5月9日の中部電力「浜岡原発停止要請」受け入れを各メディアはどう評価したか(追記あり)
5月6日の要請から3日後の9日、中部電力は菅直人首相の浜岡原発停止要請を受け入れました。二度の取締役会を経ての受け入れ表明でした。この中部電力の受け入れについて関連記事をまとめました。今回は、9日から10日までのおおまかな流れを追っています。6日の首相要請の時点での記事をまとめた前回のエントリをあわせてお読みいただければ、よりわかりやすいかと思います。
■中部電力
中部電力の水野明久社長による会見は、テレビが速報で報じました。また、産経新聞は、質疑応答を含めて、その全文を掲載しています。
「当社は総理大臣からの要請は極めて重いと受け止めている。総理の要請は、福島第1原発の重大事故を契機に社会に広がった原発の不安の高まりを踏まえての判断と理解している。原発は安全確保を最優先に立地地域、社会の信頼で成り立つ事業。当社の浜岡原発も40年の長きにわたり、この基本を軸に社会の信頼に支えられてきた。今後もこの基本を揺るがすことはない。今回、福島原発の事故で、原発の新たな不安が広がった。当社はみなさんの新たな不安を真摯(しんし)に受け止め、安全最優先の原発事業を貫くべきと判断した」
中部電・水野社長会見(1)「安全最優先の原発事業を貫くべきと判断した」 - 産経新聞 2011/05/09
—— 最大電力需給計画では(電力需要のピーク見込みに対する余裕を示す)予備率が厳しい。今後の電力確保は難しいと思うが、見通しは
水野社長「現在の電力需給は非常に厳しい数字が出ている。こうしたことにあらゆる対策を取らないといけない。(他の電力会社に)応援融通のお願いをしないといけないかもしれない。本日、需給対策本部を立ち上げた。とにかく、皆様にご迷惑をかけないよう、最大限、計画停電のようなことをやらないようにする」
中部電・水野社長会見(2)「最大限、計画停電のようなことをやらないようにする」 - 産経新聞 2011/05/09
—— 福島第1原発の事故以降、原発の不安が広がったが、中部電力としては浜岡原発は安全性が確保できているとの自信を示していたと思う。その辺の主張と、国からの指示に対する感想は
水野社長「政府との確認事項の中で、わたしたちの安全対策は適切に実施されているということを経済産業大臣から確認した。ただ、今回はやはり今回の重大事故を受けて、いっそう安心いただくという位置付けだ」
中部電・水野社長会見(3)「現時点で値上げは考えていない」 - 産経新聞 2011/05/09
中部電力のプレスリリース「浜岡原子力発電所の運転停止要請への対応について」のページにリンクされているPDF「浜岡原子力発電所運転停止要請に係る確認事項」には、5つの確認事項が記載されています。その中で、2つ目の確認事項は、前述のコメントとあわせて今回の受け入れにおける中部電力の前提を示すものだと思います。
2 浜岡原子力発電所の安全対策は、法令・技術基準等に基づき適切に実施されており、今回の要請の趣旨は、福島第一原子力発電所の重大事故を受け、国民に一層安心頂くためのものであることを十分に周知して頂きたい。
浜岡原子力発電所運転停止要請に係る確認事項(PDF)- 中部電力 2011/05/09
■NHK・新聞各社
NHKは、当日の「時事公論」で、水野倫之解説委員が、その経緯を含め、かなり詳しい解説をしていました。また、その放送内容は解説委員室ブログに掲載されています。
つまり現状は抜本的な津波対策には程遠いと言えます。さらに浜岡原発に求めた防波堤や防水対策についても、その規模や強度などがあいまいできちんとした基準が示されていません。まずは現在の原発の耐震・津波対策の基準を強化する必要があります。
特に津波に関しては現在の基準はあいまいで「原発の安全機能が重大な影響を受けないように考慮する」としか書かれていません。何mの津波を想定すればよいのか。またその算出方法などについてより具体的な方針を示す必要があります。
時論公論 「浜岡原発 運転停止へ」 - NHK解説委員室ブログ 2011/05/09
