ビジネスはプロレスだ
かどうかはわかりませんが、ビジネスの現場ではプロレスメタファが使われることが多いです。とりわけ、40代より上の人たちがよく使います。あっ、プロレスメタファというのは、私の造語で、要するにプロレス関連の喩えのこと。プロレスを知らない人にはさっぱり伝わりませんが、そんなところも隠語っぽくて、ビジネスでよく使われる理由かもしれませんね。
てなことを書く私もプロレスはよく知りません。でも、プロレスメタファはよく使います。というか、使いこなしています。いっぱしのプロレスメタファリストです。プロレスをよく知らない若いビジネスマンは、このエントリを読んで勉強すれば、40代以上のプロレスメタファリストの上司から、あいつ話のわかるやつだな、なんて思われるかもしれませんね。思われて得をすることはあまりないかもしれませんが。
・しょっぱい試合ですみません
プレゼンに勝ったには勝ったけれど、なんとなく媚びた企画で勝ったときによく使います。負けたときは、そんな戯れ言は言えなくなるので、あまり使われないようです。新日のSGタッグリーグ、スーパー・ストロングマシン・蝶野正洋組VS武藤敬司・馳浩組の試合途中でマシンと蝶野が仲違いし、マシンがマスクを脱ぎ平田淳嗣になり、マイクを握り「しょっぱい試合ですみません!」と客に謝罪した出来事が由来。ちなみに「しょっぱい」というのは相撲用語で「弱い」を表すそうです。
・この競合プレってブックがあるんでしょ
・俺たちはA社の咬ませ犬じゃない
・セメントをしかける(シュートをしかける)
・それがお前のやり方か
競合プレゼンなんかで、あらかじめ勝つ会社はあそこだろ、と思えるような状況に置かれることがあります。そんなとき、言う台詞として「この競合プレってブックがあるんでしょ」があります。「ブック」というのはプロレスの試合進行の筋書きのこと。そのブックの中の仕掛け、段取りのことを「アングル」と言います。でも、競合プレではライバル会社を引き立てる必要がないので、ビジネスでは「アングル」という言葉はあまり使われないようです。まあ、社内では使うかもですが。
で、負け試合を演じる暇はありませんから、当然「俺たちはA社の咬ませ犬じゃない」となります。これは、長州力が藤波辰巳に「俺はお前の咬ませ犬じゃない!」と叫んだ出来事が由来。この一言で、長州力はブレイクします。
咬ませ犬になりたくない我々はなんとか勝つ方法を考えます。それをプロレスメタファリストは「セメントしかける(シュートしかける)」と表現します。セメントまたはシュートは、プロレス用語で真剣勝負を表す言葉です。前田日明VSアンドレ・ザ・ジャイアントはセメントだと言われています。最後はアンドレが戦意喪失し試合放棄した伝説の試合です。では、セメントをしかけるとはどういうことか。具体的には、見積もりを安くするとか、強烈なタレントをコネクションを総動員して起用するとか、そういうこと。企画で真剣勝負とはいかないところが、若干プロレスとは違うところかもしれません。で、そんな技で勝つと、相手の会社からは「それがお前のやり方か!」(小川直也に対して長州力が放った言葉)と言われます。
・今回はストロングスタイルでいくぞ
逆にタレント勝負とか、そういうギミック(プロレス用語ではレスラーのキャラ立てのための諸々を示します)ではなく、企画とかクリエイティブで勝負することを「今回はストロングスタイルでいくぞ」と表現します。新日本プロレスがストロングスタイルと呼ばれています。対義語としては、全日本プロレスの「王道プロレス」があります。故ジャイアント馬場さんは、かつて「プロレスとはシュートを超えたものである」と言っていて、相手の技をすべて受けきって、その上で勝つというのを美学とされていました。
私は、どちらかというと「ストロングスタイル」より「王道プロレス」が好き。クリエイティブは一般のビジネスマンとは違う感性が必要と言われるけれども、我々とはまったく異なる言語体系を持つ商品開発の方とか異分野の担当の方々が話す言葉を、しっかり聞いて、彼らが話す言語体系でともに語り合いたいとは思います。クリエイティブは、違う分野についての知見はもっていた方がいいと思うんですよね。相手の技を受けきって、相手も輝いて、自分も輝く。ビジネスがプロレスだとすれば、そんなプロレスが理想だなあ。
・ビジネスはプロレスだ
ってときどき思うんですよね。会議なんかでもよく思います。偉い人がいて、偉くない人がいて、年輩の人がいて、若い人がいて、経験のある人、ない人、いろんな人がいるのがビジネスの実際。若い人なんかは、そんなプロレスなビジネスの現場に失望する人もいるだろうけど、逆に、ビジネスはプロレスだと思えば、なんか光が見えてくるんじゃないかな、なんて思います。自分の鍛え方とか、そういう部分も含めて、違った見え方がするんじゃないかな、と思います。
相手の技を受けきるだけの強さがほしいなあ、なんて思います。自分の若い頃を振り返ると、そんな力量がないがゆえに、短気を起こして、すぐにセメントしかけたり、ギミックに走ったり、そんなことばかりやってきたように思います。亡くなった三沢光晴さんのマイクパフォーマンスを思い出します。故橋本真也さんに向けた言葉です。
「次があんのかコノヤロー!」
普段、派手なマイクパフォーマンスをしない三沢さんにはめずらしく、かなり興奮した口調で言い放った言葉です。もちろんプロレスですから、当時四面楚歌にあった橋本さんを活かすための台詞でもあったと思います。でも、この言葉、けっこうきついですよね。そうなんですよね。「次があんのかコノヤロー」なんです。もっともっと鍛えて、もっともっと強くならないといけないな、と思います。いろんな技を受ける力みたいなものを鍛えたいものだな、と思いますよね。あいつと仕事してみたい、そんなふうに言われるのって、きっと、ビジネスでは最高の褒め言葉だと思うし。
まあ、私はプロレスのことは、深いところはよくわかっていないところがあるので、プロレスファンのみなさん、記述の甘いところはご容赦くださいませ。本日は、こんなところで。ではでは。
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コメント
物事をその人の趣味にあった例えを使って説明できると、話がスッと通るときありまよね!
僕自身、誰かと会うときに、その人をもっと知るために、自分自身を分かってもらうために相手の趣味なんかを勉強して臨むことがあります。
やりすぎると「しょっぱい」出会いになるのかも知れませんが…笑
投稿: naosuke | 2009年7月10日 (金) 03:14
mb101boldさん、詳しいじゃないですかw
「俺はお前の噛ませ犬じゃない!」とか
「切れてないですよ」なんてのも、
ビジネスで使えそうですねえ~
投稿: tom-kuri | 2009年7月10日 (金) 09:49
>naosukeさま
相手のことをよく知ると話も弾みますし、そんでもって自分の興味のない分野も相手が興味があることなら見たり調べたりすることになるからお得ですよね。
>tom-kuriさん
どうも私の場合は「昭和プロレス」に知識が偏っているみたいです。
投稿: mb101bold | 2009年7月10日 (金) 21:31
「ガチ」も良く使いますね。
投稿: 通りすがりの新聞広告マン | 2009年7月16日 (木) 11:13
そいえば「ガチ」も「ガチンコ」というプロレス(というか相撲?)用語でしたね。
投稿: mb101bold | 2009年7月16日 (木) 11:20