マ、マ、マ、マカロニ
元旦の政治関係のシンポジウム番組で建築家の安藤忠雄さんが「最近の若者は元気がない」と熱く語っていました。でも、安藤さんは「でも社会に元気がないのに、若者に元気だせと言ってもそれは無理な話。社会に元気がないのに若者だけ元気なのは、それはそれでおかしい。まずは社会が元気を取り戻さなければ。」とも語っていました。
まあ、その通りでもあるとは思います。でも、若者とも言えず、かといって熟年でもない中途半端な年齢の私には、そんな若者たちが持っている新しい価値観というものは、元気とか、希望とか、そういったスーパーポジティブな価値観ではない新しいものが、若い人との会話の中に見え隠れしていて、もしかするとこれからの世の中はこういうフラットな感覚の中で進んでいくのかな、と思ったりします。そこは、ちょっと期待している部分もあるし、中途半端な世代としては、少しばかりの共感もあります。
私は、いわゆるJ-POPを追っているわけではないけれど、私の世代だとニューミュージック世代で、私の好きなアーチストで言えばオフコースとか、そういう感じ。松田聖子さんもそうです。その世代の人たちは、恋愛の関係性の機微を歌っていたような気がします。
次の世代では、君を守る僕の気持ちみたいな感じのものが増えてきます。関係性から個の意識へ、みたいな感じです。ミスチル以降は、特にそう。自我の世界を歌い上げる感じのものが増えてきました。私は、そんな傾向を個人的には新実存主義なんて呼んでいました。浜崎あゆみさんの歌が支持されるのは、若い人の実存の部分をとらえるからだと思います。
そんな新実存主義の時代がずっと続いて、あっ、これは違うなと思ったのは、代表的なアーチストで言えば、Perfumeでした。つまり、作家で言えば中田ヤスタカさんの感性です。時代を覆う気分になっているかと言えばそうではないと思うし、現在でも、超ヒット曲は新実存主義的なものですが、でも、Perfumeの歌の歌詞には、そこから少しだけずれた新しい感覚があったんですよね。
ここ最近で、好きだなあと思う曲のひとつに、Perfumeの「マカロニ」があります。シングルで言えば、「Baby cruising Love」のカップリングですが、このシングルは地味だけど、どちらの曲もとても素敵ですよね。ほんと、いい曲。
「マカロニ」の中に、こんな歌詞が出てきます。
これくらいのかんじで いつまでもいたいよね
どれくらいの時間を 寄り添って過ごせるの?
これくらいのかんじで たぶんちょうどいいよね
わからないことだらけ でも安心できるの
この「これくらいのかんじでたぶんちょうどいい」という感覚が新しいと思うんです。それは、今まであまりなかったし、今の若い人たちの気分にあっている感覚だなあ、と思う気もします。大切なのは、「君を抱いていいの?」とか「君のために今何ができるだろう」じゃなくて「ぐつぐつ溶けるスープ」の中の「マカロニ」だったりするところが、新しいなあと思うんですね。
上昇志向でもなく、だからといって下降におびえるのでもなく、フラットに「ちょうどいい」をキープしていく感じが、もしかしたらこれからの価値観なんじゃないかな、と思います。Perfumeの3人の、あのいつまでたっても自然体な感じとあわさって、私は今の曲の中ではすごくお気に入りです。
まあ、この感覚はまだまだ少数派のような気もしないではないですが、このあたりの感覚を大事にしながらいろんなことを考えていきたいなあと、年始に少し思ったりしています。ではでは。
追記:
この「マカロニ」のエンディングに、こんな歌詞があるんですね。
最後のときが いつかくるならば
それまでずっと キミを守りたい
この「最後のとき」というのが恋の最後なのか、命の最後なのかはわかりませんが、少なくともこの「マカロニ」の「たぶんちょうどいいよね」という世界観は、この「最後のとき」を見据えているんですね。つまり、この曲は、私の世代からみると「老成した青春」の歌なんです。このあたりの感性を見逃すと、今の新しい感覚は、その上の世代からは否定しか導き出されないはずなんです。
でも、その否定は浅いと思います。それをもしかするとニヒリズムと切り捨てられるかもしれませんが、私は、この「老成」の感覚はけっしてニヒリズムではないと思います。というか、ここから生まれる明るさこそが可能性なんだと私は思っています。
シングルCDのカップリング曲(というか「マカロニ」がカップリング曲かもですが)の「Baby cruising Love」も、同じ感性があります。等身大の感性というか、その世代なりのちいさいけれどどうしようもない挫折が自然体で描かれていています。