新聞各社も翌日の社説等で言及しています。内容としては、コラム的な産経新聞の産経抄を除き、各社、独自の論点で書かれているものの、押さえるべきところは押さえられていて、総花的な印象がありました。社説という性格上、仕方がないことかもしれません。各社がこの問題をどう評価し提言しているかは、本文以上に見出しが示しているように思えました。
「最も危険」と言われる浜岡原発を止める判断は、福島第一原発の危険な状態が続く中、首都圏や中京圏にも及ぶ住民の不安を思えば無理もない。
だが、あまりにも唐突な要請だった。浜岡さえ止めればそれでよし、あとは今までのままで、将来の危険回避は本当に可能なのか。浜岡への停止要請も、その場しのぎと見られても仕方ない。
「浜岡」停止 他の原発も検証したい - 中日新聞 社説
中部地方は自動車産業を中心に製造業が集積している地域だ。東日本の電力不足から、中部地方への生産移管を進めている企業もあるだろう。浜岡原発の運転停止は、そうした企業に影響するかもしれない。
東日本大震災によって日本経済は大きな打撃を受けた。電力不足の影響がそれに拍車をかけないように、電力会社間の融通も含めて、電力確保に全力を尽くしてほしい。
浜岡運転停止 電力不足を招かぬよう - 毎日新聞 社説
だが、首相の要請は事前調整もなく、あまりにも唐突だった。
国のエネルギー戦略の柱である原発の将来を左右する政策を提起したのに、政府として正式な決定も行っていない。
単なる行政上の要請では、株主などに責任を負う民間企業として判断に迷う事態だろう。中部電力が2度にわたって取締役会を開いた末に受け入れたことを見ても、苦渋の決断だった。
今回の首相要請は、政治主導のあり方としても、大きな課題を残したといえよう。
原発停止決断 丁寧な首相説明が欲しかった - 読売新聞 社説
安全対策で忘れてならないのは、一つのことに目を奪われてはならぬということだ。
福島第一原発は、それまで関心の低かった津波によって予想外の大打撃を受けた。浜岡で、その逆の愚をおかしてはならない。地震の揺れを忘れまい。
日本列島周辺の地震の仕組みや危険度については年々、新しいことがわかってきている。新知識をとり込みながら、原発を動かすか止めるかを決める。
そういう柔軟な原発政策が、いま求められている。
浜岡原発—津波だけではない - 朝日新聞 社説
首相から要請のあった翌日の7日に中部電が開いた臨時取締役会では結論を持ち越していた。浜岡原発を止めれば、業績や地域の雇用に大きな影響が出るおそれがある。株主や自治体などへの説明責任から、協議に時間をかけたのは当然だろう。
浜岡原発停止の影響を政府と中部電は最小限に抑える必要がある。中部電管内は自動車や工作機械などの工場が集まり、電力需要に占める産業用の比率が5割弱と高い。企業の生産活動の停滞を防ぐため、中部電は休止中の火力発電所の再稼働など電力の供給力確保を急いでほしい。
浜岡原発停止の影響を最小限に抑えよ - 日経新聞
▼中部電力は今後、原発を火力に切り替えるコストアップなどで、業績の悪化は免れない。いや影響は、管内の産業全体に及び、生産拠点を西日本に移す企業も出てくるかもしれない。国内ならまだしも、海外へ流出する動きが広がれば、東日本大震災で大打撃を受けた日本経済を、さらなる地盤沈下に追い込みかねない。
産経抄 - 産経新聞
■政府
社説でも触れられていましたが、今回の停止要請は、閣議決定された停止命令ではなく、あくまで内閣総理大臣の要請として出されたこともあり、以下のような「ありがたく思う」というコメントになったようです。
「中部電力が早い段階で要請を受け入れていただき、ありがたく思う。」
「今回、東京電力福島第一原子力発電所で大きな事故が起きたことによって、西暦2030年までに総電力に占める原子力発電の割合を50%以上とした従来のエネルギー基本計画はいったん白紙に戻して議論する必要がある」
首相 エネルギー計画は白紙に - NHKニュース 2011/05/10
