百貨店の新聞広告って何だろう、みたいなことを考えました。そもそも、百貨店が新聞広告を打つ意味って、商品広告にあるんだろうか、と。通販なら商品広告はありなんです。それと、メーカもあり。だけど、百貨店なんです。百貨店のバーゲンの広告なんです。
そうなんですよね。商品広告じゃなくてバーゲン広告が必要なんです。「バーゲンにでるこの商品がお買い得ですよ」じゃなくて、「バーゲンやりますよ。ぜひ来てね。」というメッセージが、その新聞広告には必要なんです。語弊はあるけど、百貨店の命は、商品ではありません。百貨店がそのプライドにかけて集めた商品が集う「場」が命なんです。
一流メーカーのゴルフクラブ10本を、出来る限り美しく撮影しました。職人肌のカメラマンが、「こんなイメージは写真じゃ無理なんだよ」と言い訳するのをなだめながら、朝までねばって。ビジュアルは、ただそれだけ。値段は、1万円というキリのいい数字ではなく、54000円とか68000円とかバラバラ。だけど、それでいいんです。理由をみつけた我々には、迷うことは何もありません。
コピーは「あす10時スタート。」これ1本勝負。A1という美しい明朝体を思いっきり太らせて、新聞枠の上部にドーン。完全版下をつくって、ていねいに製版して、その新聞広告は、日経新聞の夕刊にイメージ通りの姿で掲載されました。
翌朝。背広姿のサラリーマンの行列がありました。会社がある平日にもかかわらず。そして、その行列が噂を呼んで、バーゲン期間中ずっと盛況でした。それは、いままで駄目だった子が、元気になった瞬間でした。以来、そのゴルフバーゲンは息を吹き返し、名物催事に成長しました。
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メディアの状況が変わった今でも、そういう広告の仕事のうれしさはいくらでもあります。ただ、あの頃と、少しやり方は変わったけど、基本は同じだと思います。それは、詳しく事例を挙げられないのが悔しいけれど、私の今やっている仕事が物語っています。近くに広告マンがいれば、お酒に誘って聞いてみたらいいです。きっと、うれしそうに成功事例を語ってくれるはずです。
今、広告に元気がないです。時代が変わって、これまでのやり方が通用しなくなりつつあります。それは、やっぱり事実でしょう。でも、でもね、否定されたのは、やり方であって、広告ではありません。聖書も歎異抄も、ある見方をすれば、広告です。時代の変化ごときで、広告が終わるわけないんです。時代が変化したからといって、変化球しか通用しないだなんてことはないんです。
やり方は変わったし、これからもどんどん変わる。でも、広告の基本は変わらない。広告の基本が変わらなければ、広告の仕事のうれしさだって変わらない。私は、そう思います。
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コメント
こんにちは。
広告の仕事のうれしさ。
いいですねーまだそういった喜びを感じた状況にはないのですが、
今はつらいことがあっても、そういう先があると思ってやっていけそうです。
投稿: coro | 2009年6月10日 (水) 13:04
>いいですねーまだそういった喜びを感じた状況にはないのですが
近いうちにあるかもですよ。今のうちによろこぶ準備をはじめてみるといいかもですよ。お互いがんばりましょ。
投稿: mb101bold | 2009年6月10日 (水) 22:59
こんにちは。
>語ってみてもいいですか。
語って下さい、いっぱい(笑)
元気でました。
やる気でました。
投稿: superjetter | 2009年6月11日 (木) 11:17
それはそれは、よかったです。元気がなによりですものね。
投稿: mb101bold | 2009年6月11日 (木) 11:24
Mb101Boldさん
こんにちは。
広告の方が書く
”広告の仕事のうれしさ”
というテーマがいいですね。
自分も、そういうものを
読むのが好きなんだなあと
実感いたしました。
これは
昔、ジョン・レノンさんが
自分のギタープレイに関して
