「つぶやき」と訳したのがよかったのかもね。
検索してみると、わりと既出のことなので、またかよとか今さらとか思われそうですが、まあいいや。
今や、Twitterは、「クチコミ戦隊つぶやくんジャー」というバラエティ番組もありますし、一般的にも「つぶやきツール」なんて言われたり、すっかりTwitterと言えば「つぶやき」という感じになっていますが、Twitterや、Twitterへの投稿を意味するTweetって、英語の語感で言えば、日本語で言うところの「つぶやく」とか「つぶやき」とはちょっとニュアンスが違うんですね。
で、Yahoo!辞書(プログレッシブ英和中辞典 第4版)で調べてみると、twitterはこんな感じ。
[動](自)
1 〈鳥が〉さえずる((away))(▼「チ, チ, チ」という断続的な鳴き声に用いる);〈人が〉(…のことを)ぺちゃくちゃしゃべる, しゃべりまくる((on, away/about ...));くすくす笑う.
2 (興奮などで)身震いする;どきどきする.
━━(他)〈鳥などが〉… をさえずって表す;〈人が〉…をさえずるように言う.
━━[名]
1 [U]((the twitter ))さえずり;おしゃべり(の声);くすくす笑い.
2 興奮, 身震い
・be all of [be in] a twitter
ぞくぞく[そわそわ]して.
3 ((米俗))警察の手入れ.
その投稿を意味するtweet(英語圏ではtweetsと複数形で表現するとのこと)は、こんな感じです。
tweet
[名](小鳥の)さえずり声.
━━[動] (自)さえずる.
まあ、チチチとかピーチクパーチクとかいった「小鳥のさえずり」ですね。そのニュアンスを忠実に訳すなら、きっと「おしゃべり」でしょうね。ちなみに、高音用スピーカーをツイーター(tweeter)と言いますが、これは上記のtweetから来ているとのこと。
ということは、Twitterというサービスは、わりとあっけらかんとしたコミュニケーションを指向しているということですね。英語圏の人は、このネーミングから、みんなでワイワイ、ぺちゃくちゃと話すというようなイメージを感じていたはず。「つぶやき」という言葉から来るイメージとはちょっと違います。
サービスがはじまった当初のキャッチフレーズは、こうでした。
What are you doing?
日本語で言えば、「今、何してる?」という感じですね。Buzz(このBuzzって、蜂のブンブンという羽の音のこと)的な、気軽で前向きなコミュニケーションの指向性を感じますね。これも、相手に語りかけるという意味では「つぶやき」とは違います。
で、今の英語版のキャッチフレーズは、こうなってます。
Share and discover what’s happening
right now, anywhere in the world.See what people are saying about…
うまく訳せませんが、直訳で言えば「世界中のいろんなところで、たった今何が起っているかを共有しよう、発見しよう。みんなが何を話しているか、見てみる…」という感じでしょうか。それが、日本語版ではこうなります。
あなたの今を共有して、
ツイッターで世界の出来事を知ろうみなさんが何をつぶやいているか見てみよう
英語では、tweetではなくsayが使われ、そのsayが日本語では「つぶやく」と訳され、みたいな関係です。まあ、tweetはsayの比喩表現でもあるから、地の文としてはsayになるでしょうね。それが、日本語では「話す、話しかける」とか「おしゃべりする」とかではなく「つぶやく」となっていて、これは既に「Twitter=つぶやく」という構図が出来上がっているということも多分にあるでしょうけど、この「つぶやき」というキーワードは、とても日本語圏のユーザーに受け入れられやすい言葉のような気がします。
say、つまり「話す」という行為は、必ず相手が必要な概念です。一方の「つぶやき」は相手がいらない言葉で、そこがよかったんでしょうね。最終的には、「コミュニケーションを楽しむ」という同じベネフィットがあるにしても、その導入では、英語圏と日本語圏ではちょっと切り口が違うんですよね。日本では、まず自分。内省的。これは、日本語圏のユーザーが内省的というわけではなく、導入において「さあ、楽しいコミュニケーションを」といくと、まず入り口でつまずくということ。心理的な敷居が高すぎるんです。
日本語版の訳は、英語の元の文とは少し意味が違っていますね。このあたりは、すごく興味深いです。英語の元の文が、shareとdiscoverが同列なのに対して、日本語ではshareすればdiscoverできるという関係になっています。少し啓蒙的です。shareしなけりゃ、discoverなんてできないんだよ、という感じ。
これも文化の違いなんでしょうね。日本では、shareという概念は、どうしても身内の中でのshareという概念になりがち。でも、Googleなんかが代表的ですが、いわゆるWeb2.0的な文脈のshareは、コミュニティ内のシェアではなく、もっとソーシャルに広く、言ってしまえば、ウェブのすべてに広がるshareです。ここでは、前者のshareと後者のshareは、じつは対立概念になります。この少しばかり啓蒙的な日本語の言い回しには、もしかすると、そんな日本人スタッフの思いも少し入っているのかもしれませんね。
第一次Twitterブームの時、ミニブログという文脈で語られて、なんだかよくわかりませんでした。それが、字数制限から、「書く」とか「話す」じゃなく「つぶやく」みたいなキーワードが出て来て、このサービスの魅力が、日本語圏のユーザーに理解しやすくなったような気がします。
今のTwitterブームの前にリリースされた、はてなのミニブログサービスのネーミングは「はてなハイク」です。こちらは、ユーザー層が少し違いますが、それなりに賑わっているようです。そのネーミングも、同じような気分を感じます。「つぶやき」も「ハイク」も内省的。その、ポンと投げ出された内省の言葉が、誰かにピックアップされて、小さなコミュニケーションが始まって、そこからつながりができて、みたいな流れ。