国の原子力委員会は10日に開いた会合で、福島第一原発の事故を受けた当面の対応について見解をまとめました。この中で原子力委員会は、今回の事故の結果、原子力発電を取り巻く社会環境は大きく変化したとして、事故の調査結果を待たずに、今後の原子力政策に関して考慮が必要な重要な課題の整理を始めるとしています。そのうえで、エネルギー源としてのリスクやコストなどを踏まえ、今後、20年から30年を見据えた原子力発電の役割について各界の有識者から聞き取りを行い、再検討を行うとしています。
原子力委 原発の役割を再検討 - NHKニュース 2011/05/10
今回は、あえて個人ブログの関連エントリ、twitterのツイートは省略しました。理由は、2つあります。ひとつは、今回の受け入れに関しては、突然の首相要請のインパクトが大きすぎたためか、それとも、要請の時点で、主要な論点が出てしまったためか、あまり反応がなかったこと。そして、もうひとつは、私のような、あまりこの問題に詳しいとは言えない人が、これからじっくりと考え、論議していくための基礎資料としたかったことがあります。
このエントリを作成している12日現在の状況を考えたとき、個人ブログの関連エントリ、twitterのツイートを含めてしまうと、複雑になりすぎるのではないかと思ったからです。そういう意味では、個人を含めた各分野の人たちの反応が意味を持った6日の時点とは少し状況が違うという認識です。
一個人としては、この問題についてどう考えるのかは、どれだけ自分が非力であっても、自分の頭で考えたい。そのために、いろいろな論者の意見は参考にはするのですが、どの意見を参考にするのかは、自分で選択をしたい。同じように考える人たちが、できるかぎりニュートラルに基礎資料として参照できるエントリをつくりたかった。なによりも、自分自身がそんな基礎資料をほしいと思った。
ニュートラルなんて立場があるかどうかはともかくとして、今回の趣旨のようなエントリをつくるにあたって、自分も含めて、イデオロギーを出来る限り排除していくことは、限定的に目指すことはできるのではないか、そんなふうに思いました。この部分は、私の甘さでもあるし、ここについては異論はあるかもしれませんね。
追ってみてわかったことがひとつありました。
原子力政策が国により決定され、その政策方針に従って、民間企業である各電力会社が推進していったという経緯による複雑さが、この問題にはあるんですよね。これは、これからもずっと尾を引きそうな気がします。
また、そのこととも関連しているのかもしれませんが、法的、政治的な手順としてはかなりの問題を含んでいる「首相の要請」というかたちになってしまったことが、国民の「安全・安心」を確保するためとはいえ、やはり気にかかります。多くの人が望んでいたであろう「要請」であったにしても、政治への「信頼」という意味では、かなりの禁じ手だったような気も。それゆえの、敬意、賛意、驚き、戸惑いといった様々な反応だったのだろうと思います。将来の「安全・安心」の問題と同じように、重く残りました。
■なぜ「要請」だったのか(追記1)
ガジェット通信が、政策工房ニューズレターの原稿を紹介するかたちで、なぜ「要請」だったかの理由を解説しています。
「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(原子炉等規制法)では、原発を設置する事業者に対し、
○原子炉を設置する際の許可
○使用前検査(技術上の基準適合が求められる)
○毎年1回の定期検査(技術上の基準適合が求められる)
などの規制を設けている。
技術上の基準などへの違反が明らかになった場合には、「使用停止命令」の規定(36条)もある。
だが、浜岡のケースでは、基準違反があったわけではなく、国の定めた基準にはすべて適合。「それでも、政府として改めて考え直すに、現状では対策が不十分だった」という理由だったため、法令上の「使用停止命令」は発動できず、「要請」しかできなかったわけだ。
浜岡原発停止はなぜ「要請」だったのか? - ガジェット通信 2011/5/12(原稿は政策工房ニューズレターのメールマガジンのもの)
また、この原稿では
