NHKオンデマンドの苦戦に思う
朝日新聞によると、開始から1年を迎えるNHKオンデマンドが「今年度の収入は予算で見込んだ額の半分もいかない」とのことらしいです。
NHKの番組コンテンツはお金もかかっているし、相当に質も高いと思うので、このビジネスモデル自体がそもそも成り立たないのではないかという気持ちにもなり、いろいろ考えさせられます。
Macで見られなかったり、ストリーミングだったり、利便性の部分で問題もあるようですが、それが決定的というわけでもないだろうし、成り立たないのであれば成り立たないなりにきちんとした理由を知りたいとは思うんですけどね。でも、あまりうまい理由が思いつきません。
配信されるコンテンツは一度放送されたものだから、理論上は、テレビを持ってさえいれば誰もが無料で見られたものばかりということになります。ハードディスクレコーダーを使えば予約録画が簡単にできるし、その気になれば見たい番組をすべて録画しておくことも可能なはず。ということは、理論上は、このNHKオンデマンドがきっと対象としている、というか、能動的に番組コンテンツを選ばせるというサービスの性格上、結果的に対象としてしまっているNHKのヘビーユーザーは、そこから抜け落ちてしまっているというふうにも考えられるんですよね。
そう考えると、このサービスは、実質的には、その努力をはじめからしないライトユーザーに期待、ということになりますが、消費者インサイトとしては、その努力をはじめからしないということは、見忘れてもまあいいか、という気持ちを持っているということだから、それほど期待できないでしょうし。
そもそも少しの努力で無料になるものを、その努力をしなくていいことに対してお金を払う、ということに合理性があるかどうか、というふうに考えることもできるのかもしれません。さらに言えば、無料だったものが、時間が過ぎると有料になるという事態は、よくよく考えると、なんとなく人間の普通の感覚とはかけ離れているような気もしないではありません。古書もそうですが、時間が経てば値打ちが下がるのが道理ですものね。古書でもプレミアムがつく希少本もあるにはあるけれど、番組コンテンツはデジタルデータだし、そもそも無料だったものだし、ゼロにいくらかけてもゼロだから、きっとその理屈は成り立たないでしょうね。
個人的には、この手のものは、課金コンテンツであっても暇つぶしという目的を主軸にするしか手はないとも思うんですけどね。やっぱり、ライトユーザーに受け入れられるシステムをつくるしかないんだろうなあ。でも、明快な手は私にはまだわかりません。まあ、こういう分野では、相当な頭脳が投入されているのでしょうから、わからなくて当然とも言えますが。
きっと、こういうことならいけるというアイデアが最も求められる分野のひとつなんでしょうね。そう考えると、広告モデルというのは、ものすごいアイデアだったんだなあとあらためて思います。新聞にしても、ネットでの無料公開は、そんな広告モデルが根拠になっていたのでしょうが、ネットは情報摂取の能動性がありすぎるんですよね。広告は、テレビ、ラジオ、新聞、交通、屋外などの受動性のあるメディアでこそ活きると思いますし、限界はあるし、そして今は限界があったという時期なんだと思います。
しかしまあ、ものすごい時代の曲がり角にいるんだなあと思います。このあたりのこと、気付かないふりをできればいちばん楽なんでしょうけどね。ほんと、ため息が出ますねえ。はぁ。
では、引き続きよい休日を。
追記:
このページのはてなブックマークのページに、NHKオンデマンドについてのいろんな感想や意見が出ています。「消すのが早い」とか「コンテンツの数が要求水準に達してない」とかは、あるんだろうなと思いました。結局、こういうコンテンツって数だと思うし。あそこいけば何でもあるし、探れば発見もあるっていうのが大事なような気がします。図書館にしても、レンタルビデオ屋さんにしても、やっぱり数はあるほうがいい。それと、「家電のCPUが遅すぎる」というのは、確かにそうかも。これは考えもしませんでした。
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コメント
NHKは受信料も徴収しているのに、オンデマインドになると有料にするのはどうかと思いますね。
使ってみて、一番の問題はストリーミングで視聴できる期間が短いことかと。
これでは誰も使わない、というのが一番の感想でした。
投稿: toorisugari | 2009年11月29日 (日) 19:27
なるほど。ストリーミングは期間の問題はあるでしょうね。
投稿: mb101bold | 2009年11月29日 (日) 19:36
うぅ~ん…わたしはネット業界の末端で働く人間ですが、
パッと見ただけでも、ビジネスモデル、サイト利便性について
かなり改善の余地があるように思います。
あきらめるのはまだ早いのでは。
ただ、NHKコンテンツは十分魅力はあるものの
「無料だったものに金払ってまで」というのは
確かにあります。
コンテンツそのまんまに課金、というのは難しいのかもしれません。
見逃し視聴用途の動画サービスとして成功している
アメリカのHuluみないな感じでやるしかないんじゃないかなあ。
結局広告モデル?!
投稿: @ | 2009年11月29日 (日) 19:58
まあ自分が事業を興しているわけではないので気楽に考えてはいるのですが、サイトは確かに改善の余地がありそうですね。Huluのサイトを見ましたが、非常に整理されていて良いですね。
Huluはライトユーザーのインサイトに応える感じですし、ひとつの答えかもしれませんね。広告も高付加価値だそうですし。ということは、やっぱり広告モデルか。公共放送のNHKには無理そうですね。
投稿: mb101bold | 2009年11月29日 (日) 20:21
NHKの受信料を払ってるとネットでも無料で見られるようなキーを配信するとかすればどうですかね?
投稿: jumpmaster | 2009年12月 2日 (水) 11:31
NHKの受信料支払いの促進という意味ではたしにはなるでしょうけどねえ。でも、それでも強い後押しにはならないような気もします。払わない人は払いませんから。
同じような発想で、プロバイダー料に抱き合わせるとかね。でも、それでもうまく行かなかった事例がありますから、実際はなかなかそれだけでは難しいのでしょうね。
投稿: mb101bold | 2009年12月 2日 (水) 23:46