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2009年7月15日 (水)

[書評]『「買う気」の法則 広告崩壊時代のマーケティング戦略』山本直人(アスキー新書)

 仕事の発注があって、営業、マーケ、クリ、SPなどのメンバーが集められ、ああだこうだと会議を重ねて、でも結局、なんだかんだ話しても結論が出ず、さて、分科会だということで、それぞれ考えるみたいなことになり、もう一度集まって、「どう?考えた?」なんてこと言いながら、途中までできたマーケが作ったパワポ企画書を見ると、そこには「AISASとは」と紙のまん中に大きな文字でレイアウトされてて、そこから10ページほど説明が続く、みたいな。まあ、そこまで我々広告会社は馬鹿じゃないし、きちんとものも考えている気もするけど、わりとそれに近いものは、確かにあります。

 ちなみに、「AISAS」というのは、AIDOMAの法則という古典的モデルから発展させた広告効果モデル。電通の登録商標でもあります。知っている人は多いかと思いますが、一応。

AIDOMA
Attention=認知
Interest=関心
Desire=欲求
Memory=記憶
Action=購入

AISAS
Attention=認知
Interest=情報検索
Search=情報収集
Action=購入
Share=情報共有

 あきらかにネットを意識した広告効果モデルである「AISAS」は一世風靡しましたが、ブログ「広告って、なに?」でおなじみの山本直人さんの新しい著作『「買う気」の法則 広告崩壊時代のマーケティング戦略』(アスキー新書)では、こう書かれています。(山本さん及びアスキー・メディアワークスの渡部さん、献本ありがとうございました。)

 さて、このAIDOMAからAISASという話は大変わかりやすいのだけれど、個人的には「アレレ?」と思った。というのも私が広告会社の在籍時に「AIDOMA」というモデルは、ほとんど使われなかったからである。(P124)

 この感覚は、私にもあって、きっとAIDOMA、AISASは、購入もしくは情報共有という成果から逆算して心理を追っている部分があって、そもそものはじまりである「認知」に至る部分をあえて考えないようにしているところがあるからです。この「認知」に至るには、柄谷行人さんの言葉を借りると、そこにはその大小にかかわらず、必ず「命懸けの飛躍」があって、そこの部分をああだこうだするのが、我々広告人、というかクリエイティブの最初の仕事だと、他の人は知りませんが、とりあえず私は思っていたりします。(とは言いつつ、AISASは、広告効果の過程をうまく語れていて、それなりの成果も出しているとは思いますが。)

 その部分は、山本さんの言葉を借りれば、購買決定モデルで言うところの「問題意識=Problem recongnition」であるだろうし、消費者の心理的な部分に着目すれば「インサイト」だったりするわけですが、そういう「認知」を実現する初期条件に着目して、現代のクロスメディアにおける戦略(私的には戦術かな)の指南をするチャートが、山本さん考案の「ABCDモデル」です。

 「ABCDモデル」の詳細は本書のいちばんの肝だと思いますので、まずは著作を読んでいただくとして、X軸を「購買時の慎重度」とし、Y軸を「長期関与者の存在」としているところが新しく、戦術決定においては、わりとこれで解ける問題もあるんじゃないかな、と思いました。ただ、やはりそれでも思うのは、それぞれのメディアが持つボリュームの問題があって、そのジレンマはまだまだあるかもなあという感想は持ちました。

 この「ABCDモデル」は山本さん自身が「ヤマモト・グリッド」と命名しようか躊躇した、と書かれていましたが、私は、今度、企画書で使う時は「ヤマモト・グリッド」と紹介しますので、山本さん、よろしくです。

 他にも、広告について、いろいろ刺激的な示唆があり、特に「事業主」の方で広告を担当している方は読むと面白いと思います。でも、本当は反発はあるかもですが、こういう本は広告会社の人が読んでおくほうがいいんだろうな、と思いますけどね。USP=Unique Selling Proposition)の部分とか、What to sayとHow to sayの部分とかについては、必ずしも私とは考えが同じわけではないし※、とりあえず戦略の部分に限定しても、やはり広告会社みたいな「外部性」は必要な部分はあると思いますし、たとえ中の人であっても、いかに中で「外部性」を持っていられるかというのが勝負になるとも思います。これは、企画を担当する人の宿命みたいなものかもしれませんね。同じような問題意識を持つ広告人として、いろいろこの本から自分の考えをあらためて批判的に検証し直す部分も多々ありました。

 違いの部分は、私が外資カルチャーの人間だから、ということと、私のコアの部分をクリエイティブにおいている、みたいなところがあるんでしょうね。個人的には、経歴的には私と山本さんが逆のキャリアの進み方をしていて、にもかかわらず、同じ時代で同じ課題を共有し、それぞれの解が似ているようで違うという部分が、非常に面白く、かつ、非常に刺激的でした。

 

 USPについては、1960年代にロッサー・リーブスが考案し、その後、ベイツという広告会社が提唱し実践。「お口で溶けて手で溶けない。M&M'sチョコレート」みたいな成功例を示したけれど(参照)、その後、USPはその理論の限界性みたいなものを指摘されていますし、本家のベイツは本国では解散し、そこから発展させたSMP=Single Minded Propositionを提唱したサーチ&サーチは、SMPを捨ててしまうことになります。でも、本書が言うUSPは、マーケティングの基礎としての、もっと基本的な部分のオリエンの意味でしょうけど。

 また、How to say、What to sayについては、昔、外資系を中心にプランニングと定着の分離で「クリエイティブが思い切り遊べる砂場」理論とかがありましたが、どうもうまくいったとは言い難く、コミュニケーションデザインの潮流から言っても、それは不可分なのではないかという思いが私にはあります。

 では、山本さんの著作のテーマでもある、事業主と広告会社の関係はどうなるかというと、結論的には山本さんと同じような感じになります。というか、もっと過激なことを考えてしまっているかもです。お互いにリスクを負った関係がベストなんでしょうね。それには、我々専業広告人だけでなく、きっと「事業主」側も「変わらなきゃ。」がいるんでしょうね。

 このブログで著作を知った方、山本さんのブログの関連エントリ「まもなく、新刊。」もあわせてどうぞ。

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