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2011年5月の2件の記事

2011年5月12日 (木)

5月9日の中部電力「浜岡原発停止要請」受け入れを各メディアはどう評価したか(追記あり)

 5月6日の要請から3日後の9日、中部電力は菅直人首相の浜岡原発停止要請を受け入れました。二度の取締役会を経ての受け入れ表明でした。この中部電力の受け入れについて関連記事をまとめました。今回は、9日から10日までのおおまかな流れを追っています。6日の首相要請の時点での記事をまとめた前回のエントリをあわせてお読みいただければ、よりわかりやすいかと思います。

■中部電力

 中部電力の水野明久社長による会見は、テレビが速報で報じました。また、産経新聞は、質疑応答を含めて、その全文を掲載しています。

 「当社は総理大臣からの要請は極めて重いと受け止めている。総理の要請は、福島第1原発の重大事故を契機に社会に広がった原発の不安の高まりを踏まえての判断と理解している。原発は安全確保を最優先に立地地域、社会の信頼で成り立つ事業。当社の浜岡原発も40年の長きにわたり、この基本を軸に社会の信頼に支えられてきた。今後もこの基本を揺るがすことはない。今回、福島原発の事故で、原発の新たな不安が広がった。当社はみなさんの新たな不安を真摯(しんし)に受け止め、安全最優先の原発事業を貫くべきと判断した」
中部電・水野社長会見(1)「安全最優先の原発事業を貫くべきと判断した」 - 産経新聞 2011/05/09

 —— 最大電力需給計画では(電力需要のピーク見込みに対する余裕を示す)予備率が厳しい。今後の電力確保は難しいと思うが、見通しは
 水野社長「現在の電力需給は非常に厳しい数字が出ている。こうしたことにあらゆる対策を取らないといけない。(他の電力会社に)応援融通のお願いをしないといけないかもしれない。本日、需給対策本部を立ち上げた。とにかく、皆様にご迷惑をかけないよう、最大限、計画停電のようなことをやらないようにする」
中部電・水野社長会見(2)「最大限、計画停電のようなことをやらないようにする」 - 産経新聞 2011/05/09

 —— 福島第1原発の事故以降、原発の不安が広がったが、中部電力としては浜岡原発は安全性が確保できているとの自信を示していたと思う。その辺の主張と、国からの指示に対する感想は
 水野社長「政府との確認事項の中で、わたしたちの安全対策は適切に実施されているということを経済産業大臣から確認した。ただ、今回はやはり今回の重大事故を受けて、いっそう安心いただくという位置付けだ」
中部電・水野社長会見(3)「現時点で値上げは考えていない」 - 産経新聞 2011/05/09

 中部電力のプレスリリース「浜岡原子力発電所の運転停止要請への対応について」のページにリンクされているPDF「浜岡原子力発電所運転停止要請に係る確認事項」には、5つの確認事項が記載されています。その中で、2つ目の確認事項は、前述のコメントとあわせて今回の受け入れにおける中部電力の前提を示すものだと思います。

2 浜岡原子力発電所の安全対策は、法令・技術基準等に基づき適切に実施されており、今回の要請の趣旨は、福島第一原子力発電所の重大事故を受け、国民に一層安心頂くためのものであることを十分に周知して頂きたい。
浜岡原子力発電所運転停止要請に係る確認事項(PDF)- 中部電力 2011/05/09

■NHK・新聞各社

 NHKは、当日の「時事公論」で、水野倫之解説委員が、その経緯を含め、かなり詳しい解説をしていました。また、その放送内容は解説委員室ブログに掲載されています。

つまり現状は抜本的な津波対策には程遠いと言えます。さらに浜岡原発に求めた防波堤や防水対策についても、その規模や強度などがあいまいできちんとした基準が示されていません。まずは現在の原発の耐震・津波対策の基準を強化する必要があります。
特に津波に関しては現在の基準はあいまいで「原発の安全機能が重大な影響を受けないように考慮する」としか書かれていません。何mの津波を想定すればよいのか。またその算出方法などについてより具体的な方針を示す必要があります。
時論公論 「浜岡原発 運転停止へ」 - NHK解説委員室ブログ 2011/05/09

 新聞各社も翌日の社説等で言及しています。内容としては、コラム的な産経新聞の産経抄を除き、各社、独自の論点で書かれているものの、押さえるべきところは押さえられていて、総花的な印象がありました。社説という性格上、仕方がないことかもしれません。各社がこの問題をどう評価し提言しているかは、本文以上に見出しが示しているように思えました。

