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2010年10月26日 (火)

iPhoneやiPadが売れた理由は、きっとこういうことなんじゃないでしょうか

 iPhoneにも、iPadにも、食指が動かされなかった私がMacBook Airが猛烈に欲しくなって、その理由はなんだろうと考えていて、少しわかったことがあります。Twitterでもやりとりをしながら、自分なりに整理できました。

iMac、MacBook、MacBook Air=クリエイションツール
iPhone、iPad=ビューア・プレイヤー

 きっと、Appleは自社の製品群に対してこういうポジショニングをしているはず。で、私は、職業では制作だし、ウェブの住民としては、ウォッチャーというよりブロガーだったりするので、当然、前者のクリエイションツールとしてのApple製品に興味が持てたりするんだろうな、ということですね。

 essaさんがブログ「アンカテ」の「CGMコンテンツという金鉱の脇でスコップを売る男」というエントリで、こう書いておられます。

 ゴールドラッシュの時に、一番儲けたのは、金鉱の脇でスコップを売る男だったと言うが、アップルは、CGMという金鉱の入口をMacBookで押さえ、出口をiPadで押さえようとしている。

 CGMとかプロシューマとかいうことは、随分前から言われているが、今好調な企業は、アップルに限らず、そういう長期のトレンドを後押しすることで儲けようとしている。商売としてはまっとうなやり方だと思う。CGMという金鉱そのものが新しい富を生み出すことはないが、出口と入口には儲けるチャンスがあったのだ。

 そうなんですよね。ここが、Appleの憎たらしいくらいうまいところで、しかも子供っぽいというか青年っぽいウェブ界隈の企業群の中では、圧倒的に大人なところ。

 私は、大昔から、Windows CEのハンドヘルドPCやモバイルフォンを使って来たけれど、いまいち売れなかった(もちろん市場は作ったし、それは今につながっているわけだから、大きな役割は果たしたとは思うけど)のは、Appleのような大人なポジショニングができなかったことがあったからじゃないかな、と思います。

 つくるほうも、あの非力なOSとマシンで、PCにやれることの限界までやろうとしたし、ユーザーもそれを求めました。今となってはいい思い出ですが、OSの深いところを、よくわからないのにチューンナップして、あれができた、これもできたとよろこんだりして。でも、できたときはうれしいけれど、速度とか容量では実用にはほど遠く、結局はいつもPCに戻ってしまうんですよね。

 それは、W-ZERO3やBlackBerryの小さなQWERTYキーボードが象徴していますよね。あれはあれで便利ではあるんだけど、あの物理キーボードが象徴するものは、クリエイションツールとしてのW-ZERO3、BlackBerryなんだと思います。

 クリエイションツールへの思いを断ち切って、あくまで、基本は、ビューア・プレイヤーというCGMを含めたコンテンツの出口担当デバイスとしたところが、iPhone、iPadが売れた理由なんじゃないでしょうか。

 さらに言えば、Windows Phone 7がいかに優れたインターフェイスと性能を持って、iOSに迫ったとしても、Appleのような明確なポジショニングを持たない限りは、これまでのモバイルがいつも経験して来た「モバイルのジレンマ(あれもできる、これもできる、だけど、それならPCの方がもっとできるし)」という宿命からは逃れられないんじゃないか、と思います。もっとも、いちユーザーとしてはがんばってはほしいんですけどね。

 でも、もう一方で「クラウドコンピューティング」というAndroidに代表される流れもあって、どうなるかは微妙ではありますが、でもまあ、それでもやっぱり、ビューア・プレイヤーとしての明快な位置づけがない限り(クリエイションツールへのすけべ心を振り切らない限り)、個人的にはしんどいんじゃないかと思います。クラウドに期待票とかそういのじゃなくて、冷静にプロの目から見て、どうなんでしょうね。そのあたりは、いまいち疎いのでよくわからないところですが、勘としては、やっぱりしんどいという気がしています。

 それにしても、Appleというか、スティーブ・ジョブズさんは、ほんと憎たらしいですね。この10年のいろいろな栄枯盛衰を見ながら、相当考えたてきたんだろうなあ。

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コメント

ジョブスのコンセプトワークは憎い位見事ですね。
コンテンツを作る側、利用する側に分けて製品化するって、メーカーサイドでは考えて居ませんでしたからね。

利用する側のシステムとしては、シェアを確保したappleと、androidの2本立てで、当分Windowsの入り込む隙は無いでしょうね、マイクロソフトがモバイル用製品として、オフィスの様な、作る、整理すると言う側から抜け出る事を企画しないとね。
かつてのマッキントッシュとMS-DOSの覇権争いが、iOSとandroidの間で繰り広げられるんですね。
androidは低価格への期待と、縛りの無い自由なソフト制作環境が魅力です。
ですから、近い将来は、androidが圧倒的シェアを握ると思います。

