んー
んー、おもしろかったなあ。
何気なく本屋さんで手に取った新書で、ずっと鞄の中で眠ったままだったんですよね。タイトルが面白そうだなあ、なんて感じで、他の本とあわせて買いました。この手の本って、買ったこと自体忘れちゃうんですよねえ。でも、電車に乗って、なんか読みたいなあと思って、鞄を開くと、この本しか入ってなくて、でもって読み出したら、もう止まらない、止まらない。
本の名前は、『ん 日本語最後の謎に挑む』です。新潮新書から出ています。著者は、大東文化大学准教授で中国及び日本の文献学がご専門の山口謠司さん。山口さんはマルチな活躍をされていて、林望さんのファンの方だと、イラストレーターとしてご存知の方も多いかと思います。
冒頭に、こんなエピソードが出てきます。
ところで、唐突ではあるが、筆者の妻はフランス人である。彼女は日本の伝統文化に対して深い興味があるというタイプのフランス人ではなく、結婚してから日本にやって来て、日々の生活のなかで日本語を習得した。そのため日常生活の会話ができる程度の日本語力しかない。
その妻が、時々、イヤな顔をして筆者に言うことがある。
「そういう音、出さないでくれる」
彼女が「出さないでくれる」という音は、筆者が何かを考えていたり、どう応えていいか分からずに「んー」という返事をする時の声である。
この山口さんの奥さまの反応にはどのような理由があるんだろう。その謎に、いろいろな角度から、あの手この手で迫っていきます。空海、最澄、紀貫之、清少納言、本居宣長、幸田露伴。まさに、オールスターキャスト。
この本には、日々使っている書き言葉や話言葉を考えるうえで、いろいろな示唆があって、それはまたいつか書きたいなあ、と思いますが、今は解説なんかより、ただただ読んでみてください、というしか書くことないよなあ、と思うくらい、エンターテイメントとしても面白かったです。まるで、よくできたテレビ番組みたいな、そんな面白さがあります。というより、もともと本が持つおもしろさって、本来はこういうことで、その論法をテレビが模倣した、というのが順序で言えば正しいんでしょうけどね。
きっと、編集の方と山口さんの関係が絶妙なんでしょうね。本書に出てくる言葉で言えば、「阿吽の呼吸」。
「あっ、その‘ん’についてのお話、おもしろいですねえ。山口さん、今度、その切り口で、一冊書いてみませんか。」
「えっ、‘ん’をテーマにしてですか。んー…」
「あっ、こめんなさい。やっぱり、ちょっと無理がありますか。」
「いやいや、それ、すごくおもしろい!」
みたいな、会話を想像してしまいました。この本が示す、日本語における「ん」の役割って、つまりはこういうことなんですよね。私も、わりと「ん」をよく使うほうですが、その理由がよくわかりました。それと、「だ・である」が苦手なわけも。
ほんと、久しぶりに新書らしい新書を読んだ気がしました。最近は、新書は、脱稿から出版までの速度が速くなって、長文ブログという感じのものも多いけれど、もともとは、文庫に対する新書というのは、こういうおもしろさを提供するものだったんだろうなあ、なんてことを思いました。
おすすめです。
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