 「最も危険」と言われる浜岡原発を止める判断は、福島第一原発の危険な状態が続く中、首都圏や中京圏にも及ぶ住民の不安を思えば無理もない。
 だが、あまりにも唐突な要請だった。浜岡さえ止めればそれでよし、あとは今までのままで、将来の危険回避は本当に可能なのか。浜岡への停止要請も、その場しのぎと見られても仕方ない。
「浜岡」停止 他の原発も検証したい - 中日新聞 社説

 中部地方は自動車産業を中心に製造業が集積している地域だ。東日本の電力不足から、中部地方への生産移管を進めている企業もあるだろう。浜岡原発の運転停止は、そうした企業に影響するかもしれない。
 東日本大震災によって日本経済は大きな打撃を受けた。電力不足の影響がそれに拍車をかけないように、電力会社間の融通も含めて、電力確保に全力を尽くしてほしい。
浜岡運転停止 電力不足を招かぬよう - 毎日新聞 社説

 だが、首相の要請は事前調整もなく、あまりにも唐突だった。
 国のエネルギー戦略の柱である原発の将来を左右する政策を提起したのに、政府として正式な決定も行っていない。
 単なる行政上の要請では、株主などに責任を負う民間企業として判断に迷う事態だろう。中部電力が2度にわたって取締役会を開いた末に受け入れたことを見ても、苦渋の決断だった。
 今回の首相要請は、政治主導のあり方としても、大きな課題を残したといえよう。
原発停止決断 丁寧な首相説明が欲しかった - 読売新聞 社説

 安全対策で忘れてならないのは、一つのことに目を奪われてはならぬということだ。
 福島第一原発は、それまで関心の低かった津波によって予想外の大打撃を受けた。浜岡で、その逆の愚をおかしてはならない。地震の揺れを忘れまい。
 日本列島周辺の地震の仕組みや危険度については年々、新しいことがわかってきている。新知識をとり込みながら、原発を動かすか止めるかを決める。
 そういう柔軟な原発政策が、いま求められている。
浜岡原発—津波だけではない - 朝日新聞 社説

 首相から要請のあった翌日の7日に中部電が開いた臨時取締役会では結論を持ち越していた。浜岡原発を止めれば、業績や地域の雇用に大きな影響が出るおそれがある。株主や自治体などへの説明責任から、協議に時間をかけたのは当然だろう。
 浜岡原発停止の影響を政府と中部電は最小限に抑える必要がある。中部電管内は自動車や工作機械などの工場が集まり、電力需要に占める産業用の比率が5割弱と高い。企業の生産活動の停滞を防ぐため、中部電は休止中の火力発電所の再稼働など電力の供給力確保を急いでほしい。
浜岡原発停止の影響を最小限に抑えよ - 日経新聞

 ▼中部電力は今後、原発を火力に切り替えるコストアップなどで、業績の悪化は免れない。いや影響は、管内の産業全体に及び、生産拠点を西日本に移す企業も出てくるかもしれない。国内ならまだしも、海外へ流出する動きが広がれば、東日本大震災で大打撃を受けた日本経済を、さらなる地盤沈下に追い込みかねない。
産経抄 - 産経新聞

■政府

 社説でも触れられていましたが、今回の停止要請は、閣議決定された停止命令ではなく、あくまで内閣総理大臣の要請として出されたこともあり、以下のような「ありがたく思う」というコメントになったようです。

 「中部電力が早い段階で要請を受け入れていただき、ありがたく思う。」
 「今回、東京電力福島第一原子力発電所で大きな事故が起きたことによって、西暦2030年までに総電力に占める原子力発電の割合を50%以上とした従来のエネルギー基本計画はいったん白紙に戻して議論する必要がある」
首相 エネルギー計画は白紙に - NHKニュース 2011/05/10

国の原子力委員会は10日に開いた会合で、福島第一原発の事故を受けた当面の対応について見解をまとめました。この中で原子力委員会は、今回の事故の結果、原子力発電を取り巻く社会環境は大きく変化したとして、事故の調査結果を待たずに、今後の原子力政策に関して考慮が必要な重要な課題の整理を始めるとしています。そのうえで、エネルギー源としてのリスクやコストなどを踏まえ、今後、20年から30年を見据えた原子力発電の役割について各界の有識者から聞き取りを行い、再検討を行うとしています。
原子力委 原発の役割を再検討 - NHKニュース 2011/05/10