結果的には、どちらのサービスもワイワイと楽しいコミュ二ケーションの場になっていますが、それを伝えるには、ストレートじゃないし、ちょっとじゃまくさい感じだけど、こういう順を追った解釈が日本人にはなじみやすいんでしょうね。(このあたり、外資的なベネフィットステートメントの日本市場での限界と関係があるような気もします。そのあたりは、また別の機会に。)
とまあ、Twitter関連のあれこれをブログにたらたら書く私ですが、私はTwtterユーザーではないんですよね。といっても、よく見ていたりはするし、気になってはいるんですけど、でも、ブログだけで精一杯だし、どうもタイプとしてはブログが合っているような感じでもあるし、時間もないし、余裕ができたら、でも、やっぱり、やったらやったで、私の場合、グダグダかもなあ、という感じです。なんだか投稿も久しぶりだし、せっかくなんで、これまで書いたTwitter関連エントリも置いておきますね。
ではでは。
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コメント
そうか、ツイッターの語源は古文に出てきた「つひたる」ではなかったのですね。
「つひのすみか」になると思っていたのに。(嘘です)
投稿: mistral | 2010年3月25日 (木) 08:51
IT系って、日本語由来のネーミングが多いですね。禅の影響とか、結構あるみたいですよ。
投稿: mb101bold | 2010年3月25日 (木) 09:56
本記事と直接関係ありませんが、吉本隆明との関わりで本ブログに辿り着き、ひとつお願いも含めコメント致します。
私は吉本の熱心な読者ではありませんが、あなたの文章には吉本に対する謙虚な愛情が感じられ多く共感するところです。
そこで、吉本関連の記事を独立したカテゴリーとしてまとめてくれるといいのになと思った次第です。現状は「日記・コラム・つぶやき」かあるいは「書評」の中に括られているようですが、吉本関連の記事のみをざっと一度に読めればと。
これからの記事にも期待するとともに、上記ぜひご検討お願いします(広告の話などには触れず―門外漢なので―ごめんなさい)。
投稿: 通りすがり | 2010年3月26日 (金) 05:03
通りすがりさん。コメント、ありがとうございます。
カテゴリーの件、私は吉本さんの著作をよく理解しているわけではないので「吉本隆明」とカテゴリーを独立させるのはおこがましいなという思いがありましたので、今までタグはつけないでいました。ただ、これまでたくさん書いてきましたし、これからも書くかと思いますので近日中にカテゴリー化したいと思います。しばらくお待ちください。
急場の策としては、右側の下に検索窓があり、プルダウンメニューで「このブログ内で検索」を選択、検索窓に「吉本隆明」と入れていただくと、吉本さん関連エントリが検索されます。少し精度には問題がありますが、なんとか大丈夫かな、と思っています。ご不便をおかけしますが、お試しくださいませ。
今後ともどうぞよろしくお願いします。
投稿: mb101bold | 2010年3月26日 (金) 12:02
僕は管理人さんにもtwitter初めて欲しいです。もし始めてくれたら光の速さでフォローします。
twitterと言っても、結構な偉い人でもどうでもいいことばっかりつぶやくひとと、ブログ記事を分割したようなつぶやきをする人がいます。そのどちらででも、とにかく始めてみないとわからないことあると思います。僕もそうでした。メディア感覚が少し変わったりしても、それは悪い方向には働かないはずです。
@over_try_again でフォローミーです。
投稿: jim | 2010年3月27日 (土) 21:04
mixiでもはてブでも何でもそうだと思いますが、はじめてみないとわからないことは、確かにあると思います。でもまあ、今は余裕がないかな、という感じですね。時期をみてという感じですので、アカウントを取得したら、こちらでもお知らせしますね。
投稿: mb101bold | 2010年3月27日 (土) 21:57
「お知らせしますね」というあたり今すぐ始めるないことには頑な感じですね。。。
今まで通りのブログ記事をtwitterに分割して投稿するだけでも、コメントもしやすいしRTでもっと多くの人に読まれるし、話し合われると思うんだけどなぁ。余裕がないからこそ、始めるエネルギーもありだと思うんですけど。
すいません。。。
投稿: jim | 2010年3月28日 (日) 18:45
いえいえ。
>RTでもっと多くの人に読まれるし、話し合われると思うんだけどなぁ。
これは、もうすでにそうなっている感じです。誰かが、ブログエントリのURLを貼って投稿したものがRTされて、それで広まる、みたいな感じは、ここ最近の傾向ですね。今までは、「はてブ」でしたが、このところはTwitter経由でのアクセスが、このブログに関しては多いようです。
それと、ある種、まとまったカタチでの考え方の提示という意味では、Twitterというメディア形式はちょっとしんどくて、その部分ではブログというメディア形式にはかなり優位性があります。
一方、情報発信の気軽さと情報の拡散という意味では、Twitterはかなりのものがありますね。あと、個に紐付けられているところは、ウェブサービスとしてはわりと理想に近い部分もありますね。
まあ、得手不得手ではないでしょうかね。私のような、ゆっくり自分のペースで考えたい人は、どちらかというとブログで情報発信が向いているような気がします。
それと、私の書くようなものもコンテンツと呼べるとすると、分割して微分化するとコンテンツの意味合いが変わってしまうとも思うし。
>余裕がないからこそ、始めるエネルギーもありだと思うんですけど。
余裕がない、というのにも、人それぞれいろいろな種類があるしね。
投稿: mb101bold | 2010年3月28日 (日) 20:13
通りすがりさん。
吉本さん関連のエントリを「吉本隆明」というカテゴリーにまとめました。どうぞよろしくお願いします。
投稿: mb101bold | 2010年4月 7日 (水) 03:07