その中で、「問題があったのは福島と浜岡だけで、ほかは大丈夫」とだけ言われても、納得感はない。「本来、適用されているべきだった基準」を示し、すべての原発を対象に、基準適合状況を明らかにすることが筋ではないか。
と続いています。その「筋」で基準を作成し法制化するとなると、かなりの時間がかかってしまいます。今回の「要請」は、中部電力が「極めて重い」と語り、新聞各紙が受け入れを「無理もない(中日新聞)」、「やむを得ない選択(読売新聞)」と言うように、緊急性を要する今の状況としては、現行法が現実を反映していない現状の中でのぎりぎりの選択だった、という見方もできるのかもしれません。
■福島第一原発の現状(追記2)
一方、東京電力の福島第一原発は、12日現在も深刻な状況が続いていています。
東京電力は12日、東日本大震災で爆発事故を起こした福島第一原発1号機の核燃料が溶けて原子炉圧力容器の底にたまって穴が開き、水が漏れていることを 明らかにした。燃料を冷やすために入れている水が圧力容器の2割以下しかたまっていなかった。溶けた燃料が格納容器に漏れ出ている可能性も否定できないと しており、今後の原子炉の冷却作業は大幅に遅れる見通しだ。
東電はこれまで、1号機の原子炉の核燃料の損傷度を55%とし、燃料を覆う被覆管が損傷して燃料の一部が溶けているが、燃料集合体としての形は維持していると説明していた。燃料が溶けて本来の形を維持していない状態と認めたのは初めて。
核燃料の大半溶け圧力容器に穴 1号機、冷却に影響も - 朝日新聞 2011/5/12
この事態に対しての小出裕章・京都大学原子炉実験所助教による解説がビデオニュース・ドットコムに掲載されました。あわせて読むと、現状がより理解しやすくなると思いますので引用します。
溶融して圧力容器の底にたまった核燃料が、既に圧力容器の底を突き破り、格納容器の底にたまっている可能性が高いことを指摘する。
「もしそうだとすれば、われわれが注視しなければならないのは、格納容器の底部の温度ということになる。圧力容器には核燃料が残っていない可能性が高いのだから、圧力容器の温度をチェックしても意味がない」と小出氏は語った。
その上で小出氏は、核燃料が格納容器の底にわずかに溜まった水の中に「あんパン状態」で沈んでいるか、もしくは更にその外側に溶けて漏れ出している可能性も否定できないとの見方を示す。
これにより外部への放射能漏れは更に深刻化する可能性が高いが、もはや圧力容器にも格納容器にもほとんど水が入っていないことから、これまで小出氏が「最悪の事態」として恐れてきた水蒸気爆発は、結果的に避けられたのではないかと言う。
空焚き1号機は溶融した核燃料が圧力容器の外に 小出裕章・京都大学原子炉実験所助教に聞く - ビデオニュース・ドットコム 2011/5/12
13日になって、また動きがありましたので、さらに追記です。先の朝日の記事は12日13時46分の記事で、その中で
また、経済産業省原子力安全・保安院も、燃料が溶けて圧力容器の底にたまる「メルトダウン」が1号機で起きた可能性が否定できないとしている。
核燃料の大半溶け圧力容器に穴 1号機、冷却に影響も - 朝日新聞 2011/5/12
と書かれていましたが、12日夕方に記者会見があり、東京電力より、さらに詳細な現状の報告があったとのことです。やはり、1号機で核燃料の「メルトダウン(炉心溶融)」が起きていました。
東電の松本純一原子力立地本部長代理は同日夕の記者会見で「燃料が形状を維持せず、圧力容器下部に崩れ落ちた状態」と現状を説明し、メルトダウンを認めた。
東電によると、1号機では現在、燃料を冷却するため圧力容器内への注水(毎時約8トン)が続き、累積注水量はすでに1万立方メートルを超えてい る。ところが、10日に圧力容器の水位計を調整した結果、冷却水の水位が容器の底部から最大4メートル程度しかないことが判明。この漏水量から圧力容器の 損傷を計算したところ、直径数センチの穴に相当することが分かった。
福島第一原発1号機「メルトダウン」漏水も - 読売新聞 2011/5/13
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