 今回は、あえて個人ブログの関連エントリ、twitterのツイートは省略しました。理由は、2つあります。ひとつは、今回の受け入れに関しては、突然の首相要請のインパクトが大きすぎたためか、それとも、要請の時点で、主要な論点が出てしまったためか、あまり反応がなかったこと。そして、もうひとつは、私のような、あまりこの問題に詳しいとは言えない人が、これからじっくりと考え、論議していくための基礎資料としたかったことがあります。

 このエントリを作成している12日現在の状況を考えたとき、個人ブログの関連エントリ、twitterのツイートを含めてしまうと、複雑になりすぎるのではないかと思ったからです。そういう意味では、個人を含めた各分野の人たちの反応が意味を持った6日の時点とは少し状況が違うという認識です。

 一個人としては、この問題についてどう考えるのかは、どれだけ自分が非力であっても、自分の頭で考えたい。そのために、いろいろな論者の意見は参考にはするのですが、どの意見を参考にするのかは、自分で選択をしたい。同じように考える人たちが、できるかぎりニュートラルに基礎資料として参照できるエントリをつくりたかった。なによりも、自分自身がそんな基礎資料をほしいと思った。

 ニュートラルなんて立場があるかどうかはともかくとして、今回の趣旨のようなエントリをつくるにあたって、自分も含めて、イデオロギーを出来る限り排除していくことは、限定的に目指すことはできるのではないか、そんなふうに思いました。この部分は、私の甘さでもあるし、ここについては異論はあるかもしれませんね。

 追ってみてわかったことがひとつありました。

 原子力政策が国により決定され、その政策方針に従って、民間企業である各電力会社が推進していったという経緯による複雑さが、この問題にはあるんですよね。これは、これからもずっと尾を引きそうな気がします。

 また、そのこととも関連しているのかもしれませんが、法的、政治的な手順としてはかなりの問題を含んでいる「首相の要請」というかたちになってしまったことが、国民の「安全・安心」を確保するためとはいえ、やはり気にかかります。多くの人が望んでいたであろう「要請」であったにしても、政治への「信頼」という意味では、かなりの禁じ手だったような気も。それゆえの、敬意、賛意、驚き、戸惑いといった様々な反応だったのだろうと思います。将来の「安全・安心」の問題と同じように、重く残りました。

■なぜ「要請」だったのか(追記1)

 ガジェット通信が、政策工房ニューズレターの原稿を紹介するかたちで、なぜ「要請」だったかの理由を解説しています。

 「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(原子炉等規制法)では、原発を設置する事業者に対し、
○原子炉を設置する際の許可
○使用前検査(技術上の基準適合が求められる)
○毎年1回の定期検査(技術上の基準適合が求められる)
などの規制を設けている。
技術上の基準などへの違反が明らかになった場合には、「使用停止命令」の規定(36条)もある。
 だが、浜岡のケースでは、基準違反があったわけではなく、国の定めた基準にはすべて適合。「それでも、政府として改めて考え直すに、現状では対策が不十分だった」という理由だったため、法令上の「使用停止命令」は発動できず、「要請」しかできなかったわけだ。
浜岡原発停止はなぜ「要請」だったのか? - ガジェット通信 2011/5/12(原稿は政策工房ニューズレターのメールマガジンのもの)

 また、この原稿では

 その中で、「問題があったのは福島と浜岡だけで、ほかは大丈夫」とだけ言われても、納得感はない。「本来、適用されているべきだった基準」を示し、すべての原発を対象に、基準適合状況を明らかにすることが筋ではないか。

 と続いています。その「筋」で基準を作成し法制化するとなると、かなりの時間がかかってしまいます。今回の「要請」は、中部電力が「極めて重い」と語り、新聞各紙が受け入れを「無理もない(中日新聞)」、「やむを得ない選択(読売新聞)」と言うように、緊急性を要する今の状況としては、現行法が現実を反映していない現状の中でのぎりぎりの選択だった、という見方もできるのかもしれません。

■福島第一原発の現状(追記2)

 一方、東京電力の福島第一原発は、12日現在も深刻な状況が続いていています。

 東京電力は12日、東日本大震災で爆発事故を起こした福島第一原発1号機の核燃料が溶けて原子炉圧力容器の底にたまって穴が開き、水が漏れていることを 明らかにした。燃料を冷やすために入れている水が圧力容器の2割以下しかたまっていなかった。溶けた燃料が格納容器に漏れ出ている可能性も否定できないと しており、今後の原子炉の冷却作業は大幅に遅れる見通しだ。
 東電はこれまで、1号機の原子炉の核燃料の損傷度を55%とし、燃料を覆う被覆管が損傷して燃料の一部が溶けているが、燃料集合体としての形は維持していると説明していた。燃料が溶けて本来の形を維持していない状態と認めたのは初めて。
核燃料の大半溶け圧力容器に穴 1号機、冷却に影響も - 朝日新聞 2011/5/12

