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2012年1月 9日 (月)

おぼっちゃまと横山くん

 昨日の深夜に何気なく見たNHK大阪の「西方笑土 横山たかし・ひろし」が面白かったです。漫才2本を前後にインタビューを挟む形式で、お笑いショーというよりは芸人の魅力を紐解くドキュメンタリーに近い番組でした。

 関西以外の方はあまりご存知ないかもしれませんが、横山たかし・ひろしは大阪松竹芸能所属のベテラン漫才師で、師匠がかの故・横山やすしさん。もともとは吉本興行所属で、横山やすしさんのことでいろいろとあって、松竹に移籍したとのこと。でも、お二人は横山やすしさんのことをとても尊敬されていて、その愛情はこの番組でも「殴られてばっかりで、ほんまつらかったですわ」と話す表情にも愛情が表れていました。横山たかしさんは、やすしさんの出棺のとき「師匠は、漫才の星から地球へ漫才しに来た、漫才星人です」と言って号泣されたそうです。

 横山たかし・ひろしの芸風は、いわゆるホラ吹き漫才。金ラメが敷き詰められたピカピカのスーツを着込んだおぼっちゃまがひたすら金持ち自慢を繰り返し、それを横山くんが激しく突っ込みを入れる。その激しい突っ込みに耐えきれず、おぼっちゃまがついに本当は貧乏であることを白状。赤いハンカチをくわえながら「嗚呼〜!」「辛いのー!」と嘆くのがお決まりのパターン。

 この番組では、前半後半と2つの演目が放送されていて、最初のものは金持ち自慢、後半はおぼっちゃまが総理大臣で、お客さん大臣に任命していくというものでした。特に後半は、横山たかし・ひろし漫才の独壇場でした。「財務大臣任命!あんたにまかせた!」と名指しで言われたお客さんのうれしそうな顔。みんなが求めるお決まりのパターンに落とし込みつつ、ネタそれぞれの展開による笑いの違いも楽しめました。

 横山たかし・ひろしは、若い頃に漫才ブームがあって人気者になるんですね。でも漫才ブームが終わって停滞してしまいます。営業でスナック回りもしていたそうです。おばちゃんだらけの劇場で漫才をしていて、ふと「藤圭子はワシの嫁じゃ〜!」と言ったら、ドッと笑いが起こったんだそうです。横山ひろしさんは、こんなふうに言ってました。

 「そしたらね、お客さんが客席から突っ込んでくれるんですわ。」

 それで、これはいけるとなって、次から次へとホラ話を重ねっていって、それを激しく突っ込む今の芸風ができたとのこと。で、漫才だし「落ち」がいるなあと思って、一転して貧乏になるという展開を思いついたり、服装をわかりやすく燕尾服や金ピカにしたり。

 「もう、昔のままではもうあかんやろと。だから、見せ方を変えたんですわ。やってることは今も昔も同じなんですよ。ただ、見せ方は変えた。」

 あらためて横山たかし・ひろしの漫才を見て発見がありました。ここまで読んで、金ラメスーツのおぼっちゃまがたかしさんかひろしさんかわかる方は関西の方でも案外多くはないのではないでしょうか。私も、じつはあまりよくわかりませんでした。

 というのは、漫才の中では横山たかしさんは「おぼっちゃま」と自ら名乗り、横山ひろしさんは横山たかしさんのことを「おまえ」と呼びます。一方の横山ひろしさんは、横山たかしさんからは、大金持ちのホラ話全開の前半は「横山」、ちょっと嘘がばれかけた中頃は「横山くん」、嘘がばれて貧乏になった最後は「横山さん」と呼ばれるんです。こんな感じです。

「大金持ちのおぼっちゃまじゃ、すまんのー。笑えよー。」
「何言うとるんじゃ、おまえ、それにせもんやないか!」
「それを言うなよ、横山くん!」

 つまり、漫才のコンビ名は横山たかし・ひろしだけど、漫才の中では「おぼっちゃま」と「横山くん」なんですね。たぶん、これは笑いのプロの本能がつくったものなんでしょうけど、漫才だから「落ち」がいると思ったこと、また、ホラ吹きを匿名的な「おぼっちゃま」にして、突っ込みを実名の「横山くん」にしたことは、このホラ吹き芸を10年を超えて今なお面白い生き生きとした芸にするための成立要件のような気がするんですね。

 横山くんは、こんな突っ込みをします。

 「いいかげんなことばかり言いやがって!おまえなあ、よう考えてしゃべれよ!」

 それに対して、おぼっちゃまはこう返します。

 「そないに言うなよ、横山くん。考えてしゃべったらおもろないがな。」

 横山くんは、熱く幸せを語ります。

 「坂を上るんや。坂を上ったら、そこに希望が見えるんや、幸せがあるんや。それが人生やないか。」

 おぼっちゃまは、こう返します。

 「きのうも江坂上ったけど、幸せなんかあれへんかったわ。嗚呼〜、ツライの〜、横山〜!」

 ちなみに、この江坂っていうのは、大阪のだたの地名なんですけど、そこで大爆笑なんですよね。で、お客さんはどちらに共感して笑うのか。たぶん、どちらにも、なんです。よく考えてしゃべらなきゃ、という部分と、よく考えてしゃべったらちっともおもろない、という部分をひとりの人間は持っている。坂を上ったら幸せがあることも、坂を上っても幸せなんかないことも、ひとりの人間はどちらも信じている。血管が浮き上がるくらい真っ赤になって怒る横山くんに、おぼっちゃまは言い、横山くんはこう返します。

 「そんなに気張ってしんどないか。命掛けるな、わずかな金に〜。早死にするぞ。」

 そこで、横山くん。

 「うるさいわっ!」

 なぜ「落ち」がいると思ったのか。なぜ「おぼっちゃま」と「横山くん」という設定にしようと思ったのか。それは、横山たかし・ひろしのご両人に一度じっくり聞いてみたいです。てな「落ち」のないエントリで今回はすみません。この「落ち」がなぜ必要なのかの問題と、この漫才芸に表れている「匿名」と「実名」の問題は、横山たかし・ひろしの芸を超えて、すごく興味深いものだと思うのでいずれあらためて考えてみたいと思っています。では最後に、私が大好きなおぼっちゃまの名台詞を。

 「笑えよ〜!笑うのはただじゃ!」

 ではでは。

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コメント

新人賞以降、泣かず飛ばずの時代を経て再ブレイクしたのが20年前。基本スタイルを変わりなく踏襲し続け爆笑を誘うお二方のキャラはまさに絶品です。コンビ結成半世紀へ向けますます話芸や漫才を究めて頂きたいですね☆

投稿: なにわのヒバゴン | 2013年12月27日 (金) 15:50

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