後期高齢者医療制度がなくなるんだよなあ
昨年の春過ぎに母がおかしくなって、家族で慌てふためいて、緊急入院。入院すると歩くことも食べることも喋ることもできなくなって、もう駄目かもと思ったりして、たぶんそれは薬のせいだとは思うのだけれど、まあ医者ではないのでよくはわかりません。だけど、そうなって、2ヶ月ほどたって、長期の入院が見えてきたときに、病院からは転院の催促があったんですよね。
母の場合は、とある疾病でそうなって、だけどその最中に認知症がわかって、その時点の最悪な状態が認知症によるものでもないにも関わらず(認知症というのは、それほど急激に状態が悪くなるものではありません)、認知症の専門病院に転院をすすめられたんですね。専門家ではないからよくわからないけれど、やはりこの一連の騒動は今も納得いきません。結果論としては、転院によって治療方針が変わって良くなってはくれたけれど。
この私が体験した騒動は、後期高齢者医療制度のせいかと言うと、じつはそうではなくて、その前にできた「90日ルール」のせいで、後期高齢者医療制度とはまったく関係がないんですね。
このあたりの話が整理された論議というのが、ついに起こらなかったのは、なんとなく残念ではありました。文藝春秋などでは触れられてはいましたが、やはり制度自体が複雑すぎて、ある程度の知識がなければよくわからない話になっていたように思います。
後期高齢者医療制度も介護保険制度も、本質的には、長期療養が必要となる年齢層に対して、一律の保険制度でフォローするのではなく、それを分けて財政的な危機を回避できる新しい制度をつくるという目的でできたもので、そこから起こるいろいろな問題は、その運用にあったような気がします。
財政的破綻を回避する新しい制度をつくるという目的は、当面の出費を減らすという目的にすり替わって、その運用が出費を減らすという一点に絞られました。その運用は、ある意味では巧みで、よくもまあこんなふうに考えられたな、というものでした。優秀ですよね。嫌みで言っているのですけどね。目的に忠実というのも、こういう場合は考えものですね。
例えば、90日ルールで言えば、病院は90日以上入院しても罰則はないんですね。でも、90日を超えると儲けにならない。要するに、本来国が制度としてやるべきことを、現場のお医者さんにやらそうとしている。こういう運用ルールにすれば、「すみません、出て行っていただけますか」と医者は言うだろう、と。医者だって商売なんだから、言わざるを得ないだろう、みたいなことです。それで、認知症や脳梗塞の後遺症で苦しむ人たちが医療難民化したのは、体験した人ならご存知ですよね。今はこの制度はひっそりと凍結されているので、現場は少し沈静化しているようですね。
介護保険に関して言えば、介護認定というものがあり、介護保険が十分に使える要介護5なんかだと、状態としては介護保険ではなく、後期高齢者医療制度または健康保険を使っての医療を受けなくちゃならないんです。現実としては。で、良くなって、もう一度認定を受けると、要介護1とか、もっと言えば、要支援になってしまいます。となると、今度は介護保険がうまく使えなくなるんです。
こうした運用を生み出したもとは、気軽な社会的入院の増加による財政的な貧窮があったのだろうと思います。これをすごく根に持っているのだろうな、という運用に見えます。
民主党政権になって、後期高齢者医療制度がなくなるそうです。後期高齢者というネーミングが高齢者を切り分けている、みたいな感情論から批判が広まって、問題の本質が置いてけぼりになりました。見直されるべきは、制度ではなく運用のほうだったのにもかかわらず、あまり本質に関係ない、というか、慢性疾病で長期化する年齢層の保険制度を別建てにしようと意図する、ある意味で建設的な回答であるとも言える後期高齢者医療制度がスケープゴードになった感じが私にはします。
前にも『問題は「後期高齢者医療制度」ではなくて』というエントリで触れましたが、ネーミングとかイメージって怖いな、と思います。そういうイメージを操作する仕事をしているだけに、これは自戒を込めてそう思います。
なんとなく、政権も変わったことでもあるし、この問題についてはもう一度書いておこうと思いました。なんか、日常に起こるあれこれとわわせて(ほんと、いろいろ起こるものですよね)、こういうエントリを書くと憂鬱な気分になるんですけどね。民主党にはがんばっていただきたいなあ、と切に思います。ほんと、お願いしますよ。ほんとにさ。
追記:
本文と関係ないですが、昔のエントリをリンクします。私はビートルズやローリングストーンズよりPPMの方が好きでした。マリーさん、いい歌をたくさん、ありがとうございました。
| 固定リンク
「医療」カテゴリの記事
- ほんまは痛かってん(2010.05.05)
- 痛くないはずはないんだけどなあ(2010.04.07)
- 「やまない雨はない」というメッセージ(2010.03.07)
- やっぱり、こういう問題の解決は「広告的」な手法が得意なんだろうな、と思いました。(2010.01.05)
- もしもし(2009.10.30)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント