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2009年10月 6日 (火)

PHSの歴史を見ると、いかにコミュニケーションの基礎設計が重要かがよくわかります。

 ウィルコムが事業再生ADRにより事業再生を目指すとのことです。私は、DDIポケット時代からのウィルコムユーザーなので、ウィルコムには愛着がありますし、ひとりのユーザーとしてはさしたる不満もないので、ぜひとも頑張っていただきたいと思います。

 いちおうはウィルコムファンでもあるので、せっかくなんでこのあたりで、ファンとして言いたいことを言っておきましょうかね。

 今のiPhoneなんかのスマートフォンブームのきっかけをつくったのは、じつはウィルコムなんですよね。キーボードなしのハンドヘルドPCのカタチをしたWindows Mobile搭載端末のW-ZERO3や、ケータイライクなテンキーを搭載したW-ZERO3[es]がヒットしたことで、日本にスマートフォン市場ができたのは確実に言えると思います。また、その前には、Operaのフルブラウザを搭載した、通称「京ポン」という機種もありました。

 そのバックボーンには、64kbpsの高速通信がありましたし、何よりも定額制が、これら端末を成立させるキーポイントになっていました。だからこその、スマートフォンでした。それは、当時としてはケータイには真似できにくいことで、私はW-ZERO3[es]を持つことが少しうれしくもあり、電車の中で[es]のユーザーさんを見つけると、なんとなく仲間意識を持ったりもしました。

 でも、そのあと、猛烈な勢いでケータイに追いつかれ、追い越されてしまうのは、もうみなさんご存知のところだと思います。今、私はWILLCOM 03を持っていますが、なんか肩身が狭いです。まあ、今後に期待しています。

 で、ここからが本題。

 PHSって、音質もいいし、医療現場で使われているように、低電磁波特性にも優れているし、ひところ言われていた移動体通信の問題もわりとすぐにほぼ解決という感じになったし、ケータイとくらべても遜色はないどころか、当時では優位点もたくさんあったわけです。それに、基地局の設置が簡単なので、アジアでは固定電話のかわりとして活躍しているとも聞きます。

 でも、このPHS、最初から躓くんですよね。それは、技術ではなくてコミュニケーションの基礎設計の部分で。まあ、行政とか含めたものですから、企業の、というわけではないのですが。

 まずは、このPHS、最初はPHPだったそうです。Personal Handy Phoneの略。それが、PHP研究所と紛らわしいことで、PHS、Personal Handy-phone Systemに変更されます。このこと自体はあまり重要ではないですが、それを法令上で「簡易型携帯電話」としてしまうんですね。

 もともと、コードレス電話の技術が盛り込まれているし、ケータイの技術よりも後発の技術だし、ケータイよりシステムを簡易に、というのがあったのでしょう。でも、これはコミュニケーションではあまりよくなかったように、今から見れば思います。

 ウィルコムの前身であるDDIポケットも、ポケットと言ってしまって、ケータイよりも簡易というイメージを植え付けてしまいましたし、今はもうないNTTパーソナルの「みんなを電話にする会社」というコピー、アステルは「おでかけ電話は、ルルルのル」というコピーを打ち出していました。みんな、行政が言うところの「簡易型」というコンセプトに乗っかってしまったんですよね。

 これは電話に対しての「携帯電話」とは訳が違います。「携帯電話」は新ジャンルですが、あえて「携帯」を無視して「簡易型電話」と考えても、電話に対して新ジャンルにはならないのですよね。ましてや、携帯電話に対しては言うまでもないでしょう。

 要するに、このとき、もう少し先を見通して考えるべきだったのだろうと思います。まあ、今の時点から過去を俯瞰するという特権的な立場で言っているので、私がその現場にいたときにそれができるかどうかはわかりませんが。

 そのあと、携帯電話はケータイと呼ばれ、新しい電話のカタチになりますが、初期設定でつまずいたPHSは、自らの存在を定義するのをあきらめて、技術用語のPHSのままになり、それを人々はピッチと呼びました。この時点で、ケータイに対するオモチャ的位置づけが決定してしまいます。

 そして、今、PHSの業者がかつてのDDIポケット、つまりウィルコムだけになり、やっとここに来て、ピッチではなく、きちんとウィルコムと呼ばれるようになりました。それは、社名変更の影響も大きいと思いますが、少しばかり先に行きすぎてついていけないところもありましたが、これまでの独創的な開発力もあったと思います。

 あとは、ケータイに対する通信性能の差別性がいかに持てるかだけなんですよね。だけなんですよね、って、それが重要なんじゃ、という声も聞こえてきそうな気がしますが、とにかくユーザーとしてはもう一花咲かせてほしいなあと思うんですよね。専門家的には、どうなんでしょうかねえ。やはり技術的には厳しいのでしょうか。でも、コミュニケーション的には、時間がかかったけれど、やっと過去の呪縛から解き放たれた感じだと思いますし、ここからがスタートという気もしていたので、なんとな頑張ってほしいなあと思います。

