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2011年3月18日 (金)

がんばれ、NHK_PRさん。応援してます。

 そもそもの問いが愚問だけど、今、この状況で、広告人として何ができるか、と問われれば、NHK_PRさんみたいなことかな、と答えます。それくらい、NHK_PRさんの中の人の仕事は見事だなあ、と思います。あっ、中の人などいない、でしたよね。失礼しました。

 twitterをやっていない人はわからないかもしれませんが、NHK_PRは、NHK広報局の公式twitterアカウントのこと。NHKの番組の広報ツイートをtwitterで日々届けておられます。twitterのアカウントページの自己紹介は、こんな感じ。

名称 NHK広報局(番宣・広報/ユルいです)

自己紹介 このたびの大きな震災では、皆さん長い緊張状態が続いているようで、様々なところに、イライラと批判と強い口調の言葉が流れています。だからこそ、このアカウントでは出来るだけ日常的なユルいツイートを心がけております。ご批判もあるとは思いますが、ご理解ください。PRはパブリック・リレーションズの略、アイコンはおやつの時間です。

http://twitter.com/NHK_PR

 自己紹介でも書かれているように、今、「批判と強い口調」がtwitterにあふれています。そんな中で、震災発生時から、番組の番宣・広報の枠を超えて、常に有用な情報をツイートしてこられたNHK_PRさんにも「批判と強い口調」が向けられているようです。でも、NHK_PRさんくらいの強者なら、心配は無用。役者が何枚も上。安心して見ていられます。

 震災の発生直後、TLにたくさんのリツイートが飛び込んできました。その中で、私が、ああ、このリツイートは私にとっても役立つし、被災されている方にも役立つだろうな、と思ったのが、たくさんの人にリツイートされたNHK_PRさんのツイートでした。その時は、今よりもちょっとだけユルさひかえめで、最近、少しずついつものユルい感じに戻されているようです。見ていた人はきっと、そうそう、と思っていただけると思いますが、そのモードの見極めとタイミングも見事でした。

 パブリック・リレーションを含めた広告って何かっていうと、つまるところ、コミュニケーションの最適化だと思うんですよね。最適化なんていい感じの言葉を使いましたが、別の言葉で言えば、身も蓋もないけれど、コミュニケーションのコントロール。

 一頃、ホリスティック・コミュニケーションやコミュニケーション・デザインという用語が流行しましたが、なぜ、立体的、全体的にコミュニケーションをデザインしないといけないかというと、それは、これだけ複雑になって、個々人も発信する時代になってきてたら、全体を考えて立体的に情報発信を考えないとコミュニケーションがコントロールできないからでしょ。マスだけ考えても、無理。とりわけコントロールできにくいソーシャルメディアがからむからこそ、今の時代、広告は、コミュニケーション全体をデザインすることが必須なわけです。

 この震災に、広告人として何ができるか。これは、あらかじめ言っておくと愚問です。うちの親父は水道工事をやっていましたが、水道人として何ができるか、という問いに関しては、依頼された仕事を淡々とこなすことしかないわけです。それは、広告人でも同じです。

 それでも、あえてその問いに答えるなら、自分の仕事の範囲で、自分の職業のノウハウを活かす、ということ。

 広告人としてのノウハウ。それは、究極的に言えば、コミュニケーションの最適化、コントロール。コピーやビジュアルは、その手段に過ぎません。広告にコピーやビジュアルが使われるのは、その時に、コミュニケーションの最適化の目的を達成するために有効な手段であるからでしかありません。それだけのことです。

 NHK_PRさんは、会社の求める仕事を超えて、また、所属する日本放送協会も震災時にそれを許して、さらには、支援して、震災時に必要な情報を提供しつづけました。

 その語り口は無駄がなく、気の利いたレトリックもなく、過剰に心を動かすアジテーションでもなく、正しい事実だけを淡々と伝える普通の言葉でした。あの、いつもはユルユルのNHK_PRさんがあえてそうしたのは、きっと、NHK_PRさん自身が、この震災時に、職業人として持つ広告的なノウハウを使って貢献しようと思っていたからでしょう。ここで言う、広告的というのは、NHKの広告になるという意味ではなく、広告的なノウハウを使って、今の状況を最適化し、復興の道筋をつくるということ。だから、どんな見事な広告コピーより、NHK_PRさんの言葉は、力がある言葉でした。NHK広報局は、多くの人がフォローするアカウントです。不特定多数に受動的に伝える、という狭義の広告(アドバタイジング)の要件が揃った中で、そのツイートは、twitterを利用する人たちに、どんな広告よりも「広告的」に届きました。

 私のTLには、必要なときに必要な情報がNHK_PRさんから届いていました。そして、twitterというコミュニケーションの場が、有用な情報を求める場から、この不安で厳しい状況化で毎日をともに生きる人が考え、対話する場になろうとしたとき、淡々とした口調で語られる有用な情報を織り交ぜながらも、いつものユルい語り口に戻りました。その変化が、どれほどの人の心を和ませているか。

 私には、NHK_PRさんが懸命に、コミュニケーションの場を、これからの復興に向けて最適化しているように見えました。それは、自然のままにまかせるのではなく、明らかにコントロールの強い意志が見えます。その意志は、正真正銘、広告人のものです。業務のために、業務を超えて、依頼主である日本のために、広告のノウハウを活かしています。

 NHK_PRさんは、TLに表現されない返信ツイートという手法で、NHK_PRさんを不謹慎だと批判する人に直接きちんと答えています。そのきめの細かさにも、驚かされます。(追記:あらかじめ言っておきますが、逐一答えることが正しいというわけでは決してありません。むしろ、ある一定の割合で起ることとしてスルーするのも正しいやり方のひとつです。また、NHK_PRさんもそのようにお考えでしたが、スルーすると電話で苦情という流れになるので、この時期は特に応答しているとのことです。個人的には、応答により第三者が群になって批判する人を批判し、小さな個人をつぶしてしまうことになりがちなので、現状のtwitterのシステムではできる限りスルーがいいんじゃないかと思っています。また、第三者が叩くのは当事者の望むことではないと思います。)

 広告は、本来的に企業コミュニケーションです。パーソナルなコミュニケーションではありません。なぜなら、企業、つまり公共性を持ったコミュニケーションだからです。あらかじめ属人性は排除された、企業という、法律用語が示すように「法人」が行うコミュニケーションです。NHK_PRさんが「中の人などいない」とおどけながら言うのは、そのいないことになっている中の人が、まさに広告(狭義ではパブリック・リレーション)を行っている自覚からでしょう。

 今、よく言われる話す人が見える企業コミュニケーションの意味は、担当者の顔が見える人ということではなく、その主体たる企業、つまり「法人」に人が見える、感じられるということだと思います。NHK_PRさんのユルさのバランスは、ひとつの理想のように思えます。

 応援しています。同じ広告人として。誰が何を言おうと、NHK_PRさんの行っている仕事は、新しい、明日の「広告」だと思います。同業者として、嫉妬すると同時に、励みになっています。最後に、ひとつだけNHK_PRさんの言葉を引用してこのエントリを終わります。

不謹慎ならあやまります。でも不寛容とは戦います。それでは、あらためてciao!!

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