簡単な事って 勘違いをしていたら
判断誤って 後ろを振り返るんだ
何だって いつも近道を探してきた
結局大切な宝物までなくした
この後、歌詞はこう続きます。
ハッとして気が付いたら
引き返せないほどの距離が
ただ前を見ることは
怖くてしょうがないね
こういう感覚は私にもありますが、こういうかたちで素直に表現することは、きっとできないんだろうと思うのです。そのあたりの感覚は、きわめて今なんだろうと思うんです。こういう感覚をこういうてらいのない言葉で表現できる感性は、正直を言えばすごく嫉妬するというか、うらやましいです。決して時代を動かすような派手な言葉ではないけれど、今を生きる個の深い部分に届く言葉ではあると思います。
| 固定リンク
「音楽の話」カテゴリの記事
- そうなんですよね。僕らだって意味もわからず英語の歌を聴いてきたんですよね。(2012.02.16)
- shinabonsさん(2011.04.15)
- 東京はあまり雨が降らないですが「雨が降る日に」という歌について書きます。(2010.06.12)
- それでも私はジャズが好き(2010.05.17)
- 「春一番コンサート」と音楽の未来(2010.05.10)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
マカロニYouYubeで聴いてみました。いい感じの曲ですね(*^-^)
世間に迎合せず、マイノリティだろうなあとこの頃の自分の生活を振り返ってみて思いますが、その分生きやすくなりました。声高にする必要はなく、意見を求められれば反応すると言うか。淡々と生きていっても、それもありなんじゃないかと思っています。
投稿: しばはな | 2010年1月 2日 (土) 23:51
同じく「ようつべ」で視聴。
http://www.youtube.com/watch?v=QViv7nni7OA
のっちカワユス(ちがうw)
しかし、いいエントリーですねえ。
本年中にこのblog本の出版を期待(出るでしょ?)
「2010年(地球号)宇宙の旅」よろしくお願いいたします~
投稿: tom-kuri | 2010年1月 3日 (日) 01:06
>しばはなさん
いい感じでしょ。ほんといい曲だと思います。少し地味ですけどね。でも、こういう曲がそれなりに支持されて、YouTubeでギター曲にアレンジされたりしているのを見ていて、すごくいいなあと思うのですよね。
http://www.youtube.com/watch?v=iFutG7aBM6s
あと、「それもあり」です。ぜったいありです。そう思います。
>tom-kuriさん
あ〜ちゃんもかしゆかもカワユス(ちがうw)
なんか、年始早々そういう気分で書きました。2008年初頭の曲なのでまったくタイムリーではないですけどね。追記のようつべ。
http://www.youtube.com/watch?v=QqofGg9-tBQ
本とか、宇宙の旅とかは、楽しいことは貪欲に(by しょこたん)という感じで、ゆるゆると考えていきたいです。本年もどうぞよろしくです。
投稿: mb101bold | 2010年1月 3日 (日) 01:50
あけましておめでとうございます。
今年も勝手ながら気ままに記事を拝読させていただきます。
とても文章力あふれる記事もある中で、どうにも言えないタイミングでperfumeの記事が現れるあたり、本当にperfume好きなんだなぁというか、管理人さんのミーハー的な人間味が感じられて楽しいです。
(ミーハーというのは、嫌味じゃなくて、僕もperfume大好きなので。)
投稿: jim | 2010年1月 4日 (月) 22:05
ほんと、意味不明なタイミングでした。年始になぜかこの曲を思い出したんですよねえ。
ミーハー的というのは、すごくうれしいです。なんというか、最近ミーハー心が摩耗していたので、もっとミーハーでいきたいなあと思いました。
本年もどうぞよろしくお願いします。
投稿: mb101bold | 2010年1月 5日 (火) 02:51
この記事と全く同じこと思ってました!
そうそう、ほんとそうだよね、と頷きながら読ませて頂きました。
…自分のブログで熱く語らなくて良くなっちゃった(笑)。
投稿: mipoling | 2010年1月12日 (火) 23:51
いえいえ、ブログで熱く語ってくださいな。それにしても、いい曲ですよねえ。
投稿: mb101bold | 2010年1月13日 (水) 00:12