 この事態に対しての小出裕章・京都大学原子炉実験所助教による解説がビデオニュース・ドットコムに掲載されました。あわせて読むと、現状がより理解しやすくなると思いますので引用します。

溶融して圧力容器の底にたまった核燃料が、既に圧力容器の底を突き破り、格納容器の底にたまっている可能性が高いことを指摘する。
 「もしそうだとすれば、われわれが注視しなければならないのは、格納容器の底部の温度ということになる。圧力容器には核燃料が残っていない可能性が高いのだから、圧力容器の温度をチェックしても意味がない」と小出氏は語った。
 その上で小出氏は、核燃料が格納容器の底にわずかに溜まった水の中に「あんパン状態」で沈んでいるか、もしくは更にその外側に溶けて漏れ出している可能性も否定できないとの見方を示す。
 これにより外部への放射能漏れは更に深刻化する可能性が高いが、もはや圧力容器にも格納容器にもほとんど水が入っていないことから、これまで小出氏が「最悪の事態」として恐れてきた水蒸気爆発は、結果的に避けられたのではないかと言う。
空焚き1号機は溶融した核燃料が圧力容器の外に 小出裕章・京都大学原子炉実験所助教に聞く - ビデオニュース・ドットコム 2011/5/12

 13日になって、また動きがありましたので、さらに追記です。先の朝日の記事は12日13時46分の記事で、その中で

また、経済産業省原子力安全・保安院も、燃料が溶けて圧力容器の底にたまる「メルトダウン」が1号機で起きた可能性が否定できないとしている。
核燃料の大半溶け圧力容器に穴 1号機、冷却に影響も - 朝日新聞 2011/5/12

 と書かれていましたが、12日夕方に記者会見があり、東京電力より、さらに詳細な現状の報告があったとのことです。やはり、1号機で核燃料の「メルトダウン(炉心溶融)」が起きていました。

 東電の松本純一原子力立地本部長代理は同日夕の記者会見で「燃料が形状を維持せず、圧力容器下部に崩れ落ちた状態」と現状を説明し、メルトダウンを認めた。
 東電によると、1号機では現在、燃料を冷却するため圧力容器内への注水(毎時約8トン)が続き、累積注水量はすでに1万立方メートルを超えてい る。ところが、10日に圧力容器の水位計を調整した結果、冷却水の水位が容器の底部から最大4メートル程度しかないことが判明。この漏水量から圧力容器の 損傷を計算したところ、直径数センチの穴に相当することが分かった。
福島第一原発1号機「メルトダウン」漏水も - 読売新聞 2011/5/13

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2011年5月 8日 (日)

5月6日「浜岡原発停止要請」菅直人首相会見について新聞記事を中心にまとめてみました

 5月6日夜、菅直人首相の会見が行われ、中部電力へ浜岡原発の停止を要請。この模様はテレビのニュースでも生中継されました。新聞各社は、会見から7日の朝刊が届くまでの間にも、多くの重要な記事を各社のポータルサイトに即時配信しました。その記事を逐一眺めていて思ったことがありました。

 起こった出来事としては、菅直人首相の会見だけです。その後に配信された多くの記事は、このひとつの出来事に対しての、様々な人たちの反応や、これから予測される事態について書かれた記事です。そこに書かれている大部分は、たったひとつの停止要請という事実についての、人々が感じた敬意、賛意、驚き、戸惑いです。

 だからこそ、これからの浜岡原発停止措置や原発政策について、それほど原発問題について詳しくない個々人が考えていくうえで、6日夜から7日までに配信された記事は大いに参考になるのではないかと思ったのです。さらに正直に言えば、この問題について詳しく知らない私自身が、このことを考えるうえですごく役に立ったんですね。

 そのひとつひとつを追っていくのは無理にしても、軸としてつなげていくことができれば、よりわかりやすくこの重要な事柄を理解できるようになるのではないか。そんなふうに思ってまとめエントリをつくりました。少し長いですが、リンク先も含めて30分ほどで読めるかと思います。

■立地条件と背景

 NHK科学文化部による図説入りの解説です。

 静岡県御前崎市にある中部電力の浜岡原子力発電所は、地震の規模が、最大でマグニチュード8クラスで、「いつ起きてもおかしくない」と指摘されている東海地震の想定震源域のほぼ真ん中に位置していることから、全国の原発の中でも「地震対策」という面で特に注目を集めてきました。
【ミニ解説・浜岡原発 運転停止要請の背景は】- NHK「かぶん」ブログ

