ジャズは路上がよく似合う
最近、駅のまわりでジャズの路上ライブをよく見かけます。これ、なかなかいいんですよね。若者も、大人も、お年寄りも、それなりに楽しめるので、人がたくさん集まっています。編成は、そのときどき。バスドラとスネア、ハイハットだけの簡単なドラムセット、ウッドベース、ギターのトリオの時もあるし、そこにサックス、フェンダーローズのエレピが加わることもあります。
うちの近くの駅では、どうやら2つのグループがあるようで、ひとつは、ルパン三世のテーマソングや、ハービーハンコック、チックコリアなんかのエレクトリックバンドのナンバーを中心に演奏するグループ。どっちかというとクロスオーバーというか、フュージョンというか。ルパンなんかは、みんなが知っている曲なので、それなりに人が集まるようです。
もうひとつのグループは、オーソドックスなバップ。ステラやアナザーユーなんかを演ります。こういうスタンダードの曲は、一度は耳にしたことのあるメロディなので、わりと年輩の方が、懐かしいなあ、という表情で聴き入っているようです。中には、少し酔った中年の男性が、「あの曲できる?」とリクエストしたりもしています。
このあいだ見たのは、もしかすると、そのどちらかのグループのギタリストの人かもしれませんが、スタンダード曲のギターソロと女性のタップダンサーのコンビ。ジャジーなギターソロにあわせて、わりと激しいタップダンスをするんですよね。これはすごく目立ちます。間近で見ると、やっぱり迫力が違うんですよね。
まずいいなあと思うのは、みんなが知っている曲をやるところ。
ディスニー映画の名曲とか、今、あらためて聴くと、美しいなあと思うんですよね。そこから立ち去っても、しばらくはスタンダードの美しいメロディが頭に浮かんで、ちょっとだけ機嫌がよくなったりね。なんというか、幸せな気分になれるんです。
ジャズっていう音楽は、私は解釈の音楽だと思っていて、だからこそ、みんなが知っているスタンダード曲が使われるんですね。もちろん、オリジナル曲にもたくさん名曲がありますが、それでもジャズの場合は、その曲がいつか誰かに演奏されることを目指している感じがします。つまり、言い方にもしかすると語弊があるかもしれませんが、オープンソースを指向し、シェアされることを前提としている、ということかな。
道行くみんなに聴いてもらうような、街の一部としてあろうとする路上ライブは、そんなジャズという音楽と相性がいいような気がします。もちろん、私の心の叫びを聴いてください、というような個性を積極的に打ち出したフォークやロックもいいけれど、それより、みなさん楽しんでいってください、というようなジャズは、思いのほか路上ライブというフォーマットにはぴったりなのでしょうね。
ジャズというと、どうしても難しい音楽のように思われがちです。実際、難しいしね。聴き込むと欲が出るから、演り手も聴き手も次第に高度化してしまって、こんどは新参者を寄せ付けないようになります。商業音楽としてのジャズ市場は、きっと、マニアとニューカマーのバランスを失ってしまったのかもしれません。
ジャズも、その元になっているブルースも、もともと路上の音楽だったんですよね。そこらに置き去りになっていた調律の狂ったピアノや、穴のあいたギターを使って演奏していたんです。イギリスからアメリカに渡った西洋音階と、もともと黒人が持っていたアフリカ音階をうまい具合にあわせて、つまり現実にあわせて妥協してできたのがブルーノートスケールだし、案外、ジャズという音楽のルーツには、強烈な個性とか、自己表現とかは希薄だったのかもしれません。
そういうジャズに、私はすごく魅かれます。そこには、なんというか、ちょっとビジネスブログっぽい言葉使いではありますが、ソリューションというものが息づいている気がするんです。それは、もしかすると社会性と言ってもいいのかもしれません。だから、路上とよく似合うのかもしれませんね。
| 固定リンク
「音楽の話」カテゴリの記事
- そうなんですよね。僕らだって意味もわからず英語の歌を聴いてきたんですよね。(2012.02.16)
- shinabonsさん(2011.04.15)
- 東京はあまり雨が降らないですが「雨が降る日に」という歌について書きます。(2010.06.12)
- それでも私はジャズが好き(2010.05.17)
- 「春一番コンサート」と音楽の未来(2010.05.10)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
おはようございます。
路上のライブは大好きで演奏していますとすぐに寄って行き、下手でも気にせず乗ってあげてミュージシャンを元気付け、気が付くと法外なチップをあげてはしゃぐ、あんぷおやじでした。
投稿: あんぷおやじ | 2009年10月19日 (月) 08:11
おはようございます。
路上ライブは閉じてないところがいいですね。若いミュージシャンでしょうから、きっと元気付けられると思います。
投稿: mb101bold | 2009年10月19日 (月) 08:21
ソリューション!そうです。
新しいソリューションが提案できないところに
近年の音楽業界の衰退があると思います。
唯一、ここ数年流行している
野外ロックフェスティバルは(古くて)新しいソリューションでしょうか。
パッケージ商品(ダウンロードも)では新しいソリューションは皆無。
大差ないタレントの新しい作品を無理やりリリースするのみ。
ビートルズのリマスター(しただけの)CDがバカ売れする理由は、
そんなところにもあるのではないでしょうか?