まあ、しばらくは目が放せないですね。
 
wowotsuka こと、をたくな講師

投稿: をたくな講師 | 2010年10月26日 (火) 07:46

wowotsukaさんこと、をたくな講師さん、こんばんは。
結果論っぽいですが、Windows CEは、確かにOfficeにこだわりすぎましたよね。ケータイに移植したものでさえ、スタートボタンがあって、アプリを選んでいくとか、インターフェイスもすごくWindowsライクでしたし。ミニWindowsとしか考えてなかったような気がします。
androidは、ケータイ端末メーカーがそこまでのコンセプトを打ち出せるかにかかっているような気もします。Googleって、ネット界隈の子供企業と言うか青年っぽい企業の代表選手だし、Appleのような管理って苦手なような気もします。
だけど、数の論理でAndroidというのも自然かな、とも思うところはありますが。それでも、iOSって、スタイリッシュだし、マジョリティっぽくないから。
しばらくは両陣営の様々な攻防があるんでしょうね。

投稿: mb101bold | 2010年10月26日 (火) 23:54

面白い視点で書かれていて楽しめました。ジョブズのプロダクトに対するこだわりが、ポジショニングに大きく影響を与えていることは間違いなく、こんなものがあったらいいというシンプルな発想でかつ、その実現されたものも非常にシンプルに出来上がっている。でもこれは世の中に出てきたどのITプロダクトも最初はそうであったと思いますが、アップル以外の多くのベンダープロダクトは、マーケットやユーザに媚びるばかりにシンプルな点を忘れたかのように機能付加をしながら脱線して、結局なんだったのか分からないものになっているように思います。アップルは、ジョブズがこのあたりのマネージを最終的にしているのでしょうから今のポジショニングを維持できていると思うのですが、この後はどうなるのか? ジョブズという作る側の顔が見えているので、我々も安心している部分もありますが、 一方、Iphoneとは違う、ある意味作る側の顔が見えないAndoroidの方は、シンプルとは違う多様化する路線がある程度見えてしまっている気がします。私は、
こんな視点で両者を見て行こうと思います。

投稿: Nobby | 2010年10月27日 (水) 13:18

では他の会社が明記した事と同じ事をしていたら成功したか、と言うと必ずしもそうでもない気がする。
ipod時代からのコツコツとした歩みが一番の原因じゃないかな。徐々に徐々にの信頼を積み上げてきた会社ならではの成果だと思うよ。
どんな良機でも、手に取ってもらえなければ屑と化してしまう。

iPhoneは、全く同じものを別の会社が作っていたら確実にzero3と同程度の成果で終わったんじゃないかな?

Androidはまた別の戦略で、「手に取ってもらう機会そのもの」を「対応機種を増やす事」で積み上げている。上記で言ってる人も居るけどジョブズの積み上げてきた事を単純数で積み上げる、数の理論だね。あれはあれで戦略として間違ってはいないと思う。

投稿: wakuwaku | 2010年10月27日 (水) 17:13

>Nobbyさん

やはり、シンプルさっていうのは大事だなあとAppleを見ていて思います。あと、そのシンプルな製品群を俯瞰的に見る目。ひとつひとつのシンプルさと、トータルでとらえることは、一見矛盾するようですが、根元は同じなんでしょうね。
Androidは、ある意味で、Appleとはまったく逆の戦略で、とにかく広まることでシェアを確保し、結果的に「なんでもGoogle化」しようとしている感じがして、そのやり方がプロダクトにからむOSでうまくいくのかどうか、というのが気になります。マジョリティをとったほうが勝ちという意味では、これも正攻法ですが、どうなんでしょうね。でも、こちらのほうは、顔が見えない分、顔が変わってもなんとかなる安定感もあるような。
どちらにしても、両者の比較は興味が尽きないです。

>wakuwakuさん

そうなんですよね。Androidの戦略もありなんです。それは、もうほんとに古典的なやり方。で、両者がネットにおけるコミュニティづくり(自らコミットするという意味でですが)があまり上手ではないのもおもしろいところです。
Appleは広告に熱心で、Googleは最近はやり出しているけれど、あまり積極的ではなかったけれど、ものづくりの基本に、両者とも考えがあると思うんですよね。それをストラテジーと言っても、マーケティングって言ってもいいけれど、悔しいけど、この2つの会社には、学ぶ所は多いなあと思います。

投稿: mb101bold | 2010年10月28日 (木) 02:09

こんちゃ。「純広」で検索してきました。
まだアップルそのものに触ったことのない人間としても、ああいうCMはおkと思います。
ただ…危惧しているのは、こういった記事を書かれるブロガーのほとんどが「売れた理由」だのなんだので、「本当にユーザーなんだろうか」と疑ってしまいます。全部がそうではないとしても、です。仮に、Androidとやらが普及したらそのユーザーはどんなアクションを起こすのでしょうか……。

投稿: ほめぞう | 2010年11月 2日 (火) 00:06

Androidとやらが普及したら、Androidがなぜ普及したかを書くのではないでしょうか。
また、ユーザーじゃなくても売れた理由は書いてもいいとも思います。なので、危惧する必要もあまりないかもです。
「純広」で検索されていらっしゃったとのことですので、PPP関連のことかなあと思いますが、それは別問題として、企業のマーケティング活動の倫理の問題として考えていかないといけないんでしょうね。
でないと、個人メディアの核の部分がだめになっちゃう気がします。ブロガーとして、広告屋として、そこはわりと厳密に考えていきたいと思っています。

投稿: mb101bold | 2010年11月 3日 (水) 02:52

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