■これまでの流れ

 浜岡原発3号機は、定期検査で運転を停止していました。震災前までは3月中に運転再開の予定が4月上旬になり、それをさらに一時見合わせるという状況でした。

 中部電力は29日、定期検査で運転を停止している浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)3号機について、早ければ4月上旬とみられた運転再開を一時見合わせる方針を明らかにした。海江田万里経済産業相が25日の閣議後記者会見で、定検で停止中の原発を再開するための安全基準のガイドラインを今週をめどにまとめると表明したことに対応する。
浜岡原発3号機、再開見合わせ 国の安全指針策定で - 日本経済新 2011/3/30

 その後、浜岡原発に関して、2013年までに地震・津波対策を完成させる方針を決定。

 中部電力は20日、浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)で新たに実施する地震・津波対策の費用が総額で約300億円に達する見通しであることを明らかにした。地震や津波で電源や冷却機能を失っても炉心や使用済み燃料の損傷を防ぎ、冷却機能を回復させる体制を2013年度までに完了させる方針。
浜岡原発の地震・津波対策費に300億円 中部電力 - 日本経済新聞 2011/4/21

 以前より浜岡原発の停止を主張していた毎日新聞では、こんな記事も配信されていました。

 4月28日朝、首相と関係閣僚が顔をそろえる「経済情勢に関する検討会合」で、出席者の一人が「浜岡原発(中部電力)は止めるべきだ」と発言した。電気事業を所管する経済産業相は反論を避けた。その他の出席者も、不意の問題提起に応答をためらい、沈黙をまもった。議論は回避されたが、政府要人による浜岡原発停止要求は、この問題に敏感な霞が関と電力業界に強い衝撃を与えた。
風知草:再び「浜岡原発」を問う=山田孝男 - 毎日新聞 2011/5/2

 5月5日、海江田万里経済産業相が視察。

海江田経産相は記者団に対し、「(地震や津波に対する)訓練など疑問のある点を指摘した」と述べ、中部電の対策に不十分な点があるとの認識を示した。視察や地元の意見を踏まえて、5月上旬に安全対策に対する評価を示す方針を明らかにした。
経産相:中部電浜岡原発を視察 対策に不十分な点を指摘 - 毎日新聞 2011/5/5

 5月6日夜、菅首相の緊急会見。

 首相として海江田万里経済産業相を通じ、浜岡原発のすべての原子炉の運転停止を中部電力に要請した。国民の安全と安心を考えた結果の判断だ。浜岡原発で重大な事故が発生した場合に、日本社会全体に及ぶ甚大な影響も考慮した。
 文部科学省地震調査研究推進本部の評価では、これから30年以内に浜岡原発の所在地域を震源とするマグニチュード(M)8程度の東海地震が発生する可能性は87%と、極めて切迫している。特別な状況を考慮すれば、東海地震に十分耐えられるよう防潮堤の設置など中長期の対策を確実に実施することが必要だ。対策完成まで、定期検査中で停止中の3号機のみならずすべての原子炉を停止すべきだ。
浜岡原発:菅首相の緊急会見要旨 - 毎日新聞 2011/5/6
菅首相会見全文【浜岡原発関連】 - 静岡新聞 2011/5/6

■会見についての反応

 会見が唐突に行われたこともあって、中部の経済界や地方自治体をはじめ、様々な人から反応がありました。冒頭の記事では、中部電力にも詳しくは知らされていなかったことが語られています。また、その要請の背景や影響について、新聞各社は様々な記事を次々と配信しました。

 突然の菅首相の停止要請に、名古屋市の中部電力本社は、役員らが慌ただしく情報収集に追われるなど騒然とした。
 テレビのニュースで初めて事態を知ったという幹部の一人は、「6日午後に社長に経産相から連絡があったそうだが、それ以外は全く把握できていない」と動揺した様子。
大口電力使用者から、驚きや戸惑いの声…名古屋 - 読売新聞 2011/5/6

 菅直人首相が中部電力浜岡原発の停止要請に踏み切ったのは、東京電力福島第1原発事故が深刻化する中、「非常に高い確率でマグニチュード8程度の地震に見舞われる」(経済産業省幹部)浜岡原発を止めることで、原子力行政を「安全優先」へ転換する姿勢を打ち出すためだ。
浜岡原発:全面停止へ G8前、不信感和らげる狙いも - 毎日新聞 2011/5/6

 続けて記者会見した海江田経済産業相は、中電の水野明久社長に電話で要請し、その際、水野社長からは「最終的返答は保留させていただきたい」との発言があったことを明らかにした。
中部電力社長「返答は保留させていただきたい」 - 読売新聞 2011/5/6