投稿: オスギ | 2009年10月19日 (月) 19:18
最近は流行の音楽に疎くなっているので詳しくはわかりませんが、古くて新しいと言えば、私は大阪でGWに開催される「春一番コンサート」です。あのコンサートって奇跡だよなあと思います。
それこそ、お客さんとミュージシャンが一緒にコンサートをつくるといった感じで、いいんですよねえ。ほんと、奇跡です。
投稿: mb101bold | 2009年10月19日 (月) 23:38
「春一番」いいですね!
このところ友人が何人か「若手」として出演しています。
みんな40代ですが(笑)
飲み屋で見かけるくらいで風太さんとは
残念ながら直接面識はないのですが
「ひとりで始めた・だんじり祭り」というか
「ひとりで始めた・ウッドストック」というか
凄いパワーだと思います。
でもね。
今後はこんなところに私達の活路があるようにも思うのです。
「地域と関わりを持つインディペンダントな生き方」が
これからの地球人の、課題解決=ソリューションなのではないでしょうか。
投稿: オスギ | 2009年10月20日 (火) 21:32
40代で若手!いいですねえ。40代は断じて若手です(笑)
>今後はこんなところに私達の活路があるようにも思うのです。
きっと、そうだと思います。
「地域」ってことのほか大事な気がします。それは、ここ最近はますます大きくなってきているように思います。今までは、それを忘れても大丈夫だったのですが、時代がそうは問屋が降ろさないと言っている感じがしますね。
投稿: mb101bold | 2009年10月21日 (水) 00:40
>パッケージ商品では、新しいソリューションは皆無。
とは、耳の痛い話ですが実感です。先が見えない。
人々が心から求めていることは何なのか
地域がどうなっていくべきなのか
議論が深まる社会にしていきたいです。
私の友人でNY在住のジャズピアニストがよく言うのは
ほんとにすごいアーティストの演奏を無料で
聴けてしまうところが、NYのすごい所だと。
音楽が空気のようになっている街って素敵ですね。
投稿: MGeco | 2009年10月21日 (水) 11:53
>コメントのひとつひとつがいとおしいです。
同感、同感。こういうやりとりっていいですよね。
このブログにも書いたことがあるんですけど、NYではジョンスコフィールドのライブが1000円くらいで聴けるそうです。
http://mb101bold.cocolog-nifty.com/blog/2007/10/1000_842d.html
こっちではジャズを聴くのは1万円コースですもの。文化の違いとはいえ、いやはやですね。
投稿: mb101bold | 2009年10月21日 (水) 20:31
はじめてコメントします。
音楽へのあたたかい眼差しが感じられて、ブログの更新を楽しみにしています。
私自身はジャズには疎いのですが、学生時代、夕方から校舎の灯りの下、練習しているジャズ研の人たちを見るのが好きでした。
ジャズは野外で楽しむもの。とても共感します。
投稿: mistral | 2009年10月28日 (水) 19:34
>夕方から校舎の灯りの下、練習しているジャズ研の人たち
ああ、この光景は懐かしいです。私はそのジャズ研の人たちでした。青学の近くに職場があるのですが、夕方頃、そんな音が聴こえてきます。今も昔も同じですね。
投稿: mb101bold | 2009年10月28日 (水) 21:21