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W-ZERO3[es]」カテゴリの記事

コメント

PHSはその技術上の制約から今以上の物を期待する事は
難しいでしょうね。
それは、なによりも、データ通信の容量が小さい事です。
高度化する要求に答える為、基地局と収容局間の回線を
8本束ねて800KB/S程度の回線速度しか出せないのが
現状です。これは、システムの基幹がISDNだからです。
(光回線化も進んでいるようです)
この回線速度では、高度化するサービス要求に対応は
難しいです。

設備的に見ても、基地局を多数用意する必要が有り、
運営会社にとって設備設置維持のコストに耐えるのは
大変な事になります。

ですから、基地局設置のコストを使用者側が負担する
ビル内の内線電話システムなどですと導入しやすい事に
なります、内線電話ですとデータ通信も少ないでしょ
うしね。

電波技術的な側面から見ると、出来るだけ小さな電力で
端末が運用される、占有する電波帯域が狭い、など、
とてもエレガントな仕組みだと思うのです。

投稿: をたくな講師 | 2009年10月 6日 (火) 09:18

Blogosを読んでいて、ケータイやPHSをコミュニケーションという広告的な観点で切っていくのは珍しいな、この文調はmb101boldさんに似ているな、と思ったら、やっぱりmb101boldさんでした笑

記事内容に関して言えば、コミュニケーションの問題がそこまで大きいのかなぁ、と感じるところで、をたく講師さんのコメントでちょっと納得したんですが。しかし、そもそも基礎知識が足らないのでなんとも。
ケータイとウィルコムで求められる機能が分化して、結果的に複数台持つことが要求されるとしたら面倒だなぁ、とか。

コルトレーンを聞きながらコメントを書きました。

投稿: イデラ | 2009年10月 6日 (火) 12:27

W-ZERO3にはキーボード付いてますよ

投稿: | 2009年10月 6日 (火) 21:26

NTTパーソナルが生まれる前、某研究所での総合実験で、PHSの技術プロモーションにかかわったものです。
当時、PHSの開発の狙いは「1)家庭内のコードレスホーンをちょっとご近所にでも使えるように」というのと「2)企業、特に工場でのノイズに強い構内携帯電話」ってのが狙いであり、音声帯域としてのサンプリング64Kbpsにしぼって作らたものです。当時の価値観では、ISDNのハーフレートからデータ通信にも価値はあることはあるのですが、PHS開発者達は、携帯TVにあこがれていました。
まだ、ISDNにおいて、夜間定額サービスがない時代ですので、モバイルとしての価値はあるにはあったのですが、これはあくまで上の2)の観点でしか継続性がないって研究プロモーションの立場から言っていたものです。この部門からは離れ、その後は加入網に関与したのですが、PHSを公衆に適用しようという当時郵政省の考えには技術的に批判的な立場でした。
NTT社内でも、おバカな連中(NTTパーソナルを作った連中ですね。)がいて、明らかな無理(マイクロセル方式)を公衆PHSに押しつけたのが通信政策としての失敗だとおもいます。
国全体としてみた場合、今回行政改革会議に参加する稲盛氏などの某社が携帯電話に参入する手段としてPHSに飛びついたのも失敗原因だと思います。日本全体してみれば、Japan as No.1 とおだてらえた時代に無駄な投資をしたものだと今でも思っています。

投稿: 胡桃 | 2009年10月 6日 (火) 22:17

私はネットの片隅でメディアの様な
小売りの様な会社で仕事をしています。

このエントリーの題名は、
製品やサービスが悪くないのに
今ひとつ成功しない事例にも通じる
と興味深く拝見させていただきました。

iPhoneが発売されていなければ、
ウィルコムを手にしていたと思います(^_^;

投稿: JEAKERS | 2009年10月 7日 (水) 00:59

みなさま、コメントありがとうございました。バタバタしておりまして、お返事遅れました。

>をたくな講師さん

技術的側面からの補足、ありがとうございました。確かに、法人の内線電話としてのPHS導入は多いですね。最後の電波技術的な側面は、何か逆転の発想はできそうですね。そこは今後に期待です。

>イデラさん

Blogosにも掲載されてましたよね。登録していいですかとメールをいただいて、まあ、特にデメリットもなさそうですし、という感じで参加しています。先方の編集部がセレクトして掲載とのことだそうです。
をたくな講師さんのコメントには感謝です。私も分かりやすかったです。コミュニケーションの問題は、確かにそこまでという感じはあるのですが、デビュー時のコミュニケーションは、ちょっと煮え切らない感じは確かにあったんですよね。ウィルコムを持つデメリットは、いわゆるケータイサイトと無縁になってしまうことですね。ニッチがきついというのはありますね。
コルトレーン、いいですよねえ。

>名無しさん

そう。QWERTYキーボード!

>胡桃さん

リアルな情報をありがとうございました。携帯TVにあこがれていた、というのは意外でした。それは、今やワンセグが実現してしまいましたね。コメントを読ませていただいて想像するに、やはり、当時からの行政のコンセプトがコミュニケーションにも影響していたのでしょうね。

>JEAKERSさん

そういう製品やサービスは多いと思うんですよね。何ともならないことも多いけれど、コミュニケーションで何とかなることもあって、そこに広告の本質があるのだと私は思っています。
私はiPhone発売前にW-ZERO3[es]を手にしていましたです。当時は最先端感があったんですけどね(^_^;

投稿: mb101bold | 2009年10月 7日 (水) 23:48

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