 浜岡原子力発電所の3~5号機が停止することにより、中部電力の電力供給力は、従来計画の2999万キロ・ワットから約2600万キロ・ワット強に低下する見通しだ。
 猛暑だった昨夏の需要ピーク時(2621万キロ・ワット)に比べ余力がほとんどない状態と見られ、夏場に向け、計画停電や節電要請などの需要抑制策を迫られる可能性がある。
浜岡原発、全基停止すると夏場の供給力に不安も - 読売新聞 2011/5/6

 菅首相が中部電力浜岡原子力発電所のすべての原子炉を運転停止する方針を示したことについて、民主党内では「原発に対する国民の不安を意識した、首相の英断だ」(ベテラン議員)と評価する声が上がったが、自民党内では「唐突な発表だ」と戸惑いや反発が広がっており、同党をはじめ、野党は国会で追及する構えだ。
停止要請「英断」「唐突」「党内調整不十分」 - 読売新聞 2011/5/6

 菅首相の突然の記者会見を受けて、浜岡原発の地元自治体は対応に追われた。
 中部電力の安全対策を疑問視する発言をしてきた静岡県の川勝平太知事は午後8時すぎになって「英断に敬意を表します」とコメントを発表。「県としては、省電力、省エネルギー対策にこれまで以上に取り組む」とした。
静岡知事「英断に敬意」 浜岡原発への全炉停止要請 - 朝日新聞 2011/5/6

 中部電力浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)の原子炉を全て停止するよう菅直人首相が6日、中部電力に要請したことについて、地元住民や自治体、関係者の間には戸惑いと歓迎が交錯した。「唐突で人気取り」「交付金に依存する自治体財政はどうなる」と疑問視する向きがある一方、静岡県の川勝平太知事は「英断に敬意を表する」と評価、危険性を訴えてきた市民団体などからも「当然の判断だ」とする声が上がった。
浜岡原発:全面停止へ 「唐突」「英断」…戸惑う地元 - 毎日新聞 2011/5/6

 西川一誠知事は「全国の原発についての基本的な姿勢を示さないまま、部分的に対応していることは到底、県民や国民の理解が得られるものではない」と述べ、全国の原発で多くの課題を抱えたまま浜岡原発だけ対応を示すことに疑問を投げかけた。
福井に困惑広がる - 産経新聞 2011/5/6

 浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)の全面停止が避けられない情勢となり、中部電力は、火力発電などへの切り替えに伴う発電コスト上昇で、2011年度の営業利益が赤字転落する可能性が出てきた。
浜岡原発停止なら、中部電力の赤字避けられず - 読売新聞 2011/5/7

 6日夕、突然発表された中部電力浜岡原発の運転停止要請で、これまで環境問題やエネルギー安全保障の面から「化石燃料だけに依存できない」としてきた日本の原子力政策は真っ向から否定され、関係者に衝撃が走った。菅直人首相が自ら原発を捨て去ったことに、監督官庁の経済産業省幹部からも「海外に誤ったメッセージを送りかねない」との声が上がった。
「なぜ今」「海外に誤ったメッセージ」原発放棄、信頼は失墜 - 産経新聞 2011/5/7

■個人ブログ・ソーシャルメディア

 6日夜に突然会見が行われたこともあって、ブログではそれほど多くの記事は投稿されていなかったようです。私もブロガーでもあるのでわかるのですが、この短時間で自分の考えをまとめて記事にするのは並大抵のことではありません。

その「最大限の対策」の具体的な内容を提示すべきではないのか。「浜岡止めろ」というのが具体的な要請である以上、対価もまた具体的でなければ要請された側も困惑するばかりのはずだ。
News - なぜ浜岡? - 404 Blog Not Found 2011/5/6

福島第一の場合も原子炉建屋の屋上に移設しておけば、福島第二と同じように冷温停止になったはずだ(工費は数百万円だろう)。事故原因は特定されているのだから、それを無視してなんとなく「津波対策をするまで危ない」と考えるのは論理的に間違っている。中部電力は法的根拠のない「要請」を拒否し、保安院の説明を求めるべきだ。
浜岡原発の「停止要請」は非科学的だ - 池田信夫blog 2011/5/6

ようやく浜岡原発の停止を政府が要請した。残りの原発に関してもきちんとしたストレステストをすべきだ。そして自民党としても、今回の政府の要請を評価し、後押しをしなければならない。
全ては監査法人次第か - 河野太郎公式ブログ  2011/5/6

