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2010年5月 2日 (日)

さよなら八角弁当

 なんかさみしいですね。ゴールデンウィークを前に、大阪の老舗お弁当屋さん「水了軒」が破産。廃業ということになってしまいました。大阪へは夜中に帰って来たので私は見ていませんが、新大阪駅の新幹線乗り場前広場にあった水了軒のお弁当売場は、シャッターが降りたままになっているそうです。

 東京と大阪を行き来するビジネスマンの間では、東の「崎陽軒 シウマイ弁当」、西の「水了軒 八角弁当」として人気がありました。でも、若い人にも人気があったシウマイ弁当に対して、八角弁当は少し年輩の人に好まれていたようです。

 価格も、シウマイ弁当が780円で平均的な駅弁よりも安価なのに対して、八角弁当は1100円。やっぱり、駅弁と言えども1000円を超えると、今の時代、少しきついかもしれません。例えば、980円と1100円は、わずか缶コーヒー1つ分しかかわりませんが、心理的にはやはり大きな差があるでしょうね。それに、新幹線に乗ることが今や特別なことではなくなりましたから。

 八角弁当は、弁当箱が八角形ということ以外、これといった個性がないお弁当でした。こう言うと、なんの取り柄もないお弁当のように聞こえますが、そんなことはまったくなくて、個性がないからこその良さというのが八角弁当にはありました。

 お弁当の中身は、たくさんのおかずが少しずつ。鶏ロース、海老の炊いたもの、焼き魚、なずびの含め煮、筍、そら豆、人参、高野豆腐、蒲鉾、昆布巻き、お豆さん、蒟蒻、椎茸、焼きイカ、穴子の鳴門巻き、ごぼう、お漬物。それに、黒胡麻がパラリとふられ、八つに仕切られた白いごはん。

 これぞという派手なおかずもないし、たこ焼きとか串カツのような大阪名物もなく、個性はまったくないけれど、そのひとつが、ほんと丁寧につくられていて、とてもぜいたくな気分になれるのです。さめてもおいしいというか、さめたときにいちばんおいしくなる、というような味付けで、ある意味では、上方文化の粋が詰まったお弁当でもありました。1100円は高くないと本当に思えました。

 きっと、この八角弁当がつくられた当時は、おせち料理や割烹料理のような華やかさをお弁当に、ということだったのでしょうね。でも、今や列車の旅も当たり前になって、特に東海道新幹線のようなビジネスユースの路線では、その華やかさは時代遅れになってしまったのかもしれません。さみしいですけどね。でも、私も、最近は、ロッテリアのチーズバーガーセットだったりしますし、さみしがってばかりもできないんですけどね。私も、そんな時代に生きる一人の人だったりもします。

 私が八角弁当を知ったのは、東京で仕事をはじめて大阪出張が増えたときでした。重要なプレゼンが終わって、みんなで東京に帰るときに、チームのボスから「今日はお疲れさん。今日はぜいたくしよか。」と八角弁当と缶ビールをごちそうになったんです。

 少量だけど多彩なおかずは、缶ビールのつまみにもちょうどいいんですよね。時代は変わるし、変われば消えるものもある。そんなことはわかってはいるけれど、やっぱり少しさみしくて、どこかの企業が、八角弁当だけでも復活させてくれないかな、という淡い期待もあるにはあるけれど、それでも、なにがなんでも八角弁当を復活させてほしいという気持ちにも、正直言えばなれない自分もいたりもして、とりあえず、ある時代の小さな終焉の記録として、ささやかだけど言葉で残しておこうかな、と思いました。

 さよなら、八角弁当。またどこかで。

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コメント

ちょっと高くて質のいいもの、の時代ではないのですね。
このお弁当のはなしも、先日書いていらした郊外型SCのはなしも、大きな意味ではつながっているように感じます。そういう“ファスト”な流れに世の中が向いているからと言うか…。
いまいちその流れに馴染めずにいます。。

投稿: トミタ | 2010年5月 4日 (火) 01:28

いろいろ複合的な要因があるんでしょうね。で、そういう複合要因をまとめてひと言で言えば、時代が変わった、ということになるんだろうな、と思います。
夜9時14分品川発ののぞみに乗ったのですが、品川駅在来線構内に通称「エキナカ」と言われるデパートがあって、そこでは人気料理店のお弁当が売られてて、それは結構売れているようでした。フカヒレとかグリルハンバーグとか高級点心とか、1点豪華主義の高級弁当でした。価格を1000円から1200円の間で抑えるためか、それとも高級感を出すためか、量が少なめ。新幹線構内で売られている普通のお弁当と棲み分けが見事にあるんですよね。
一方の水了軒は、JRの在来線から新幹線に乗り継ぐ人は購入できないんですよね。駅の外にしか売場がありませんから。で、新幹線構内のお弁当は扱い業者も限られていて、どこも同じものが売っているので、わりと競争原理が働いていないのですが、外は競争原理が働いているんです。なので、競合のお弁当は、熱々の焼き肉弁当とか、大阪を大胆に打ち出した弁当とか、また料理屋さんが店頭で売るつくりたてのお弁当とか、個性派勢揃い。ずいぶん前から、水了軒のお弁当は、乗車前に、いろんな個性派の誘惑を振り切って、わざわざ駅の外にある売場に行くファンの人たちに支えられていました。
今の状況は、多様化と囲い込みによる均一化が同時にせめぎあっているんでしょうね。もちろん、不況下でのデフレっていうのもありますし、ファスト化みたいな流れというのもありますけど、事態はそれだけじゃない、というところが悩ましいところなんでしょうね。
あと、八角弁当のような良さを伝えるのって、ほんとは広告が得意なんですけどね。というか、こういう地味で、商品に広告的部分を盛り込まない、わかりにくい良さっていうのは、広告でしか伝えられないような気がします。

投稿: mb101bold | 2010年5月 4日 (火) 11:44

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