語っているインタビューを読んで
すげえ面白い!と思った気持ちから
つながっています
(確か、邦題「ジョン・レノン回想録」。
私は昔テレビ情報誌の編集をやっていたので
読者アンケートで1位を取るというのが
やりがいでしたし、うれしかったことです。
そこにも、やっぱり、やり方というか
方法論がありまして
私の中では
”メジャーな番組(視聴率のよい)はレアで調理する”
”マイナーな番組(視聴率の悪い)の調理には工夫を凝らす”
というたどり着いた法則に従って
特集を作っていたように思います。
つまり、メジャーな番組に関しては
本当はあまり調理は必要ないんです。
番組自体が人気があるから
そのまんま工夫なしにドーンと出しても
アンケートはよいんです。
だけど、マイナーな番組特集には
工夫が必要でした。
そこでやっていたのが
メジャーなものをかますという行為です。
たとえば、不人気ドラマの
結末を、当時、ものすごく人気のあった
女性霊感占い師の方に無理やりに占ってもらいました。
ドラマには台本があるから
結末なんてわかってるんです。
だけど、それをわざわざ
超人気占い師に占ってもらう行為自体が
読者的にはバカバカしいし面白いだろうと考えました。
超人気占い師のコメント自体に読者は関心を持つから、その不人気ドラマの特集でも、とりあえず読んでくれるだろうというもくろみです。
結果は、読者アンケートは1位には
ならなかったはずですが
3位とか4位とか
不人気ドラマの特集にしては
いいセンいけたはずです。
これもmb101boldさんのいう
”やればできる子”を
少しだけできる子にできた喜びだったように
思います。
投稿: おやぢ | 2009年6月11日 (木) 11:56
>”メジャーな番組(視聴率のよい)はレアで調理する”
”マイナーな番組(視聴率の悪い)の調理には工夫を凝らす”
というたどり着いた法則に従って
特集を作っていたように思います。
なるほどぉ。確かに確かに。おもしろいですね。考えてみると、広告もそんな感じかもしれません。
いいところが埋もれちゃっていると、けっこうきちんと掘り起こしてあげないと伝わらないという感覚はありますね。
>3位とか4位とか
不人気ドラマの特集にしては
いいセンいけたはずです。
このよろこびですよね。優等生よりもすこしいいとこがうもれている子のほうがやりがいがあるのは、もしかすると学校の先生とかと同じなのかもしれませんね。
投稿: mb101bold | 2009年6月11日 (木) 13:24
あす10時スタート。
なつかしいですね。
あの時点で自分なりの方法論を
もう確立してましたもんね。
(傍で見ててそう思いました)
あの頃から自分は進化してるんだか
してないんだか。
投稿: o | 2009年6月11日 (木) 22:35
oさん、どもです。
なつかしですよね。あの頃、確か隣の席のoさんは某コンシューマー向けソフトウェアを担当されていましたよね。
なんかメジャーな商品でいいなあと思っておりました。それにしても、今のウェブの状況、考えもしなかったです。ほんと時代の流れにびっくりですね。
投稿: mb101bold | 2009年6月11日 (木) 23:06
昔、広告屋をやっていたとき。
キャンペーンが終って、しばらくして
から、担当営業から、「あれで
一割、売上げが伸びたそうです」
なんて報告を受けると嬉しかったな。
ダイレクトマーケティングだったん
で、お客さん(カスタマーの方)から
直接「ありがとう、良かった」なんて
連絡が入っても嬉しかった。
まあ、「良かった」の100倍位、クレーム
も受けてるんだけどね。
投稿: をたくな講師 | 2009年6月12日 (金) 19:58
それは、じんわりうれしいですね。
キャンペーンって、ハングライダーっぽいところがありますね。風にうまく乗れるかどうか、みたいな感じで。うまく風に乗れたら、いかに風に身をまかせるか、逆風が吹いたときにうまく自分にいかせるか、というか。
ハングライダーはやったことないですが。
投稿: mb101bold | 2009年6月13日 (土) 13:42