 一方、140字という敷居の低さがあるtwitterでは政治家や評論家、有名ブロガーをはじめ、様々な人たちがツイートをしていました。なお、twitterに関しては、全文引用です。私のアカウントのリツイート画面からの抜粋ですので、この他にもいろいろあったのだと思います。

総理が浜岡原発の停止を要請したことを高く評価。東海地震の可能性は30年で87%。耐震基準について保安院の安全だという判断は出ていない。津波対策はない。2基で240万キロワット。中部電力は3264万キロワット出せる。需要は2000万キロワット以下。停めても夏のピーク時も問題ない
福島瑞穂党首が「浜岡原発を停止しても電力の供給に問題がない」と断言。しかしその根拠となる数字があやふやなので無理矢理聞き出してみました。 - Togetterのまとめ

浜岡の原子炉を止めるのは賛成だよ。福井も、なんの対策もせずに動かし続けていいの? →一ヶ月前の関連エントリ) http://ow.ly/4Ozd3

大地震が予想される地域ということと、東名や東海道新幹線への影響を考えると浜岡が一番危ない。一方の福井は、原発の集積度合いが半端じゃないことと、あそこになんかあったら「京都」が死んじゃうというリスクも。。。              

浜岡の停止要請については賛否両論あるとは思いますが、まずは菅政権がなにかひとつでも「決断をした」という事実に祝意を表したいです。任期中になにかいっこくらいは決めたりしないとねえ。

己惚れ諸君、野次馬諸君、内弁慶諸君、穴隠れ諸君。手探りながらも、この大災難と共に居てくれた自国のリーダーを祝福せよ。

フクシマがこの以上悪化しなくて世界はホッとしている。「保安院はメンバーも集まらなかった」、「水素爆発の可能性を指摘する専門家が一人も居なかった」などの事実が判明した後、私は日本のリーダーはよくやったと思い始めた。菅さんはイライラを露にするのは当然と思った。

今回の首相判断について、「政府内で十分に検討された形跡はなく、支持率低迷に苦しむ政権が反転攻勢のために繰り出した苦肉の策との見方」(読売)も示されているが、国民が評価するのは「動機」ではなく「結果」だ。少なくとも、私は評価する。次回の世論調査で大いに支持率アップすればいい。(続く

続) 国民の安全を最優先にして結果を出すことが国民に評価される、ということを菅首相にも実感してもらえる。安全性が確認できないものはとりあえず止めるようにし、当面の電力不足を最小限にする方策を早急にまとめ、エネルギー政策について「政府内で十分な検討」をして欲しい。

政府には、今後のエネルギー対策と合わせて、雇用の問題を同時並行的に考えてもらう必要がある。原発立地自治体では、原発によって雇用が確保され、地域の経済や人々の生活もかなりの部分原発に依存している。その人たちの生活も考えなければ。

■5月7日付け各紙社説

 各紙、大筋で菅直人首相の停止要請を許容していますが、その先の主張は各紙ともかなり異なっています。しかしながら、方向性が異なっても、その先の説明を政府に求めるという部分は一致しているようです。

 浜岡が全面停止に至れば、全国にあと五十一基ある原発への影響は必至でもある。だがこれを脱原発の始まりと見るのは早い。中電の場合、仮に原発を止めても、供給力に余裕があるとの試算がある。しかし、風力や太陽光など、自然エネルギーによる代替網はまだ確立されていない。産業や市民生活への影響は少なくない。
 これからの電力をどうするか、電気とどう付き合うか。それは、経済活動のあり方や私たち自身のライフスタイルをどう変えていくかということだ。
 私たちは国民的議論のスタートラインに立っている。
「浜岡」停止要請 国民的議論を始めよう - 中日新聞

 東京電力の福島第一原発が想定外の惨事を引き起こした以上、危険性がより具体的に指摘され、「最も危ない」とされている浜岡を動かし続けるのは、国際的にも説明が難しい。日本周辺の地殻変動が活発化しているとの懸念もある。中部電は、発電量に占める原発の割合も低い。首相の停止要請の判断は妥当だ。中部電は速やかに要請を受け入れるべきだ。
浜岡原発―「危ないなら止める」へ - 朝日新聞

 電力不足は震災から立ち直りを目指す産業界に厳しい制約を課す。東海地方は日本のモノづくりの中核的な地域だ。社会や産業への影響を最小限にとどめられるのか。政府は電力需給の実情を踏まえた上で、国民にきちんと説明する責任がある。
浜岡原発停止は丁寧な説明が要る - 日本経済新聞

