おそばの話
ひさしぶりにとある立ち食いそばのチェーン店に立ち寄ったら、ありゃまあ、おそばがうまなったなあ、と。テーブルに置いてある小さなPOPを見てみると、挽きぐるみの石臼挽きになったとのこと。なるほど、確かに香りが違うね、と言えるほどおそばに詳しくはないのですが、でも、あの値段でこの味はコスパ高いよなあ。はい。そうです。コスパって言いたかっただけです。
私は大阪生まれで、高校まで大阪で過ごしましたので、あまりおそばには親しみがありませんでした。大阪では、立ち食いそばではなく立ち食いうどんと暖簾に書いてあります。もちろんおそばもありますが、あくまでうどん屋なんですよね。
はじめて東京でそばを食べたのは、大学受験の時でした。新宿で、お腹がすいたし何か食べたいなあと思って、地下街をうろうろしてたら、立ち食いそばのお店がありました。食券機を見ると、天ぷら付きの盛りそばが500円。えっ、えらい高いなあ、と思ったけど、まあいいや、と食べてみると、うわっ、これは。そのお店、とある老舗そば屋さんの出店だったんですね。
「なんだこれ、ラーメンみたい。」
今思うと、かなりはずかしいですが、食べて最初に思ったのがこれ。角が立ってて、コシがあって、なんというか、大阪で食べてきたおそばとまったくちがうのです。大阪のおそばって、基本、うどんが飽きたときのものだから、って言い切るのはあれかもですが、まあ、当時はそうでしたから、って言い切るのもどうかと思うけど、まあ、あれです、今でもたいがいのお店では、おそばは色が濃くて細いうどんみたいな感じなのです。
東京の人はおそばを大事にしますよね。私も、そば好きの人に連れられて、老舗の名店に何度か行ったことがあります。中には、ただの盛りなのに、この値段、サーロインステーキが食べられるじゃない、という値段のものもありました。まあ、おそばにはおそばの、サーロインステーキにはサーロインステーキの価値ってものがありますが、それでも、ねえ、いくらなんでも、ねえ。
そんな老舗のおそば屋さんに行くときは、たいがいはお酒を呑みます。つまみに、卵焼きとか板わさとかを頼みます。あと、天抜きとかも。天抜きは、天ぷらそばからおそばを抜いた物で、おいしいです。
そんなおそば屋さんには、メニューに海苔というのがありますよね。木でできた小さな火鉢に引き出しがついていて、その引き出しを引くと海苔が入っています。つまり、暖かい海苔。これがまた高いんですよね。確かに風情がありますが、でも、海苔でしょ、だたの海苔でしょ、どう見ても海苔じゃいですか、そんな言葉が頭の中でループする私は、江戸っ子には一生なれないんでしょうね。
江戸前のおそばは好きだけど、なんかその文化にはなじめない。そんな私のいちばんのお気に入りが山形のおそば。
その中でも、太めに切った田舎そば。冷やし地鶏そばという名物があって、薄口の冷たい出汁に田舎そがばどかんと盛られて、薄切りの地鶏と三つ葉が添えられています。これでもかというそばの香りともにガツガツいくんです。出汁をぜんぶ飲み干して、ああ、うまたっか、そば食ったなあ、満足、満足という感じがとってもいいんです。
東京で生活するようになって、かれこれ20年ほどになります。結論は、うどんはともかく、おそばはこっちのほうが断然うまい。で、大阪に住む親父にこの味を、ということで、一度こちらで生そばを買って、ゆでて食べさせたことがあるんです。
「うーん、これ、あんまり好きやないなあ。もっと柔らかいのがええわ。」
そうかあ、そりゃしゃあないなあ。まあ、味覚は人それぞれ、ということなんでしょうね。では、みなさま、引き続きよい日曜日を。
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