 政府は、中部電力と協力して対策に万全を期すことが求められる。無論、巨大地震が想定されていない他の地域の原発についても、安全確認が必要だ。
 政府と、電力各社の作業が遅れれば、浜岡原発に限らず各地で原発停止が広がるかもしれない。そうならないよう、政府と電力各社は、対応を急がねばならない。
浜岡原発停止へ 地震と津波対策に万全尽くせ - 読売新聞

 中部電力は東日本大震災を受け、防潮堤の設置など複数の津波対策を計画している。しかし、その対策が終わる前に、東海地震に襲われる恐れは否定できない。南海、東南海地震と連動して起きる恐れもある。
 防潮堤の設置など中長期の対策が終わるまで停止するよう要請したのは妥当な判断だ。首相の決断を評価したい。中部電力も要請に従わざるを得ないのではないか。
浜岡停止要請 首相の決断を評価する - 毎日新聞

 浜岡原発を止めることによる電力供給減対策も、説明は不十分だ。住民らの節電で電力不足を乗り切りたいとしたが、運転停止の期間や再開の見通しなど具体的な説明は聞かれなかった。これでは、国民は国のエネルギー政策そのものを信頼できなくなる。
浜岡停止要請 原発否定につながらぬか - 産経新聞

■現在(5月7日)

 朝日新聞の朝刊の1面では「浜岡原発 全停止へ」という大きな見出しが立ち、「首相の要請受け入れ」と書かれていましたが、受け入れるという方針は決めたものの、最終判断は8日以降に持ち越しとなりました。

中部電は受け入れる方向。停止期間は、中部電が2~3年後の完成を目指す防潮堤新設までとなる見通しだ。
浜岡原発の全原子炉停止へ 首相の要請受け入れ - 朝日新聞  2011/5/7

石原市長は「国が原子力を危険・不安と思うのであれば、浜岡原発だけではなく、全ての原発を見直すべきだ」と述べ、政府の判断を改めて批判した。
「意見聞いていたのか」御前崎市長、突然の発表を批判 浜岡原発の地元 政府の停止要請受け - 日本経済新聞  2011/5/7

 現在、定期検査や東日本大震災の影響で止まっている原発については、運転再開に地元の了解が必要。唐突ともいえる浜岡原発の停止要請の影響は大きく、全国の原発立地地域で再開に慎重な判断を求める声が強まるのは必至だ。
全体像みえぬ電力政策 停止中原発32基、再稼働難航も 首相、浜岡に全面停止要請 - 日本経済新聞   2011/5/7

 中部電力は7日、浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)の全3基の停止を求めた菅直人首相の要請を受け入れる方針を固めた。この日午後に名古屋市の本店で臨時取締役会を開き、停止に向けた協議に入った。最終的な判断は8日以降に持ち越した。
中部電、浜岡原発停止向け協議入り 結論は持ち越し - 朝日新聞  2011/5/7

 中部電が同日発表した声明は以下の通り。
 「経済産業大臣より、昨日(6日)19時に、浜岡原子力発電所の運転停止に関する要請を受けました」
 「本日、臨時取締役会を開催し、浜岡原子力発電所全号機が停止した場合の当社の対応について議論を行いました。具体的には、夏場の供給力、燃料調達の見通し、収支、津波対策への対応など全号機停止による影響を幅広く議論いたしました。しかしながら、検討内容が極めて重要な事項であり、多岐にわたっていること、お客さま、立地地域の皆さま、株主の皆さまをはじめ多くの皆さまへ多大な影響を与えることなどから、継続審議といたしました」
 「当社としては、要請内容について迅速に検討してまいります」
「供給力や津波対策、議論したが…」中部電、結論先送り 浜岡原発の停止要請 取締役会後に声明 - 日本経済新聞  2011/5/7

 すべての新聞記事をリストしたわけではありませんので、もしかすると重要な記事を取りこぼしているかもしれませんが、できる限り細かく、厳密に、ということにこだわってしまうと、この問題についてあまり詳しくない方は、ああ、こういうことなのか、と全体を把握することができなくなってしまいますので、できるだけいろいろな立場の人のリアルな反応を幅広く、という感じでつくりました。

 この時点のいろんな記事のまとめは、今後、事態が進んでいったときにも、きっと役立つと思いますので、あえて6日夜から7日にかけてネットに配信された記事に限定しています。この問題に関して詳しい方や、明確な意見を持っている方からは、ものたりなさや不満はあるかと思いますが、そのあたりはご理解いただければと思っております。

「5月9日の中部電力「浜岡原発停止要請」受け入れを各メディアはどう評価したか」

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